2014年にロシアがクリミアを併合してから、米国とロシアの戦争が始まるのでは、と噂されています。しかし、国際関係アナリストの北野幸伯さんは「アメリカとロシアの戦争はすでに12年続いている」と言います。その意味とは? 自身のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で詳しく説明しています。
プーチンとアメリカの12年戦争
2014年3月、ロシアがクリミアを併合しました。
その後から現在にいたるまで、
「米ロ新冷戦がはじまった!」「いや、米ロ新冷戦にはならない!」
といった話が巷ではされています。
しかし、世界中でRPEの読者さん(昔からの)だけはご存知です。
アメリカとロシアの戦争は、12年前の03年にはじまったのです。全部詳細に書いたら、一冊本が書けるような話。ですから、ここでは簡潔に書くことにします。
どこで証拠をゲットできるかは、後ほど。
アメリカ一極時代の到来
1991年末、ソ連が崩壊しました。
それまで、世界にはアメリカとソ連、二つの極があった。
二つのうち一つがなくなり、世界には一極しかなくなったのです。
そう、「アメリカ一極時代」到来です。
クリントンの時代、アメリカは「冷戦勝利の美酒」を存分に味わいました。
アメリカに軍事力で対抗できる勢力は存在しない。経済も、ITバブルで一人勝ち。第2次大戦直後の繁栄が戻ってきたようでした。
アメリカ一極時代の陰り
しかし、栄華は長く続きませんでした。
新世紀に入りブッシュの時代になると、すべてがうまくいかなくなります。
まず、ITバブルが崩壊した。
01年には、「9.11」が起こった。
アフガニスタンのタリバン政権は、「9.11の黒幕」とされるビン・ラディンを匿っている。
アメリカは、それを口実にアフガン戦争を開始しました。
02年、ブッシュは、アフガンにつづいてイラク攻撃の準備を開始しました。
しかし、国連安保理常任理事国のフランス、ロシア、中国が反対。ドイツも反対。
それでアメリカは、安保理を無視して一方的に攻撃を開始しました。
プーチン対アメリカの戦争勃発
フセイン政権を速やかに打倒したアメリカ(戦争自体は、それ以後も長く続いたが)。
次に目をつけたのが、ロシアの石油利権でした。
ロシアは2000年から、KGB出身のプーチンが大統領になっています。
03年、エクソン・モービルとシェブロン・テキサコは、ロシアの石油最大手ユコスの買収交渉を行っていました。
アメリカは、資源超大国ロシアの石油最大手を支配下におこうとしていたのです。
プーチンはこれを許すことができず、ユコス社長のホドルコフスキーを逮捕させました。
イラクの石油利権をゲットし、次にロシアの利権を狙ったアメリカの野望は阻止された。
激怒したアメリカの支配者たち。
03年、旧ソ連のグルジアで「バラ革命」を起こし、親米反ロの傀儡政権を樹立しました。
04年、今度は(今また話題の)ウクライナで「オレンジ革命」を起こし、親米反ロの傀儡政権を樹立しました。
05年、中央アジアキルギスで「チューリップ革命」を起こし、親米反ロの傀儡政権を樹立しました。
ロシアの勢力圏である、「旧ソ連諸国」で次々と革命が起こり、「親米反ロの傀儡政権」ができていく。
プーチンは、非常にあせります。
そこで彼は、大きな決断を下すことになります。
そう、中国と組むことにしたのです。
これが05年、いまからちょうど10年前のこと。
中ロは反米で一体化。両国は、「上海協力機構」を育て、「反米の砦化」を行っていくことにしました。
さらに両国は、「ドルを基軸通貨の地位から引きずり落とす」ことで合意。
以後、中ロは、外国政府の高官が来るたびに、「貿易ではドルを使うのを止め、自国通貨を用いましょう」と提案し続けています。
08年にむけて、世界中で「ドル離れのトレンド」が形成されていきました。
グルジア戦争と米ロ休戦
米ロ新冷戦はどんどんヒートアップしていきました。そして、ついに冷戦が実際の戦争に転化します。
それが、08年8月に起こった「ロシア─グルジア戦争」だったのです。
しかし、幸いこの戦争は短期間で終わりました。
なぜかというと、08年9月に「リーマンショック」が起こった。世界は「100年に1度の大不況」に突入していきます。
米ロとも、戦いを続ける余裕がなく、「再起動」の時代になりました。
このとき、ロシアの大統領は、メドベージェフになっています。
09年には、オバマがアメリカ大統領になり、米ロ関係は一層改善されたのです。
プーチンの帰還と米ロ新冷戦再開
12年、メドベージェフの時代は終わり、プーチンが再び大統領になりました。
13年8月、アメリカは、シリア攻撃を画策します。
しかし、プーチンは、これを阻止することに成功します。
オバマは1度「シリアに軍事介入する!」と宣言し、ドタキャンした。いや、「ドタキャンせざるを得ない状況に追い込まれた」のです。
アメリカは、ロシアの隣国ウクライナへの働きかけを強めていきました。
2013年11月、「欧州連合協定調印拒否」を理由に、ウクライナで大規模な反政府デモが起こりました。
2014年2月、クーデターにより親ロシア・ヤヌコビッチ政権崩壊。
2014年3月、プーチン・ロシアは、クリミアを併合し、世界を驚かせました。
アメリカは、日本と欧州を巻き込んで、経済制裁を発動。制裁、原油安、ルーブル安によって、ロシア経済は相当な打撃を被っています。
しかし、依然としてプーチンの支持率は80%台を維持していて、いまのところ政権は安定しています。
それもこれも、要するにロシア国民が、「現在は戦時下にある。俺たちが苦しいのは、全部アメリカのせいだ」という意識で暮らしているからなのです。
そう、プーチンとアメリカの戦争は、「すでに12年続いている」というのが真相。
image by: Wikipedia
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
≪登録はこちら≫