アメリカと各国の関係悪化が止まりません。中国やロシアはおろか、米国のイラン核合意離脱で欧州とも足並みが揃わない事態に陥っています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、トランプ大統領が各国との間で展開する「メチャクチャな外交」を分析しつつ、その理由を探っています。
トランプ、【最悪】外交
トランプさんの外交が、最悪レベルになっています。どういうことでしょうか?
まず、アメリカとロシアの関係は、最悪です。トランプさんは、昔も今も「親ロシア」「親プーチン」。しかし、全民主党、共和党反ロシア派が強く、和解できないでいる。現在
- クリミア併合
- ロシアのウクライナ内戦介入
- ロシアが、シリア・アサドを助けていること
- ロシアがアメリカ大統領選挙に介入したこと(ロシアは否定)
- ロシアが、元諜報員スクリパリと娘を殺そうとしたこと(ロシアは否定)
などを理由に、制裁がますます強化されている。
貿易戦争で悪化する米中関係
もし、アメリカがロシアをつぶすつもりなら、どうすればいいのでしょうか? 定石は、「中国と組んでロシアをつぶす」となるでしょう。アメリカはニクソン時代、中国と和解し、ソ連に対抗しました。
しかし、トランプさんは、何をやったか? そう、「米中貿易戦争」を開始した。
現在米中関係は、アメリカ主導の貿易戦争で悪化しています。つまり、アメリカは、ロシア、中国、二大国との関係を同時に悪化させている。もしアメリカが中国に勝ちたいなら、ロシアと和解して中国と対峙すべきなのです。
ひょっとすると、トランプはそうしたいのかもしれない。しかし、既述のように、アメリカは現在、中ロを同時に敵にしています。
イラン核合意離脱で悪化する米欧関係
さらに、トランプは、「イラン核合意」からの離脱を宣言した。この合意は、イランと、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国によるものです。ここからアメリカは離脱する。
ところが、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、ドイツ、イランは、この合意支持なのです。結果、欧州は、この合意を維持するために、ロシア、中国、イランとの関係を改善させている。
さらに、アメリカは、「欧州と貿易戦争をはじめる!」(ドイツとロシアを結ぶ海底ガスパイプライン)「『ノルドストリーム2』に建設参加する企業には制裁を科す!」と脅しています。
中ロとの関係が悪ければ、せめて欧州のとの関係は良好に保つべきでしょう? ところがトランプは、遠慮なく欧州との関係を悪化させています。
米朝関係も悪化
北朝鮮核問題は、もともと「圧力派」と「対話派」にわかれていました。日米は、「圧力派」。中ロは、「対話派」。しかし、北は今年1月、突然「対話派」になった。そして、韓国を「対話派」に引きずり込んだ。さらにトランプが、「米朝首脳会談をやる!」と宣言し、「対話派」になった。
以前も書きましたが、これは当然のことです。というのは、「圧力派」は、「非核化前提の対話」を求めていたのでしょう? 金が「非核化前提の対話を」と譲歩したので対話しなければおかしい。
日本は、「初期の目的」を忘れ、「唯一の圧力派」になり孤立しました。しかし、安倍総理は、間違いに気づき、「対話派」にちゃっかり加わった。
現在、日本、アメリカ、中国、ロシア、韓国、北朝鮮、皆が「対話派」です。しかし、「条件闘争」になっている。日米は、「非核化」の後に「制裁解除」。中ロ北韓は、「段階的非核化」「段階的制裁解除」を主張しています。金の本音は、交渉によって制裁を解除させ、核は保有しつづけたいのでしょう。
米朝関係は、よくなった。ところが、大統領補佐官のネオコン・ボルトンさんが「リビア方式で行く!」と宣言し、再び悪化しました。皆さんご存知のように、北朝鮮は、「米朝首脳会談やめる!」といっています。
「リビア方式」とは、「核開発停止、放棄」、その後「制裁解除」です。これ、本質は日本の主張と同じですね。しかし、これを実行したカダフィは、8年後に殺されています。「リビア方式」といえば、金は、「カダフィのように俺を殺すつもりだな!」と確信するでしょう。
別の言葉を使って、「非核化と完全体制保証を同時に進める」「その後制裁解除」。北朝鮮が納得する形で「体制保証」すればいいのです。しかし、ボルトンさんが高飛車にでることで、米朝首脳会談が危機に陥りました。
世界を敵にするトランプ
まとめてみましょう。
- 米ロ関係は、最悪
- 米中関係は、貿易戦争で悪化中
- 米欧関係は、イラン問題、貿易問題、ガスパイプライン問題などで悪化
- 米朝関係は、リビア方式で悪化
というわけで、アメリカは現在、欧州、中国、ロシア、イラン、北朝鮮との関係を悪化させています。はっきりいうと、トランプ外交「メチャクチャ」です。なぜこういうことが起こるのでしょうか? ビジネスマン・トランプさんの頭の中には、「大戦略」がないのでしょう。
世界最高の戦略家ルトワックさん、リアリズム神ミアシャイマーさんは、はっきりとアメリカの「あるべき大戦略」について語っています。つまり、
- アメリカ最大の敵は、中国である
- アメリカは、ロシアと和解して、中国を封じ込めろ
見える構図は、
- アメリカ、日本、欧州、ロシアで中国を封じ込める
です。必勝ですね。ところが今のアメリカは、欧州、ロシア、中国との関係を悪化させている。結果的に、欧州、ロシア、中国が一体化していく。まさに最悪。