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名門企業の相次ぐ不祥事。なぜ日本企業の劣化が止まらないのか

50年近く経済記者を続けている中で、近年ほどたて続けに企業の不祥事や不正が起きたことはないと嘆く、無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者・嶌さん。今回は、日本人捕虜が建てたウズベキスタンのオペラハウス「ナボイ劇場」のエピソードを取り上げつつ、日本人経営者は今こそ原点に立ち返り、「第二創業」の精神を持つべきだと記しています

経営に魂が入っていない─相次ぐ大手企業の不祥事─

大手企業の不正、不祥事が名門金融機関にまで広がっていた。デフレ脱却の名目で作られた国の低金利融資制度「危機対応業務」を巡り、商工中金が書類改ざんなどの不正をほぼ全店で行なっていたというのだ。商工中金の約22万件の危機対応融資のうち、約5万9,000件、約280億円がこの融資だった。デフレの定義があいまいだったため、貸出を増やすため危機的な状況でない企業にまで低金利融資を行なっていた。

危機対応融資を巡っては、今年4月の第三者委員会による調査で、業績関連書類を改ざんするなどして全国35店で計816件融資額約198億円の不正が発覚した。ただ、調査対象は2万8,000件と92本支店の口座の約1割に過ぎなかったため、今後、残りの全口座を調査するという。商工中金は特別法に基づく特殊会社で中小・零細企業を対象に融資や相談に応じている。現在の社長は経済産業省の元事務次官だ。

この不正融資問題により、社長を含む3人の代表取締役およびコンプライアンス担当の役員2人が辞任することになった。このところ企業の不正やデータ改ざんなどが目立っているが、金融機関がほぼ企業ぐるみで不正融資をしていた例は珍しい。

ここ数年、大手企業による不正が後をたたない。主な事例を拾ってみると商工中金の書類・データ改ざん以外にも以下のような状況が相次いでいる。

相次ぐ不祥事の事例

このほかにもオリンパスの粉飾決算に対し、17年に元社長ら6人に東京地裁が賠償責任として会社に590億円の支払いを命じた。賠償額として過去2番目の高額だった。また、JR北海道では貨物列車の脱線事故後の13年にレールの計測データの改ざんが発覚した事例などもある。

シルクロードの日本人伝説

いずれも一流企業の本業に関わる分野のデータ改ざんや不正で、なおかつ経営陣が関わっていたり、報告があったのに上層部が無視して逆に隠蔽を指示したりするケースもあった。私は50年近く経済分野を主に記者活動を行なっているが、近年ほどたて続けに企業の不祥事不正が起きているのを見たり経験した記憶はほとんどない

日本の企業は技術にすぐれ、仕事が丁寧で責任感も強いことで有名だった。私は2015年に『日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた』(角川書店)と題するノンフィクションを書いた。敗戦時に満州にいた日本の航空工兵が捕虜として中央アジアへ移送され、旧ソ連領だったウズベキスタンの首都・タシケントにビザンティン風の壮麗なオペラハウスナボイ劇場を建設したという秘話である。

敗戦時に中国東北部にいて旧ソ連軍につかまった日本兵の多くはシベリア送りとなり悲惨な捕虜生活を送った人が殆んどだった。しかしタシケントに送られた457人の運命は違った。ロシア革命30周年にあたる1947年11月までにナボイ劇場建設を命じられ、現地のウズベク人と働いたのだ。当時、捕虜収容所内では「どうせ捕虜なんだから適当に仕事をやっておけばいいだろう」という空気が支配的だった。

歴史の恥となる仕事はするな

その時、457人の隊長だった24歳の永田行夫大尉は「確かにそうかもしれない。しかしこの劇場はロシアの三大オペラハウスの一つとして建設されると聞いている。今後数十年も残る劇場と考えると、いい加減なものを作って後世の日本人に笑われ、恥となるような劇場にしてよいのか。ここは日本人の意地と魂手先の器用な技術を生かし逆に歴史に残るような劇場を建設してやろうではないか」と呼びかけ、ウズベク人と一緒に協力し歴史的建造物に仕上げたのだ。

当初、ウズベク人は「捕虜なのになぜあんなに一生懸命働くのだろう。他の工事現場のドイツ人捕虜などは適当にサボリながら働いているらしいのに…」と半分あきれていたという。しかし日本人の働きぶりや知恵の出し方、力を合わせて進める仕事のやり方などをみているうちに、日本人を見る目が変わっていった。そして約束の期限の前となる1947年10月末に、内装にウズベク模様を施した美しい地下1階、地上3階建てのナボイ劇場を完成させたのだ。

この劇場には後日談があり、1960年代のタシケント大地震で官庁街や街の建物はほぼ全壊したがナボイ劇場はビクともせず凛として悠然と建ち続けていた。そのことを知ったウズベク人や中央アジアの人々は日本人の真面目で優れた仕事ぶりを思い出し、改めて感動しナボイ劇場を建てたシルクロードの日本人伝説が今日まで伝わるのだ。そのこともあって中央アジア、特にウズベク人の親日ぶりは今でも大変なもので日本への留学生もきわめて多い。

また劇場の表壁には、「このナボイ劇場は極東から強制移送された数百名の日本人が建設に参加し、その完成に貢献した」という銘板が張られている。当初の旧ソ連時代には日本人ではなく「日本人捕虜」という文字が使われていたが、故カリモフ・ウズベキスタン初代大統領が「ウズベクは日本と戦争していない。だから捕虜という言葉を使うのはやめよう」という考えから書き換えたものだ。

Made in Japanの伝統と精神

こうしたウズベクの日本人伝説からもうかがえるように、日本人の勤勉さや優れた技術納期に間に合わせる約束の精神などが日本人のDNAとして脈々として歴史的に伝わってきたのだ。そのことがまた世界にも知れ渡り、戦後の日本経済発展の大きな原動力になってきたし、世界で「Made in Japan」の製品の信用が続いてきたのである。ウズベクの日本人伝説は、そうした日本人のモノづくりにかける真摯な精神努力を物語るエピソードの典型的な例ともいえる。

最近の大企業の相次ぐ不祥事は、その日本人のモノづくりの伝統がいま壊れつつあるということを示しているのだろうか。不祥事の背景として、グローバル競争が進み新興国とのコスト競争に敗北してきた焦りがあるとか、日本はAI(人口知能)やVR(仮想現実)の取り入れなどに遅れ欧米にも優位に立てなくなっている。さらにはITなど活用方法や新しい技術開発競争にも遅れをとっている──などの点を列挙することも多い。むろん、そうしたコスト競争技術開発競争などの遅れに対する焦りから安易な不祥事に走る例も少なくないだろう。

問題の本質は経営精神にあり

しかし、本当の原因は日本の経営者が自信を喪失しつつあり、真っ当な競争を挑む精神に欠けてきたことにあるのではないかという気がする。いま中小・零細企業をみると新しい技術や発想でスタートアップ(起業)する企業がどんどん出ているし、海外へも挑戦している。大企業はそうしたスタートアップ企業を買収することで自社の弱みをカバーしようとしているようにもみえる。昨今のM&Aの流行の背景にはそんな事情もあるのではないか。

大企業、中堅企業ももっと本来の日本企業の原点の精神に戻り戦後の廃墟の中から立ち上がってきた創業の精神を持つべきだろう。いま企業家に求められているのは「第二創業の気概と実行だ。

(TSR情報 2017年11月1日)

image by: Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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