ブロードウェイに異変!? 『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者でNY在住のりばてぃさんによると、ミュージカル秋の新作の演目に「白人以外、もしくは普通のアメリカ人ではない人々」を主人公とした作品が続々登場しているんだそうです。これをりばてぃさんは「渡辺謙さん効果」と分析しています。
白人中心のブロードウェイに異変か?
毎年6月のトニー賞(Tony Award)後、夏休み期間を経て、例年、秋から新作が続々と登場するニューヨークのブロードウェイ・ミュージカル界に、「もしかして、コレ、渡辺謙さん効果!?」と思わせる異変が起こっている。
どんな異変かと言うと、これまでは、もっぱら、いわゆる白人のアメリカ人が、主役や重要な役を務め、彼らの経験に基づいたミュージカルが主流だったのに、この秋からはじまる新作には、突然、白人ではない、あるいは、普通のアメリカ人ではない人々が主人公や中心人物となるミュージカルが、いくつも登場予定というのである。
例えば、第2次世界大戦中にアメリカにいた日系アメリカ人を描いた
「アレジアンス」(Allegiance、直訳すると「忠誠」の意 )
とか、優秀なキューバ軍人の父のもとに生まれたが、キューバ革命後に家族で米国(マイアミ)に亡命。英語・スペイン語・フランス語に堪能だった為、大学在学中にCIAから語学担当スタッフとしてスカウトされたほど優秀な学生で、後にバンド「ザ・マイアミ・サウンド・マシーン」のヴォーカリストとして人気を得たグロリア・エステファン(Gloria Estefan)の半生をヒット曲と共に描いた
「オン・ユア・フィート」(On Your Feet!)
とか、1930年代のジョージア州で暮らす黒人女性を描いた名作のリバイバルとなる
「カラー・パープル」(The Color Purple)
とか、かつてアル・パチーノ(Al Pacino)などの白人の人気俳優が演じた役を、黒人のジェームズ・アール・ジョーンズ(James Earl Jones)らが演じることになる
「ジン・ゲーム」(The Gin Game)
などの他、エリート予備校に通う黒人、アジア系アメリカ人、南米系アメリカ人、
そして白人という多様な人種の子ども達が活躍する、2003年公開の人気コメディ映画のミュージカル版、
「スクール・オブ・ロック」(School of Rock)
や、さらには、聴覚障害者の苦悩を描いた名作のリバイバルに、実際に耳の聞こえない俳優が役を演じる
「スプリング・アウェイクニング」(Spring Awakening)
といった感じで、これまでにない多様な人々の物語を取り上げたミュージカルが続々とはじまるというのである。
この状況について、ブロードウェイ・ミュージカルの業界団体である「ブロードウェイ・リーグ」(Broadway League)のCharlotte Martin代表は、「少なくても過去10年間の中で、今年はもっとも多様なショーがはじまるシーズンになる。」とコメント。
どうやら、かなり珍しい出来事らしい。
ちなみに、昨シーズン(2014年春から2015年春まで)に新たに公演がはじまった演劇やミュージカルの中で、非白人が主役のものは、35本中、たったの2本しか存在しなかったとのこと。また、その2本とは「Disgraced」と「Holler If Ya Hear Me」で、どちらも経済的な成功にはつながらなかった。
なお、渡辺謙さん主演の「王様と私」は、当初、2015年4~6月までの3ヶ月の予定(ヒットしたためキャストを交代して期間延長上演中)。
さらに付け加えると、近年、ブロードウェイ・ミュージカルの人気は、毎年、チケット売上や集客数の史上最高記録を塗り替え続け、すさまじい状況になっているが、「ブロードウェイ・リーグ」の発表によると、現在、ブロードウェイ・ミュージカルのチケット購入者の80%は、白人とのこと。
つまり、やっているショーの大多数が白人主演、白人中心の物語なだけでなく、観衆の大半も白人になっている、というのが、現在のブロードウェイ・ミュージカルの状況なのだ。
それにも関わらず、急に、突然、この秋から、白人ではない、あるいは、普通のアメリカ人ではない人々が主人公や中心人物となるミュージカルが、いくつも登場するというのである。
〔ご参考〕
● 謙さんも貢献!! 2014-15年期のブロードウェイ・ミュージカルの売上、集客数が史上最高記録を更新!!!
もしかして、コレ、謙さん効果!?
いったい何が起こっているのか?
報道の中には、映画やテレビなどに比べると、演劇やミュージカルの世界は、長年に渡って、取り扱う物語の内容や配役の「多様性が乏しい」という批判があったが、ついに変化が起こってきた…などと報じる記事もある。
その背景には、白人以外のより幅広い客層を取り込もうという業界の狙いもあるとかなんとか書いてあったりするが、それだけの話じゃないだろう。
なぜなら、上述のとおり、ブロードウェイ・ミュージカルは、ここ何年にも渡って、毎年、チケット売上や集客数の史上最高記録を更新し続けている状況で、別に新たな取り組みで幅広い客層を取り込まなくてはならない必要性は、そこまで高くないからだ。
おまけに、映画やテレビとは違って、劇場数に限りがあるため、これ以上、集客数を増やすのはそもそも無理がある。
さらに言えば、ミュージカルは、今やある種の伝統芸能的な位置づけのエンターテインメントになっており、ミュージカルとはこういうものというお約束ができているため、極端にこれまでと違う新たな取り組みをやってみても、お客に好まれず、あまり良い結果につながりにくかったりもする。
だから、実際に、昨シーズンに公演がはじまった新作の中で、非白人が主役のものは、35本中、たったの2本しか存在しなかったわけで、しかも、その2本とも、経済的に成功しなかったりするワケだ。そんな環境で、ついにミュージカルも、映画やテレビなどのように多様性を取り入れはじめたと考えるのには、やや無理があるだろう。
また、この秋からはじまる新作に、突然、白人ではない、あるいは、普通のアメリカ人ではない人々が主人公や中心人物となるミュージカルが、いくつも登場することになった…とは言え、別に、それぞれのミュージカルの制作団体が、事前に打ち合わせしたり、すり合わせをして、こうなったわけじゃないのだ。
これは昔から指摘されているブロードウェイ・ミュージカル業界の課題点の1つでもある。
ブロードウェイ・ミュージカル業界では、新たにはじまるショーが、どのようなものになるのかは、それぞれまったく異なる制作プロセスやスケジュールを経て仕上がってくるため、結果的に、演目が似ていたり、かぶってしまうことがあっても、それを事前に調整したり、コントロールできない。
あるショーは、何年も前から粛々と準備を続けてきたものかもしれないし、別のショーは、急に話がとんとん拍子で進んではじまることになるかもしれない。
常に、ブロードウェイ全体としての作品のバランスには問題がつきまとう。そういう業界なのだ。
だから、みんなで一斉に「多様性が乏しい」という批判を解消するために、非白人、非アメリカ人が主役の物語をやってみよう…なんてことには、まずならないし、なれない。事実上、そういう調整は不可能なのだ。
そうやっていろいろと考えていくと、やっぱり、この異変は、今年2015年4月から上演された渡辺謙さん主演の「王様と私」の影響によるものなんじゃないかなと思えてくる。
以前、詳しく書いたけど、渡辺謙さん主演の「王様と私」は、権威あるトニー賞で9部門にノミネートされ、4部門で最優秀賞を受賞し、特に地元ニューヨークのミュージカル・ファンの間では、大きな話題を呼んだ。
〔ご参考〕
● 謙さんカッコいい!!! NYの住宅街の本屋さんのイベントで渡辺謙さんにお会いしました!!!
「王様と私」は、名作のリバイバルだったが、多くの専門家が予想していた以上に成功したと受け止められたのだろう。
白人のアメリカ人以外が主人公を演じる物語でも、面白いミュージカルは作れるし、実際、ヒットするし、なんだかその方がこれまでにないものができそうという感覚が、意識的にも、無意識的にもブロードウェイ・ミュージカルの制作者の方々や、そして何より、その背後にいて最後にゴーサインを出す投資家の方々の間に広まった結果、こんな異変が起こることになったのではないだろうか。
つまり、この異変も、謙さん効果なのかもしれない。
そうでもなければ、白人主演、白人中心の物語、観衆の大半も白人で、それでずっと大成功を継続中っていう業界で、わざわざリスクとって、これまでと違う試みをやろうとする人々が、こんなに一気にどっと現れたりしないと思う。
とにかく、いずれにしても、ブロードウェイのこの秋からの新作シーズンでは、「多様性」(Diversity)が1つのキーワードになることは間違いなさそうだ。
● This Broadway Season, Diversity Is Front and Center
image by: Denis Makarenko / Shutterstock.com
『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』 より一部抜粋
著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。
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