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EVで出遅れたトヨタの「水素自動車」が水の泡になりそうな訳

以前掲載の「トヨタに未来はあるのか? EV車への完全シフトに出遅れたウラ事情」で、トヨタがEV車に中途半端な参入しかしない理由を問われ、「水素自動車を捨てなければならなくなるから」との見方を示したメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さん。今回は、欧米諸国のハイブリット車排除の動きでトヨタの思い描く夢がどうなっていくのかを考察。さらに、テスラの話題も併せてお伝えします。

私の目に止まった記事

なぜトヨタは先端技術を持ちながら純EVを量産しないのか

最近、この手の記事を読むことが多くなりました。一番の原因は、カリフォルニア州が(トヨタが世界をリードしている)ハイブリッド車を地球に優しい車だとは認めなくなってしまったことにあり、それに続いて、ヨーロッパの各国が2030年~40年にかけて(ハイブリッドを含めた)「内燃機関車を市場から排除しようという動きに出たからです。

この一連の動きにより、しばらくは自分たちが得意とするハイブリッドで繋ぎ、10年から20年かけて水素社会に向けたインフラを作った上で、水素自動車を地球温暖化の切り札として世界に普及させるというトヨタの計画が座礁してしまったことは、誰の目にも明らかです。

にも関わらず、戦略を変更して電気自動車にコミット出来ないのは、誰もが電気自動車を作るようになった世界で、トヨタがどこで勝負する会社になるのか、という「絵」が描けないからだと私は解釈しています。今の世界で「勝ち組」だからこそ、急激にその世界を壊すことは自分の首を締めることになるのです。典型的な「イノベーションのジレンマ」に陥っているのです。

このジレンマを打ち破るには、「別会社を作って、そこに本気で電気自動車を作らせる」とか、「テスラとの合弁会社を中国に作って、アジアの電気自動車市場はそこに任せる」などの少し乱暴なことをしなければ間に合わないと私は思います。特に中国市場のことを考えれば、ここから3~5年が勝負です。

Tesla introduces new ‘Supercharger Fair Use’ policy to focus on long distance travel and deter commercial use

テスラは、Model S/Xのオーナーに対して、スーパーチャージャーでの充電を無料で提供しています(そのおかげで、私もSeattleからPalm Springsまで無料でドライブできました)。しかし、これを悪用して、UberやTesloopなどの商用利用が増えているため、それを少し制限しようという動きに出た、という話です。

確かにカリフォルニア州のスーパーチャージャーでは、Tesloopというロゴをつけて車が充電しているのを何度か見かけましたが、そんな商用車の利用が増えてしまうと、(本来の使い方である)長距離ドライブ中の一般の人が待たなければいけなくなる可能性はあり、私としては今回のポリシー変更は大歓迎です。

これはテスラのスーパーチャージャー・ネットワークの拡充計画とも関連していると思います。これまでは、高速道路沿線のみに設置し、市街地は避けて設置して来たため、商用利用は若干難しい面もありましたが、今後市街地にも増やすとなると、商用利用が増えることは目に見えています。

前にも触れましたが、このスーパーチャージャー・ネットワークが今後のテスラのビジネスにとっては重要な武器になり、それが電気自動車市場への参入障壁になると私は見ています。私の知り合いに日産のリーフを持っている人がいますが、日産はディーラーにしか充電設備を持っていないため、「長距離ドライブは実質的に不可能」だそうです。

image by: Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

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