日本を代表するカリスマ経営者の一人として名を馳せる京セラ創業者の稲盛和夫氏。同氏は顧客へのマーケティングと同様に、従業員へのマーケティングを重要視していたそうですが、その背景には彼が考え抜いて導き出したある結論がありました。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』で詳しく解説されています。
人は水と同じ
よく理解していただきたいのですが「人は水と同じ」で、その本性に良いとか悪いとかはなく、正しく「治水」するかどうかがすべてで、よく行えば「実りをもたらし」、半面それを行わなかったら「役立たず」でさらに思い違えると状況によっては「災厄」すらももたらします。
「真の知恵」とは「人こそ財産である」となるのは、経営者がそのようになるように「マネジメント」を行ったその時であるという前提条件があり、そしてそのことを行えるのは経営者のみで「経営のコツここなりと気づく」ことなくして大きな「みのり」は妄想でしかありません。非常に厳しいけれど「大いなる成果」はいつでも開かれています。
「水」には泥水もあれば清水もあり、またアルカリ性もあれば酸性もあるのですが、皆同じ水なので基本的な性質は同じであることを知ってその上で異なる特性を使い分けることができれば「水」は秘められた「効能」を発揮して、他を圧する「成果」を手に入れることできというものです。かなり余談が入り込んでいますが、話を本筋に戻します。
稲盛和夫さんはどのように考えたのか推測します。ここで京セラ創業時の「同志7人」と「新入社員11名」の2群の情況から導かれた結論で、人が懸命に働くのは「物心両面の幸福」が適えられると期待されるその時においてであると規定できるのです。
そうしたら、経営者はどのように「環境」を整えて行くのか。それは「同志7人」が感じている「私のこれからの幸福は、私自身で切り開くことができる」という「環境」を整えることだと言えるでしょう。
- 自分たちの「夢」が適えられそうである
- 私たちが主体になって、望んだ仕事を行っている
- 私たちが頑張れば、豊かな生活も夢ではない
このことを踏まえて、整えられたのが「アメーバ組織」であり「京セラフィロソフィー」で、すべての事業の基本となるものは「従業員へのマーケティング」であり、それを最高のレベルで実現するための「システムと価値観のカイゼン・イノベーション」となるでしょう。
「やる気」の古典的な心理学の理論に「動機付け衛生理論」があり、この理論では、人の「辞めたくなる(不満足)」要因と「やる気が起こる(満足)」要因とは異なることを統計的手法を使って明らかにしました。
「辞めたくなる」要因は、会社の方針管理、監督、監督者との関係、労働条件、給料、同僚との関係でこれが満たされたからといって直接的に「やる気」には結びつきません。しかし満たされないと不満がつのり、それが極まると辞めてしまいます。
京セラ創業期の「新入社員」の状況を再掲します。
- この仕事をしているのは「安定した報酬」を得たいがためである
- 結構ハードな作業を、命じられたまましなければならない
- 会社の将来性も見えず不安である
「やる気が起こる」要因は、達成、賞賛、仕事そのもの、責任、昇進、成長でこれらが満たされてまた期待されるときにはじめて「やる気」が起こるのです。
京セラ創業期の「同志」の状況を再掲します。
- 自分たちの「夢」が適えられそうである。
- 私たちが主体になって、望んだ仕事を行っている
- 私たちが頑張れば、豊かな生活も夢ではない
アメーバ経営は、組織を小集団に分けてリーダーを選任して、それぞれが「自らで計画を立て」そして「全員が知恵を絞り努力する」ことで目標を達成しようとする「ひとりひとりが自主的に経営に参画」する「全員参画型経営」です。
リーダーについては、年齢、性別、勤続年数などに関係なく、それぞれその時の「目標」「目的」に応じて「最適任者」が任命されて、目標達成に関するすべての裁量権が委ねられます。ここにおいて「やる気が起こる」要因である「達成、賞賛、仕事そのもの、責任、昇進、成長」の機会が満たされると期待ができるでしょう。
京セラの稲盛さんは、さらに進化を求めました。「誰にも負けない努力を続けない限り、大きな成果は期待できない。人並み以上の努力をせずに、大きな成功を収めるということは絶対にない」「私がそうだったように、あえて厳しい環境を見出していけば、必ず成長できるはず」とは稲盛さんの言葉です。
普通でないことを行わなければ、世界と競い賞賛される企業になれない。そのために稲盛さんが考えられられたのは、アメーバ単位が自身でその働きを一目で評価しフィードバックできる「時間当たりの付加価値」と「全従業員の『心』の幸福(成長)」のための行動規範を示す「京セラフィロソフィー」です。
これらは微妙に融合されて、日本人の心的特性「和の精神」「恥の文化」を活き活きと脈動させて、他が追随できない「成果」が実現される組織が構築されて行った言えます。稲盛さんの行ったのは、スティーブ・ジョブズが行ったのを上回るかもしれない「成果」実現のためのシステムのイノベーションだと思えるのです。
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