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不安は米朝会談だけじゃない。水面下で進む米中貿易戦争の現実味

日本は「米朝首脳会談」と「森友問題」の話題でもちきりですが、この間アメリカのトランプ陣営の「国際派」メンバーが辞任、または解任され、当初の主張であった米国の孤立・鎖国化を唱える「孤立派」が集結しつつあるようです。この動きを受けて、メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんは「米中貿易戦争に発展する可能性」について指摘しています。

米中貿易戦争の行方

トランプ政権の陣容が、対中強硬派で統一され始めている。本格的な中国制裁の嵐が訪れることは、避けようがない事態になっている。今後、どうなるのか検討しよう。

トランプ政権の陣容

ゴールドマンサックスCEOのコーンNEC委員長やエクソンのCEOティラーソン国務長官、軍人のマクマスター補佐官などの国際派または組織人たちが辞任や解任されて、対中強硬派の非組織人であるポンペオ新国務長官や評論家のラリー・カドロー新NEC委員長のような人物が政権の中枢に位置し始めている。最強硬派のナバロ氏の補佐官就
任も噂されている。

そして、、ケリー首席補佐官の解任も噂されている。そこにナバロ氏が就任するようである。マクマスター安保担当補佐官の後任には、ネオコンのジョン・ボルトン氏の噂がある。

トランプ大統領は、今までの米国の覇権国として行動から米国の孤立化・鎖国化する方向に大変革させたのである。しかし、一気には孤立派幹部をそろえることができなかった。このため、多くの国際派の人物が入り込んでしまった。この国際派を一掃するようである。

米国復活戦略

米国の経済は、1980年代に日本との貿易摩擦で米国の工場再建を試みたが、できなかったことで1990年以降に金融資本主義で米国を立ち直らせ、その上にブッシュJr大統領が戦争経済を付加したことで景気が過熱し、それが2008年リーマンショックで金融資本主義もろとも破綻した。このため、金融資本主義崩壊のリーマンショックが1929年の工業資本主義崩壊の大恐慌と同じような感じになっている。

そして、トランプ大統領は、再度、米国をITなどの先端産業は、そのまま保持して、その上に孤立化することによって米白人層が望む工場再建で立直らせようとしている。このため、工業国家である中国や日本韓国そしてドイツが当面の敵なのである。

今までは周りの幹部が国際派であるので、大統領が米孤立化を単独先行して実行したので、今までの大統領とは趣が違う。このため、ルール重視、慣行重視の経営者や専門家が嫌いであり、自分の直感で事態を統制したいのであり、ルール順守の軍人は、トランプ政権とは肌合いが違う。マティス国防長官だけが残るような気がするが、軍人ケリー補佐官は解任されるとみる。

これでやっと、トランプ政権の陣容が整うことになるが、それは中国との貿易戦争の体制が整うことでもある。

体制が整い、早速、中国に11兆円の貿易赤字の削減を要求した。

回答を貰う前に、最先端技術を守るためにトランプ政権が中国からの輸入品のうち最大600億ドルに相当する電子系製品に関税を課す方向で検討していることも伝わってきている。これは本気である。

勝利が簡単な貿易戦争とは

そして、トランプ大統領は、「貿易戦争に勝利することは簡単である」と述べている。この意味は、1980年代の日本との貿易摩擦で勝利した歴史が影響している。米国への巨大な貿易赤字を解消することは、日本との貿易戦争勝利で米国は実績済である。実行あるのみだ。

中国からの一方的な33兆円の米国の貿易赤字であるが、中国は多くの分野の貿易制限やつい最近の韓国に実行した恣意的な貿易差し止めを繰り返している。中国の貿易制限処置や経済統制を失くすことを米国は目指すとするが、実は製品の輸入制限である。特にAIやIOT、IT分野での優位獲得を目指す中国企業の財力を奪う必要がある。

それに対して、中国の李克強首相は、全人代で問題視されている鉄鋼の過剰生産能力の削減や、閉鎖的な金融分野の対外開放も表明し、貿易戦争回避をにじませた。対米貿易摩擦と国内構造改革という内憂外患に対応し“一石二鳥”を狙う作戦のようだ。

関税措置の応酬で貿易戦争に発展すれば、不利なのは中国側だ。中国の対米輸出額に対し、米からの輸入は大幅に小さく、打撃は中国の方が大きい。前年比6.9%増だった昨年の中国の経済成長率は輸出の寄与が大きく、貿易戦争は避けたいのだ。

というような文脈で、トランプ大統領は、「貿易戦争に勝利することは簡単である」としたのである。しかし、計算違いは必ず起きる。そこを直感で切り抜けることができるとトランプ大統領は考えているようだ。ディール好きなトランプ大統領だからできることである。このため、慣行重視の専門家が邪魔なのだ。

金融・株市場関係者は、このようなトランプ政権の政策結果を見通せないことで、株式市場は様子見相場になっている。

もし、株価が大幅に下がったら、トランプ大統領は、パウエルFRB議長に再度量的緩和を行うことを要求する。中間選挙の11月までは、株価を上げる必要があるからだ。

中国の出方は

中国は、2つの道を探り始めている。1つには、中国の内部体制を変革して、貿易摩擦を解消することであり、もう1つが貿易戦争に対応した対抗策を取ることである。

しかし、中国のダメージの方が大きくなることは確実であり、簡単に貿易戦争に打って出ることはできない。WTOへの提訴を行うことが最初の一歩であるが、米国はWTO脱退も考えているようである。WTO自体が中国優位な組織になっていると米国は疑っている。

中国の対抗策は、EUや南米などで米国からの輸入製品に相殺関税を掛けてもらい、米国の製品輸出を背後から叩くことしかないようである。中国への米農産品輸入制限を行う可能性はあるが、米国は、それほど打撃ではない。農産物輸出先は、中国だけではない。

どちらにしても、中国が対応することは難しい。米国製品の輸入制限や米国企業の中国内営業の禁止でも、それほど大きくない。

もう1つ、中国が心配なのが、米国向け輸出分を他に向けるとその地域でも貿易摩擦を引き起こして、貿易制限になることである。

そうなると、中国排除になり、世界に輸出できなくなる

それと、恣意的なドル・人民元相場を統制してきた中国の貿易促進策を否定されると、人民元が高くなり、輸出製品のドル建て価格が上がることになる。こうなると世界的に製品輸出ができなくなる。

よって、中国にとって良いことはないので貿易戦争回避の方向になる。

米朝首脳会談

もう1つの米国の話題は米朝首脳会談であるが、韓国仲介したメッセージで、非核化を期待させて、米トランプ大統領が即決した。しかし、北朝鮮は非核化の条件に在韓米軍の撤去などの条件がついていたのに、わざと韓国は条件を言わなかった疑惑があるようだ。

もし、トランプ・金正恩会談で決裂すると、戦争の可能性が出てくることになる。逆にトランプ大統領は、韓国の行動に疑惑を抱いているので、在韓米軍撤退の条件を飲む可能性もある。

5月までの準備交渉を行うことになるが、その準備交渉は強硬派のポンペオ国務長官になり、韓国も北朝鮮も騙すと大変なことになると意識することである。

日本への影響

米国の貿易戦争により、米国の経済が弱くなるとみて、ドル安になり円高になることで株安になる。円高になると来年の企業業績が下がるとみて、海外投資家は日本から投資を7.8兆円も引き揚げている。日本市場で海外投資家の売りを吸収しているのが、日銀のEFT買いである。日銀は、去年一年間に5.9兆円も買っているのであるから、日経平均はそれほど下がっていない

そして、日銀の株の手持ちは24兆円にもなっている。

貿易戦争になれば、世界の経済は減速することが確実であり、株は徐々に下がる方向ではあるが、日銀の買いの増量があり、それほど下がらない可能性もある。米国も同様な量的緩和を行うので、日米両国の株価は、中間選挙がある11月まで維持する可能性もある。

もう1つの米朝首脳会談で合意できれば、日朝首脳会談も開催されることになる。日本は北朝鮮に戦後賠償をすることになる。

しかし、米朝会談が決裂したら、戦争になり、その時には核攻撃を考える必要になる。

さあ、どうなりますか?

 

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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