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なぜ科学者は発がん性物質の危険性を煽る人間を軽蔑するのか

できれば身の回りから遠ざけたいと思ってしまう「発がん性物質」ですが、実際のところどれほどの危険性があるものなのでしょうか。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では著者で科学者のくられさんが、その「毒性と正体」を記しています。

発がん性という言葉

発がん性物質。ガンは不治の病のイメージの代表格(100%治らないわけではない)で、非常に怖い病気であり、死因のトップをしめる病気なわけで、誰もが恐れおののくモノなのですが、その癌を誘発するという「発がん性」という言葉はなんか一人歩きしている気がするので、改めて知識を確認しましょう。

まず発がん性物質という言葉は大きく分けて2つの意味があって、遺伝子などの変異を起こして実際にガンを誘発することが出来る物質、これを起発がん物質イニシエーター)と呼びます。2つめが、遺伝子には悪影響は及ぼさないが、細胞などを損傷させることで機能異常を起こし、発がんを促進する物質というもので、促発がん物質プロモーター)というものがあります。この2つの働きを持つものを完全がん物質なんて呼んで3番目の発がん物質とすることもありますが、めんどくさいので2種類で覚えておけばOKです。

まず、発がん性物質がどの程度の発がん性なのか? これを知っていなければ意味がありません。例えば食品添加物などが認可を受ける前に発がん性があるかどうかのテストが行われます。その場合はだいたい数十匹の発がんしやすい系統のラットが、わりと笑えるくらいの分量の投与を1年半から2年長ければ3年の投与期間があり、その後発がん、ないしは腫瘍が出来たとか、こういう毒性が出たなんてデータが取られるわけです。

なので、食品添加物の毒性なんかを煽るアホの書いた本なんかに書いてある「××を投与されたマウスは腫瘍が発生し」みたいな話になるわけで、逆に、何か問題が出るまで分量を増やして投与しまくって、その分量で毒性がようやくでることが「確認できた」ときのデータであって、その添加物を食べたからその、大容量長期実験の結果が起きるなんてことは絶対にあり得ないわけです(笑)。だからあの辺の話や添加物喰うと死ぬみたいな本は読むだけでアホになると言うわけです。しかも大半が確信犯で書いてるのでタチがわるい、霊感商法みたいなもんです。

閑話休題、話を戻すと発がん性に関しては、そうそう微量であっというまに発がんするような物質はありません。むしろ、そんな発がん性物質があれば、抗がん剤の研究者が狂喜乱舞して喜びます。抗がん剤の治療の実験のために、どれだけ時間をかけて生かさず殺さず毒を投与してラットをがんにしているのか、あまりに知られていません(笑)。

だいたいとんでもない発がん性物質の塊であるタバコを吸っている人ががんの率が高いとはいえ、この程度なのか…というのは人間はとりわけ毒物に強い発がん性物質にも強いという特徴から来ています。

ましてやそれだけ発がんは難しいのに、それが地下水に入ってるからとか(地下水そのまま飲むんかよ)とか、合格祈願の砂に含まれる…とかそういうのがニュースになるたびに、毒性科学者は眉間を抑えるわけです。

サクッっと殺す毒はいくらでもある。ただ、狙ってがんを作るのは難しい。発がん性物質といわれているのは、その程度のもので、交通事故にあうかもしれないというレベルの「確率」の一つでしかないという認識で十分でしょう。もっと知りたい…というひとは、毒性学の専門書を是非読んでみてください。

image by: Shutterstock.com

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シリーズ15万部以上の不謹慎理系書「アリエナイ理科ノ教科書」著者。別名義で「本当にコワい? 食べものの正体」「薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬 」などを上梓。学術誌から成人誌面という極めて広い媒体で連載多数。

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【著者】 くられ 【発行周期】 週刊

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