なぜ前原氏は民進党を破壊したのか。裏ミッションの可能性を読む

 

前原氏はミッションを与えられたのか?

しかしこの問題を、前原氏の馬鹿さ加減ということだけで説明していいのかどうか。朝日新聞は19日付の第一面~第二面にまたがって「検証・民進分裂」の3回連載を始めた。その第1回を読む限りでは、前原氏は民進の100億円の資金と党職員の提供を申し出さえすれば、何の資金も組織も持っていない小池氏は全員合流を呑むのではないかと安易に考えていたようだが、小池氏に「全員は困る。私は憲法と安全保障は絶対に譲らない」とあっさり断られ、それでも未練がましく小池氏にしがみついて行こうとする様子が生々しく描かれている。連載の第2回、第3回でこの辺りがさらに解明されていくのかどうかは知る由もないが、もしかすると前原氏は馬鹿のフリをしていただけで、小池氏が憲法と安全保障で譲らないことなど百も承知、その彼女と組んで「もう1つの改憲政党」を作って自民党と大連立改憲を主導する?──といった妄想に取り憑かれて突っ走った確信犯なのかもしれない。

小池氏は自民党時代、日本会議国会議員懇談会の有力メンバーで、同会の副会長を務めたこともあって、自民党の中でも右寄りだし、核武装の可能性を口にしたこともある超タカ派でもある。

その日本会議に直結するシンクタンク「日本政策研究センター」代表の伊藤哲夫氏は安倍晋三首相が最も信頼するブレーンで、その伊藤氏が描いたのが「9条加憲論」である(「憲法9条は改正可能なのか? 安倍政権の描く『加憲』のシナリオ」)。「一言でいえば『改憲はまず加憲から』という考え方にほかならないが、ただこれは『3分の2』の重要な一角たる公明党の主張に単に適合させる、といった方向性だけに留まらない。むしろ護憲派にこちら側から揺さぶりをかけ、彼らに昨年の(安保法制反対デモの)ような大々的な『統一戦線を容易には形成させないための積極戦略でもある」と、彼は同センターの機関誌『明日への選択』16年9月号で述べていた。それを安倍首相が口移しのようにして、今年5月3日の憲法記念日の機会に公言したのである。

ところで、伊藤氏はなぜその時期にこのアイデアを思いついたのかというと、これは推測にすぎないが、16年夏の民進党代表選に出馬して蓮舫氏と争った前原氏が、その選挙演説で「9条1項、2項は手を着けず、第3項もしくは第10条を付け加えて自衛隊の存在を明確にする」という持論を述べていたので、それを借用したのだろう

改憲派が何のためにそんなまだるっこしい迂回路をとる必要があったのかと言えば、それは伊藤氏が言うように、解釈改憲による集団的自衛権の解禁に対する「昨(15)年の(安保法制反対デモの)ような、(民主系・社民系と共産系と市民系とが大同団結した)大々的な統一戦線を容易に形成させないため」である。その統一戦線の全国的な広がりを背景として、16年夏の参院選で野党4党と市民連合の政策協定に基づく選挙協力が各所で実現したことに、伊藤氏や安倍首相は戦慄したのである。

何とかしてこの流れを遮断しなければならない──と考えていたところへ、うまい具合に、9条加憲論の発案者であり、また「共産党=シロアリ」論を平気で公言するほどの反共派である前原氏が、民進党の代表になった。どこか奥の院の方から、9条改憲反対、安保法制廃止の方向での野党+市民=統一戦線を民進党ごとブチ壊して小池氏と合流して第2改憲政党を作れというミッションが彼に下されたとしても、不思議はないのである。

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