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米中貿易戦争で世界のGDPは1.4%下がるが、日本はもっと下がる

米中間の制裁的関税の応酬により、いよいよ回避困難水域にまで達したとされる米中貿易戦争。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんが、トランプ大統領が中国に対して制裁を決意したきっかけを推理するとともに、今回の米中の対立が日本にもたらす影響についても記しています。

米中貿易戦争、日本への影響は?

世界では今、主に三つの争いが起こっています。

一つは、北朝鮮。こちらは、北が「非核化する準備がある」と宣言したことで、落ち着いている。

二つ目は、欧米とロシアの争い。これまで何度も触れました。イギリスで3月4日、英ロダブルスパイだったスクリパリさん殺害未遂事件が起こった。「化学兵器が使われた」ということで大騒ぎになり、欧米25カ国がロシア外交官を追放した。ロシアも、23か国の外交官を追放しました。

三つ目は、日本でも大騒ぎしている「米中貿易戦争」。今回は、これについて。時系列に流れを追ってみましょう。

これまで、中国の国家主席は、「1期5年」「2期まで」と決められていた。憲法改定後は、「1期5年」は変わりませんが、3期でも10期でもできるようになる。つまり習近平は、「終身国家主席」になる道を開いた。これ、どうなんでしょう?

私たち民主主義国家の国民から見ると、「異常な状態」です。欧米の指導者たちは、表だってこの決定を批判していません。しかし、彼らは私たちと価値観を共有しているでしょうから、心の中で、「習近平は、頭がおかしくなったか!?」と考えている可能性は大いにある。この決定が、「貿易戦争が開始された一つの要因かもしれません。

国際関係では、「因果関係が明確でない」ことがしばしばあります。たとえば、2015年3月、「AIIB事件」が起こった。その後、アメリカは、中国の「南シナ海埋め立て」を強く非難しはじめました。アメリカはこの問題を2年間放置していましたが、突然関心をもちはじめたのです。

私たちは、直接的な証拠はなくても、時系列にできごとを追うことで、「これが、影響を与えたのかな?」と推測することはできます。習が「終身独裁者」になる意志をはっきり示したことで、アメリカが「制裁しよう!」となった可能性はあります。

トランプはこの日、500億ドル(約5.3兆円)相当の中国製品に関税を課すことを、通商代表部に指示する文書に署名しました。また23日、鉄鋼アルミ製品の関税が引き上げられた。

中国商務省は23日、米国産品30億ドル約3,100億円)分の輸入に追加関税をかける報復措置計画を発表しました。「アメリカと比べるとずいぶん額が少ないな」と思いますが、これは、「鉄鋼、アルミ関税引き上げ」に対する報復措置「計画」です。そして、対象は、米国産農産物がメイン。

これは、アメリカの「鉄鋼、アルミ製品関税引き上げ」に対する報復措置です。

4月3日、アメリカ、制裁対象品目を発表

米、新たな対中制裁案公表 知財関連1,300品目を標的、総額5.3兆円

Sankei Biz 4/5(木)7:15配信

 

米通商代表部(USTR)は3日、通商法301条に基づき、米国の知的財産を侵害する中国への制裁措置として追加関税を課す中国製品目リストの原案を公表した。情報通信や航空宇宙などハイテク製品を主な対象に約1,300品目、総額約500億ドル(約5兆3,000億円)となる。

中国は4日、米国からの輸入品約500億ドル相当に25%の追加関税を課す計画を発表した。対象には大豆や自動車、化学品、航空機などが含まれる。米政権は前日、中国製品500億ドル相当に知財制裁関税を課す計画を明らかにしていた。
(ブルームバーグ 4月6日)>

今度は農産物だけでなく、自動車化学品航空機が含まれ対象が拡大しています。これに対してトランプは?

トランプ米大統領は5日、中国製品に対する1,000億ドル(約10兆7,000億円)規模の追加関税を検討するよう米通商代表部(USTR)に指示したことを明らかにした。中国の「不公正な報復」を踏まえた措置としている。
(CNN.co.jp 4月6日)

とりあえず、これまで起こったことを簡潔にまとめると、↑こんな感じになります。トランプが「制裁する!」といい、中国が「報復する!」という。そして、トランプが「さらに制裁する!」といい、中国が「さらに報復する!」という。対立がどんどんエスカレートしている

日本への影響は?

産経新聞4月5日は、米中貿易戦争が日本に与える影響について書いています。

経済協力開発機構(OECD)によると、米国が共同歩調を求める欧州連合(EU)も関税引き上げに踏み切り、米中欧の貿易コストが10%高まった場合、世界の貿易量は6%、世界のGDPは1.4%押し下げられる。主要国が同時成長を遂げた世界経済は、腰折れの危機に立たされることになる。

世界GDPは、1.4%押し下げられるそうです。

日本経済への影響はさらに大きく、第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「米中欧が関税を引き上げた場合で2.1%、米中だけでも1.4%程度、GDPが押し下げられる」と試算する。
(同上)

米中欧が関税を引き上げれば、日本のGDPは2.1%押し下げられる。米中が関税を引き上げれば、日本のGDPは1.4%押し下げられる

日本からの主要輸出品は米国向けが自動車や関連部品、中国向けがスマートフォン向けの電子部品。貿易減で米中景気が後退すれば真っ先に耐久消費財が買われなくなるため、日本からの輸出は大きく減る。
(同上)

日本から米中への輸出が大きく減る

また市場のリスク回避姿勢が強まり、安全資産とされる円が買われれば、足元で1ドル=106円台の円相場が「100円を切る水準まで円高が進むかもしれない」(永浜氏)。
(同上)

円高になる。

日本製品は割高となるため輸出が落ちると同時に、株安が日本国内の消費や投資意欲の減退につながる恐れもある。
(同上)

株安になる。

民間予測では、平成30年度の日本の実質GDP成長率は、おおむね1.2~1.3%程度だ。しかし、貿易戦争が拡大すれば、「最悪の場合、マイナス成長に落ち込む」(永浜氏)ことにもなりかねない。

マイナス成長になるかもしれない。

OECDおよび第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストの考えをまとめてみましょう。

いいことがまったくありません。そして、この予測は、「常識的で正しい」と思います。

とはいえ、こういう最悪の事態にならない希望はあります。というのは、中国は既に、イスラエルを超え、「アメリカ最強のロビー集団」になっている。それで、中国はトランプの取り巻きと議会への工作を進め、米中貿易戦争を「骨抜き」にできるかもしれない。

実際、中国は1970年以降、深刻な米中対立を回避することに毎回成功してきました。今回も、「双方が面子を失わない形矛を収める可能性が高いと思います(そうならない可能性もありますので、最悪の事態を想定し、備えを怠らないようにしましょう)。

一方で、西部戦線、つまり欧米とロシアの対立は深刻に見えます。

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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