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悪質な神戸製鋼に対して、被害者のJR東海が発した深いメッセージ

我が国を代表する企業のひとつ、神戸製鋼所による品質データ改ざん問題。8月の判明以来次々と明るみになる「不正」に、国内外が騒然となりました。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で世界の鉄道事情にも精通する作家の冷泉さんが、この問題の「被害者」でもあるJR東海が取った対応を紹介するとともにその毅然とした姿勢を高く評価、さらに同社の判断が全世界の被害を受けたメーカーやユーザー、そしてメディアに対して発信したと思われるメッセージを読み解いています。

神戸製鋼問題と新幹線車両を考える

神戸製鋼による納入した製品に関する「品質データの改ざん」という問題は、日本の製造業の国際的信頼を傷つける大きな問題になっています。ちなみに、この事件を日産やスバルの「無資格検査」と並べて批判している記事をよく見かけますが、深刻度のレベルが100倍あるいは1,000倍は違う問題です。

日産やスバルの問題は、センサーなどで高度の品質管理を行って製造された車両を、「日本の公道を走らせる」ためには産業振興とは関係のない「国交省」という役所が指導する旧態依然とした「完成検査」というコストのかかる儀式を経なくてはいけないという、いわば「国内向けにも適用される非関税障壁」です。岩盤規制反対などと言っている人々が、この点を問題視しないのはおかしいと思います。

ですが、これとは違って神戸製鋼の問題は深刻です。納入先に対して商談で合意したスペックに達していない製品を作っておいて、データだけ偽造していたのですから深刻というより悪質です。

これに対してですが、東海道新幹線を運行している東海旅客鉄道JR東海)は、比較的早期に新幹線車両への影響を開示した上で、対策を発表しています。最初の不祥事発覚が10月8日で、JR東海は9日の時点で「該当製品が新幹線車両に使用されている」と発表しています。また詳細なプレスリリースは19日ですから、極めて早いと言って良いでしょう。

その対応ですが、具体的には以下のような内容です。

というものです。そのデータ自体は、企業ノウハウになる部分であると思われ、開示はされていませんが、結論とすれば要するに次のようなことです。

「安全に問題がないことが確認された以上は、即時補修はしない
「だが、スペック不足は明らかなので検修のタイミングで部品交換する」
「そのコストは神戸製鋼に請求する」

ということです。企業としてシンプルではあるが毅然とした姿勢を示したと言えます。こうした姿勢を示した背景には、新幹線の車両を充分に余裕のあるスペックで作ってきたという経営姿勢への自信もあると思いますし、「安全より安心」だという消費者の感情論に乗ってパニックを起こすことへの警鐘も入っていると思います。

このパニックという問題について言えば、消費者が起こすだけでなく最近は、何であっても異常が報道されたら「全商品は回収して廃棄」というような「供給側の投げやりなパニック対応」というのも多いわけです。「どうせ、消費者は客観的な安全では満足しないのだから、コストを払って心理的な安心を確保する方向性しかチョイスはできない」というわけで、昨今の危機管理コンサルの類いは、そのような「事なかれ式」とも「投げやり」とも言える「パニック対応」を推奨してしまうことが多いわけです。

今回の東海道新幹線車両に関しては、そのような「パニックを回避しようという毅然とした姿勢が感じられます。これに加えて、私個人としては、このJR東海の姿勢にはもっと深いメッセージ性を感じるのも事実です。それは、仮にパニックを起こして「全車両の即時検修、即時部品交換」といった対応を取ってしまうと、そうした過剰な反応が日本だけでなく世界に拡大するという懸念です。

そうなれば、東芝がそうであるように、神戸製鋼の企業価値は更に大きく毀損されてしまいます。その上で、仮に同業他社であるJFEや新日鉄住金などでは引き受け切れないとか、そもそも企業存続のためには「リスク選好マネーの調達が必要になるというような事態になってしまったらどうなるでしょうか?

シャープや東芝の例が思い浮かびます。仮に「どうしても出資者が必要」ということで、結果的に「リスクを取って買収ができる」勢力が、海外にしかいないのであれば、神戸製鋼はその独自の技術と一緒に海外の手に渡ってしまう可能性が出てくるわけです。これは国策として避けねばなりません。

神戸製鋼のビジネスは鉄です。アルミなどの軽金属もやっていますが、本業は鉄です。鉄というのは、ソフト化の時代である21世紀の現在であっても、日本にとっては国家そのもの」に違いありません。その一角を担うコベルコの、とりわけ技術が流出するということは何としても回避しなくてはなりません。

そのような最悪の事態は避けなくてはならない、そのためには、一被害者である側として、「パニックは起こさない」けれども「必要な補修を行いその費用の補償は要求する」という明確なメッセージを出すことが最適解、そのような判断を感じるのです。

また、この判断は、同じような「被害」を受けた全世界のメーカーやユーザーに対して、あるいはメディアに対して「問題解決の妥協点を提案しているという見方もできるように思います。

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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