以前掲載した「国民のイライラが大爆発。いま中国で急増する「路怒症」とは?」という記事で中国のドライバー事情を知り、「日本に住んでて良かった」と思われた方も多いかもしれません。しかし、人気メルマガ『伝説の探偵』の著者で現役の探偵である阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんによると、近ごろ日本国内でも「事故ではない交通トラブルが目立つようになった」とのこと。その実態を、ある方の体験をもとにリアルな事例として紹介しています。
事故でもない交通トラブルが目立つ
Aさんは会社帰りに、病院に入院した家族の見舞いをしてから、買い物などの用事を済ませて自家用車で帰路についた。
時刻は19時ごろ。
Aさんは永代通りを北上中、後方の車のライトがアップライトで異様なほどのスピードで近付いてくるのがわかった。永代通りは片側3車線あり、左側1車線は路上駐車している車が多い。
Aさんは、方向指示器を左側につけ、後方の車を避けようとしたが、まだ車間に余裕がある状態なのに、後方の車はAさんの車の後方にピッタリとつけた。
東陽町を過ぎ、木場を過ぎたあたりまで、後方の車の煽り運転は止まなかったが、門前仲町駅のあたりで、信号が赤になり停車した。
「なんだかわからないが、いずれ抜いていくだろう」
そう思って、Aさんは信号待ちで、ミラー越しに後方の車の運転手を確認したが、丸顔の頬の肉の垂れたおじさんだった。
Aさんとしては、最近よくある交通トラブルのようなものに巻き込まれるのは嫌だったため、しばらく走ったところで、一番左車線に避け、駐車をしてやり過ごそうと考えた。
信号が青になり、普通に発進してから信号を過ぎたところの先に手頃なスペースがあったので、ウインカーを出して駐車しようとしたところで、激しいクラクションが鳴り続けた。
「なんだ!?」
後方の車のクラクションは、プーと鳴らし続けたまま、左側の窓を開けて、運転手が「てめー、このやろー、邪魔なんだよ!!」と叫んでいる。
「なんだこいつ・・・」
Aさんは一瞬、その運転手を睨みつけた。そのまま怒鳴って通り過ぎるものと思っていたが、この運転手は、真ん中の車線に車を停めて、クラクションを鳴らし続けて、怒鳴り散らし続けた。
Aさんの車は路上駐車の前後の車に挟まれている状態で、逃げ道がない状態。仕方なく、Aさんは車を降り、その車に近付いた。
ちなみにAさんは厚着の上からも分かるほど筋肉質な体つきをしており、坊主頭。
それでも、後方車両の運転手は全く動じず、クラクションを鳴らし続け、窓を開けて、「テメー、どこ見て走ってんだ!!」「ふざけんなこのやろー」と怒鳴り続けた。
この様子は、Aさんの車載カメラに録音状態であるが、前方を映すカメラであるため、対象車両などが撮影されている状態ではない。
Aさんは、「迷惑だから、やめろよ。」と言ったが、相手の男性はそれには全く応じなかったため、通報することにした。
警察官が到着するまでの十数分間、この男はクラクションを鳴らし続けていたというから、人集りができ、迷惑だと文句を言いにくる住人もいたし、この後方車両の男は3車線のうち、1車線を完全に塞いでおり、左のもう1車線は路上駐車がしてあるから、そのあとは交通渋滞が起きていた。
Aさんは、警察官に相手の車に触ったかと訊かれたそうで、それには、覚えていないと回答した。相手はドアを激しく開けられそうになったと主張したが、そもそも窓が開いている状態なのに、激しく開けようとするという意味がないので、全く取り合う必要もなかった。
ただ、一応の交通トラブルということで、その場で簡単な調書を取られたそうだ。
Aさんはその後、何もなかったかのように過ごしたが、相手がどう見ても弱そうなただの中年太りのおじさんであったのに、十数分間もクラクションを鳴らし続け、怒鳴り続けるという異常行動をしていたため、大丈夫なのだろうかという不安が残ったそうだ。
さっそく調査!
調査をすると、この相手男性は反社会的勢力でも関係者でもなく、このトラブル現場近くの大手商社に勤めているということがわかった。
年齢は50代半ば、30代になって今の会社に転職することになり、現在は部長のすぐ下というポストだが、上司は全て40代か50代初めの年下で、年下上司にあれこれ指図されることや中途入社組であることで、社内の主力派閥から外された外様状態であることに強いストレスを持っていることがわかった。
さらに自宅を見にいくと、綺麗な一軒家だが、土地家屋の所有状況を確認すると、土地は奥さんの実母の持ちものになっており、約10年前に建物を妻と自分の共同名義で建て替えたことがわかる。
ちなみにこの調査対象者の車はトヨタクラウン、妻の車はトヨタプリウスであり、ナンバーが同じ番号になっている。
この番号は2人いる長女と次女の名前と奥さんの名前にちなんだ番号であり、この家には、奥さんの母が1階で暮らし、2階は奥さん、調査対象者である夫、長女、次女が暮らす女ばかりの家であることがわかる。
つまり、マスオさん状態で妻の実家の二世帯住居暮らし、家は女性ばかりで、中年期のおじさんは一人であり、肩身の狭い思いをしていたようだ。
本人がよく投稿しているSNSを見ると、「妻子の運転手代わりに使われている」ことを嘆いている投稿があり、可哀相な自分を演出している様子がわかった。
家を見たついでに、その煽り運転をしまくって、クラクションを鳴らし続けたという車が停めてあったので、雨の日であったが、撮影をしておいた。
その写真がこれ。
この写真が、のちに、この調査対象者の男性(以下、「I氏」という。)が損害保険会社を使って仕掛けた恐喝行為の嘘を暴くキッカケとなる。
続いて、私は、交通トラブルのあった現場に向かい、近隣で商店を営む方々やバイトをしていた人らに当時の様子を聞いた。
「I氏の方が意味不明にわめいていたね」
「坊主頭の方が困って様子だったね」
「ずっとクラクション鳴らし続けやがって、ありゃ、異常者だろ。絶対おかしいよ」
「明らかに、I氏の方が一方的に悪いね」
など、その時の様子を見ていた人たちは、一方的にわめき散らし、クラクションを鳴らし続けていたその様子を克明に覚えていた。
ついにきた損保を使った恐喝行為
数日後、Aさんの電話が鳴る。
「損害保険会社ですが、修理額全額、請求しますので、払ってください」
「ハァ?修理って何を??」
Aさんは事故じゃないのに、なんで修理とか言ってんの?となり、根掘り葉掘り聞き出そうとしたが、I氏は、ドアノブの部分とサイドピラーが凹んだと主張し、修理工場でも写真を撮っているということであった。
ただこれは、I氏の主張を一方的に聞き入れただけのものであり、Aさんは何も応じてない。
私はすぐに連絡を受けたので、Aさんに警察署へ行き、事情を話して調書なり書類を見せてもらうようにお願いした。
書類はもらえなかったが、「修理するような箇所はなかったよね」ということで意見は一致していた。そもそもその場で警察官への申告はあったものの、傷がなかったため、記録にはないということだった。
それより異常な興奮状態で、クラクションを鳴らし続けていたことが記録にはあったということだった。
「頭のおかしな人、最近多いからね・・・」と警察官は言ったそうだ。
修理工場で撮ったという写真は、私が撮った写真から2日後のことで、損保の担当が言う限りでは、爪か何かで引っ掻いたような傷が塗装の下地が出るくらいドアノブについていたということで、ピラーは円形の何かがあったように凹んでいたそうだ。
ただ、Aさんがそれ以前に撮った写真があること、そこには傷はないということ。警察官に当時の記録を確認してもらったが、そのような傷はなかったので記録はしていないと証言を得たことをを告げ、不当な請求には断じて応じられないので、支払いは拒絶します。と伝えると、それ以降、なんの連絡もなくなった。
追加調査分
私はI氏のSNSを見直し、着目したことがあった。それは、I氏の唯一の趣味であるゴルフのことだ。そのゴルフ仲間に確認したところ、2014年ごろのこと、ゴルフ練習場に駐車していたところ、車に戻ったら、ピラーが凹んでしまっていたと、I氏が笑い話にしていて、カカア天下だから、修理もできないとボヤいていたそうだ。
このゴルフ練習場はスポーツアミューズメントになっており、野球ができるグラウンドやテニスコートもすぐそばにあった。
確かにA氏は怪力そうであるが、触ってもいないものを凹ませるには、別の力が必要だろう。
自己防衛力を高める他、我が身を守る術はない。
それ以降、A氏は車載のドライブレコーダーを前後につけるようにした。
日常的に車を使う人は常に録画をするカメラを設置した方が無難と言えるのが、現在の車事情だ。
できれば、駐車中も継続録画できるカメラがいいだろう。通電していれば、常時録画できる機種であれば、駐車中はモバイルバッテリーに繋いでおけば良い。これなら、駐車中のイタズラにも対応できる。
I氏のような一見弱々しいおっさんでも、ストレスで頭が変になって、迷惑行為、違法行為をする人間は確かにいる。
ここぞとばかりに過去の傷を人になすりつけて修理してしまうというのは、詐欺であろうが、それでも、こういう人間を罰するとか免許を取り上げることはできないのだから、せめて、自己防衛はしっかりしておかなければならないだろう。
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