本来の意味は「冒険的な」という言葉である「ベンチャー」企業。その「生存率」はかなり低く、20年後まで残る会社は稀だといいます。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、ベンチャー企業が優良企業に成長するためのコツを、経営のカリスマ・松下幸之助氏の名言とともに解説しています。
超優良企業への変貌
ベンチャー企業の生存率を知りたくて、データを調べてみました。創業から5年後は15%、10年後は6.3%。20年後はなんと0.3%だそうです。ところでその昔には、現在の中核をなす大企業もまたベンチャー企業でした。零細でしかなかったそんなベンチャー企業が、どんな手立てでもって現在のような“大”をなす中堅優良企業になったのでしょうか。
つらつら考えるに、そこには3つの要因がありそうです。一つの答えは「仕事が伸びるか伸びないかは、世の中が決めてくれる」という松下幸之助さんのその言葉の真実を知っているかどうか。つまり経営者自身が“時代の欲求”を的確に見出し、そこに持てる力を集中させて“リスク(機会)”に賭けられるかどうか。
一つは、普通と言われる“人材”からいかに多くの「知恵(衆知)」を得られるか、そしてそれら“人材”をいかに“偉大な人材”に育て上げられるかです。これについて少しくどくなりますが、話をすすめてゆきたいと思います。
また、松下幸之助さんですが、
「自分の仕事は、人の助けなくして、一日も進み得ないのである」
「半分は先輩から教えてもらう、半分は部下から教えてもらう」
「“すべて”の人を自分より偉いと思って仕事をすれば、必ずうまくいくし、とてつもなく大きな仕事ができるものだ」
「なすべきことをなす勇気と、人の声に私心なく耳を傾ける謙虚さがあれば、知恵はこんこんと湧き出てくるものです」
「人間は本来働きたいもの。働くことをじゃましないことが、一番うまい人の使い方である」
とあり、要するに“人材”という最大の経営資源の偉大さを知りその活性化の“コツ”を知ることが“リスク”を“機会”とし“成果”と成せる基本技なのです。
「労働力」と言う言葉がありますが、それは人が持つ「能力」の中で「手足」のみを重視したもので、ここには最良のパワーである「頭脳」「心」を活用しようとする発想はうかがえません。これでは、今日の否応なしに激しく厳しく変化する国際的な競争環境においては、国内予選ですら敗退するのは目に見えてのことがらです。
ところで、“大”となった零細企業(ベンチャー企業)ですが、当初には俗に言う優秀な“人材”はもちろん普通の“人材”さえ集まりませんでした。ところが、凡庸と見なされた“人材”のなかから、経営者のよき「考え方」の薫陶が功を奏して「熟達者」たちが排出されて行きました。また“よき思い”“先見性”“冒険精神”これらの「価値観」「文化」は、活躍できる“人材”を魅せて集めるのでそこに“繁栄の種”も蒔かれました。
また松下さんの言葉を一言。
「一流の人材ばかり集めると会社はおかしくなる。世の中、賢い人が揃っておれば万事上手くいくというものではありません。賢い人は、一人か二人いればたくさんです」
何度も繰り返しますが、魅力ある「経営理念(ミッション)」「人間観」こそが企業を成功に導びいて行く普遍的な手法であり手段であり“コツ”です。
経営とは“心を持った人間”が行う活動であり“良きことを生き甲斐とする“人材”が集い、本気に“力を尽して”もらわなければ「京セラ」のいう「全従業員の物心両面の幸福を追求する」ことなどは及ばないことです。ここに、零細ベンチャー企業を優良企業に成長させる鍵があります。
もう一つの最後の要因を説明します。また松下さんの言葉を引用します。
「人には燃えることが重要だ。燃えるためには薪が必要である。薪は悩みである。“悩み”が人を成長させる」
「誰でもそうやけど、反省する人は、きっと成功するな。本当に正しく反省する。そうすると次に何をすべきか、何をしたらいかんかということがきちんとわかるからな」
「万策尽きたと思うな。自ら断崖絶壁の淵にたて。その時はじめて新たなる風は必ず吹く」
「人は何度やりそこなっても、『もういっぺん』の勇気を失わなければ、かならずものになる」
すべて企業に言えることですが、どんな企業にも逆境があります。超優良企業も同じで、あの大トヨタにしろホンダにしろパナソニックにしろ京セラにしろ挙げれば限がないのですが、皆破滅のそれもぎりぎりの瀬戸際の時期を持っています。
この時期がない方がいいのかと言うと、実はこの「断崖絶壁の淵」にこそ「新たなる風は必ず吹く」で、ここにこそ超優良企業へと目覚めさせ脱皮させるまことにシビアな“機会”がありました。「本当に正しく反省する。そうすると次に何をすべきか、何をしたらいかんかということがきちんとわかるからな」と言う言葉が生きます。
トヨタでは、自分で生き残りの道をひらくため“カイゼン”が始まり。ホンダでは「ホンダ技術研究所の分離」「専門職制度の開設」を行い。パナソニックでは、「理念経営(水道哲学)」「事業部制」があり。京セラの「アメーバ制度」の創設があります。
それぞれに形こそ違え「経営理念・行動規範の導入」「経営管理システムの確立」「組織の開発」「管理会計の活用」「人材育成のための制度」等、優良中堅企業になる基盤が整えられて行きました。「断崖絶壁の淵」での猛省こそが、優良企業への道を開いたとも言えます。
松下幸之助さんは別格の感がありますが、超優良企業でも危機の淵に立って始めて安逸や幸運に安住していたこと中途半端な経営を行っていることの怖さを身に染みて知って、やっと高みの経営のあり方を探り取り入れます。トヨタは問題のないところに問題を見つけて“カイゼン”を行っています。これこそが“強み”を継続させる方策で、だから優良企業となっています。
少し追加で、なんらかの意味で破綻された経営者の方、その経験は始まりだと言えます。他の人より真実を知ったのですから、松下さんの言葉「人は何度やりそこなっても、「もういっぺん」の勇気を失わなければ、かならずものになる」を持てれば真実を知った“強さ”と“賢さ”があるのだから“覚醒”されればより深みのある大きな“機会”を手に入れると信じます。
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