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【書評】あなたはこの「医者にあるまじき発言」を冷静に読めるか

「遠慮も忖度も一切抜き、医者だから見える真実が詰まった比類なき一冊」と謳う本が話題になっています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが取り上げているのは、現役医師が著した新書。著者が提言する「国民皆保険」を破綻から救う方法とは?

医者の逆説
里見清一・著 新潮社

里見清一『医者の逆説』を読んだ。日本赤十字社医療センター化学療法科部長、新潮新書6冊目。「我々は膨大なツケをすべて先送りして、つまり我々の子や孫の世代に押し付けて、自分たちの『最新医療』の成果を謳歌している」との主張は、患者の命を第一に考えるべきという通常の医療者の立場にある者からは「医者にあるまじき発言」と非難されることが多い。

一方で「誰もが思っていることを言ってくれた」という反応も少なくない。だったら誰もが言えばいいのに、そういう状況にはない。そこには何らかの配慮、忖度が働くからだ。この本はその忖度のメカニズムを解析し、剥ぎ取り、「誰もが思っていること」を明るみに出す。端的な例が、筆者に原稿を依頼しながら、結局ボツにした読売新聞東京本社メディア局の言いわけを暴露した章だ。

まず、ヨミウリ・オンラインに送った「高額医薬品と日本の危機」というコラムの全文を掲載する(以下要約)。日本ではずっと命の問題について、コストを度外視してきた。他のことは最低限の保障で済ませているのに、医療のみ最善を全員に提供することを前提としてきた。その実態はコストを次世代にツケとしての先送りだ。国民皆保険が破綻すれば何の保障もなくなるのは明らかだ。

それを回避するために、現時点で誰かに痛みが伴う変更をするしかない。「最善」を諦め「最低限」に引き下げることを含めて。それは公平に。たとえば、75歳以上の高齢者へは高額薬剤による延命治療を差し控えその代わり対症療法・緩和医療を充実させるべきだ。年齢は最も公平な基準である。次世代を巻き込む破滅を回避するための、これ以上有効な方策はない。……素晴らしい!

ところが、読売の幹部から待ったがかかる。「高齢者は死ねというのか」「十分に生きたから年寄りはいらないというのか」といった異見が出かねないから、問題を提起するところでとどめておけないか、と狼狽えているのだ。この見解は著者のものであって、読売は違いますとでも書いておけばいいではないか。

あるいは反論するだれかの代案を、より大きく掲載すればいい。異論が出ないオピニオンなどない。「慎重な議論が必要だ」「考慮すべき問題だ」など、突っ込み予防の表現は、読売も社説でよく使っている。そんなことばかり書いているうちに、読売は言論の本質を失ったのではないか。なんてステキな指摘。

高額医療の問題は「金が足りないというだけだから、負担増するか、給付制限をするか、その両方をするか、それしか解決方法はない。誰かが不利益にならなければ、次の世代が破滅的な不利益を蒙る。我が世の春を送る高齢者が担うのは当然だ。多くの高齢者が「自分たちは逃げ切れるけど、これからの若い人たちは大変だね」と同情している。逃げ得は許さない(私も高齢者だが)。

延命治療の年齢制限、大いに賛成である。このまま誰もが口をつぐんでいたら、「負ける、と誰もが思っていた」戦争に突入したのとまったく同じ構図ではなかろうか、と著者。「本質は医学の進歩(医療の高度化)と人口の高齢化であって、誰が悪いわけでもなく誰にも止められないのです」。嗚呼…。

image by: Shutterstock.com

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