去る5月7日、4期目に突入したロシアのプーチン大統領。2000年から続くこのプーチン政権ですが、今後どのような展開を見せるのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、これまでの政権の歴史を振り返りながら、ロシアの未来を占っています。
プーチン4期目スタート、ロシアはどうなる?
5月7日は、プーチンの大統領就任式でした。4期目がはじまります。ロシアは、どうなるのでしょうか???
超簡単に、プーチンの1~3期目を振り返ってみましょう。
● 1期目(2000~04年)
プーチン1期目、メインテーマは、「新興財閥との戦い」でした。
90年代、新興財閥がロシアを牛耳っていた。90年代後半には、「7人の銀行家が、ロシアの富の半分を支配している」といわれていた。そして、ロシア国民は、新興財閥軍団を憎んでいたのです。
プーチンは2000年、大統領になると、早速「新興財閥征伐」を開始しました。そして、
- 「クレムリンのゴッドファーザー」とよばれたベレゾフスキー
- 「ロシアのメディア王」とよばれたグシンスキー
- 「ロシアの石油王」とよばれたホドルコフスキー
を次々と打倒した。
ベレゾフスキーは、イギリスに逃げ、後死亡。グシンスキーは、イスラエルに逃亡。ホドルコフスキーは、シベリア送りにされた(2013年、彼は出所し、ロンドンに移住。今は、元気に「反プーチン運動」を行っています)。
● 2期目(04~08年)
プーチン2期目、今度はアメリカとの戦いが激化します。
米ロ対立は、03年からはじまっていました。プーチンは、アメリカのイラク戦争に反対だったのです。03年には、旧ソ連のグルジア(現ジョージア)で革命が起こり、親米反ロ政権が誕生。04年、ウクライナで革命が起こり、親米反ロ政権が誕生。05年、キルギスで革命が起こった。プーチンは、旧ソ連諸国で起こったこれらの革命の背後に「アメリカがいる」と確信。
そして05年、彼は大きな「戦略的決断」をします。「中国と事実上の同盟関係を築く」こと。中ロは、一体化して「アメリカ一極主義」に対抗していくことになった。そして、両国が主導する「上海協力機構」(SCO)を強化し、「一大反米勢力」をつくることにしたのです。
● 首相時代(08~12年)
一人の人物が大統領になれるのは、「連続2期まで」と憲法にある。それで、プーチンは08年、大統領を辞めました。そして、部下のメドベージェフを大統領にし、自分は名目ナンバー2である首相になった。
米ロ対立は、08年にピークに達します。8月、アメリカの傀儡国家グルジア(現ジョージア)とロシアの戦争が起こった。しかし9月にリーマン・ショックが起こり、米ロは和解にむかいます。「米ロ再起動時代」といいます。この時代は、2012年までつづきました。
● プーチン3期目(2012~18年)
2012年、プーチンが大統領に返り咲きました。任期は、憲法改定により、4年から6年に延びています。
プーチンは、「再起動時代」を終わらせ、またアメリカとの戦いを開始します。そして、着実に勝利を重ねていきました。例をあげれば、
- 2013年9月、アメリカのシリア攻撃を止めた
- 2014年3月、クリミアを無血併合
- 2014年4月、ウクライナで内戦ぼっ発
プーチン・ロシアは、ウクライナからの独立を目指す東部ルガンスク州、ドネツク州を支援。両州は、事実上の独立状態になった。
- 2015年9月、ロシア軍、シリアISへの空爆を開始
ISの資金源である石油インフラを容赦なく破壊。ISは、急速に弱体化していく。
- 2017年12月、プーチン、シリアで「勝利宣言」
シリアでは2011年から内戦がつづいています。欧米、サウジ、トルコなどは、「反アサド」を支援している。ロシア、イランは、アサド現大統領を支援している。そして、2018年5月時点で、アサドは健在。つまり、ロシアは、シリア代理戦争でアメリカに勝っている。
強化される制裁、ボロボロの経済
勝利をつづけるプーチンですが、ジワリジワリと追いつめられています。なぜ? ロシア制裁がますます強化されているから。もともとは、「クリミア併合」が理由だった。しかし、現在では、
- ロシアがアメリカ大統領選に介入したこと(ロシアは否定)
- ロシアが、元諜報員スクリパリをイギリスで殺そうとしたこと(ロシアは否定)
- ロシアが国家ぐるみでドーピングをしていたこと(ロシアは否定)
などなど、さまざまな理由が「制裁強化」の口実に使われ、非常に苦しい状態になっています。
少しデータを見てみましょう。ロシア、プーチンの1、2期目(00~08年)は、年平均7%の成長をつづけていました。では、プーチン3期目(12~18年)は?
- 12年、3.7%
- 13年、1.8%
- 14年、0.7%(この年、クリミア併合、対ロ制裁はじまる)
- 15年、-2.5%
- 16年、-0.2%
- 17年、1.55%
17年は、原油価格がバレル30ドル台から60ドル台まで倍増したためプラスに転じた。しかし、1~2期と比べると、「メチャクチャ悪い」ことがわかるでしょう。
2016年時点でロシアのGDPは1兆2,807億ドルで世界12位。これは、韓国(11位)よりも下です。そして、一人当たりGDPは、8929ドルで世界71位。平均年収が90万円(!)強というのは、実に厳しい。ロシアの経済的苦難を示すこんな話もあります。
ロシア軍事費、20年ぶりに減少 経済的苦境が影響 CNN.CO.JP 5/6(日)16:59配信
ロシアの軍事費が過去20年で初めて減少を示した。ロンドン(CNNMoney)軍備管理研究などの団体「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」は6日までに、ロシアの昨年の国防費は3.9兆ルーブル(約6兆6,300億円)と2016年比で17%減少したと報告した。
軍事費が前年比で、17%減少! それでも6兆,6300億円で、5兆円の日本よりずいぶん多いです。GDP比では4.3%。日本の防衛費は、GDP比で1%ですから、ロシア「かなり無理してるな」とわかるでしょう。
景気がちっとも上向かないということで、もちろん国民の不満も高まっています。それで、5月5日には、ロシア全土で、「プーチンは皇帝ではない!」という反体制デモが起こりました。
著名ブロガー呼びかけ、露各地で反プーチンデモ 読売新聞 5/6(日)14:23配信
【モスクワ=畑武尊】3月のロシア大統領選で圧勝したプーチン大統領の就任式を7日に控え、就任に反対するデモが5日、ロシア各地で行われた。人権団体は、全土で1,200人以上が警察に拘束されたとしている。大統領選への出馬が認められなかった著名ブロガーのアレクセイ・ナワリヌイ氏が呼びかけたもので、モスクワ中心部には数千人が集結。「プーチンなきロシアを」「彼は我々の皇帝ではない」などとシュプレヒコールを上げた。プーチン氏支持者とデモ隊が小競り合いになる場面もあった。
プーチン、苦しい船出
さて、ロシアでは3月18日に大統領選挙が行われ、プーチンが76%の投票率で圧勝しました。「なんで経済的に苦しいのに、プーチン圧勝なんだ!?」と思いますね。すぐに思い浮かぶのは、「不正があったのでは?」です。あったのでしょう。しかし、完全に公正な選挙だったとしてもやはりプーチンが勝ったと思います。
確かにロシア経済は苦しい。ですが、一般人のほとんどは、「プーチンのせいで景気が悪い」とは考えないのです。一番ポピュラーなのは、「制裁を主導しているアメリカが悪い!」という意見。次に、「アホのメドベージェフ首相が悪い!」、さらに、「なぜか米国債を買い増しているロシア中央銀行が悪い!」。
いろいろな意見がありますが、ほとんどの人は、「プーチンのせいで」と考えない。それで、「プーチン圧勝」なのです(「反プーチンデモ参加者」も多数いますが、ロシア全体でみるとまだ少数派ということですね)。
プーチン4期目は2024年までつづきます。正直、ロシアの運命は、「アメリカが握っている」といえるでしょう。アメリカが制裁を解除すれば、ロシア経済はだいぶ楽になります。しかし、プーチンは、シリア、ウクライナで戦術的に勝ってしまう。戦術的に勝つと、恥をかかされたアメリカが、「また制裁を強化する」という悪循環がつづいています。
トランプは、「親ロシア」「親プーチン」で、ロシアをいじめたくないらしい。しかし、全民主党、共和党内の反ロシア派があまりにも多く、和解できない状態がつづいている。プーチン4期目、ロシアは困難がつづくことが予想されます。
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