二階俊博自民党幹事長の、子供を産まない自由への批判や「食べるに困る家は実際はない」といった講演会での発言が物議を醸しています。この発言を受けて、健康社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中で、子供の自殺はいじめよりも貧困を苦にした件数のほうが多いという事実を示した上で、政治家が「食べるに困る家はない」などと平気で口にすることは許されないと強く批判しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年7月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月分無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
食べるのに困る家は実際はない?
先週、自民党の二階幹事長の発言が物議を醸しました。
発言は二階氏の講演会の時のもので、参加者から「自民党と政府が一体になって、早く結婚して早く子どもを産むように促進してもらいたい」と言われると、以下のように答えたとされています。
●【音声配信・文字起こし】自民党・二階幹事長の「子どもを産まないは勝手な考え」発言を検証▼2018年6月26日(火)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」)
大変、素晴らしいご提案だと思います。そのことに尽きると思うんですよね。しかし、戦前の、みんな食うや食わずで、戦中、戦後ね、そういう時代に、「子どもを産んだら大変だから、子どもを産まないようにしよう」といった人はいないんだよ。
この頃はね、「子どもを産まない方が幸せに送れるんじゃないか」と勝手なことを自分で考えてね。国全体が、この国の一員として、この船に乗っているんだからお互いに。
だから、みんなが幸せになるためには、これは、やっぱり、子どもをたくさん産んで、そして、国も栄えていくと、発展していくという方向にみんながしようじゃないかと。その方向付けですね。みんなで頑張ろうじゃないですか。食べるに困る家は実際はないんですよ。一応はいろいろと言いますけどね。
「今晩、飯を炊くのにお米が用意できない」という家は日本中にはないんですよ。だから、こんな素晴らしいというか、幸せな国はないんだから。自信持ってねという風にしたいもんですね。
食べるのに困る家は実際はない―――。
今晩、飯を炊くのにお米が用意できないという家は日本中にない―――。
なるほど。二階さんは「相対的貧困」の意味を理解していないようです。
日本の相対的貧困率は世界的に見ても高く、「ひとり親世帯」(就労者)は50.8%で、経済協力開発機構(OECD)の調査でも主要国で最悪レベルです。
特に子供の「相対的貧困率」は社会問題で、最新の調査では7人に1人の子どもが「相対的貧困」状態にあるとされています。
「相対的貧困」とは、普通の生活水準と比較して下回っている状態のこと。具体的には世帯1人あたりの手取り収入の中央値を基準とし、その半分未満の場合を指します。
金額にすると1人世帯では年収122万円程度で、両親と子ども2人では244万円が基準となり、4人家族であれば月収およそ20万円以下であれば貧困状態です。
「手取り20万円? だったら二階氏の言う通りじゃん。それだけあれば今晩の飯を炊くお米が用意できない』ってことはないでしょ?」
そう思う人もいるかもしれません。でも、これこそが「見えない貧困」と言われるゆえんです。
子供の貧困の最大の問題は「普通だったら経験できることができない」という、機会の略奪です。
教育を受ける機会、仲間と学ぶ機会、友達と遊ぶ機会、知識を広げる機会、スポーツや余暇に関わる機会、家族の思い出を作る機会、親と接する機会…etc.etc.
私たちは幼少期にこういった様々な経験を積む中で、80年以上の人生を生き抜く「リソース」を手に入れていきます。
ところが貧困状態にある子どもはそういった機会を経験できず、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会など、「機会略奪のスパイラル」に入り込む。
子どもの貧困率が増えた背景には、シングルマザーの増加や、非正規雇用の低賃金が存在していることがわかっているので、その機会略奪が「貧困の連鎖」を拡大させる大きなリスクになってしまうのです。
それだけではありません。若干古いデータになりますが、2011年~2014年までに自殺した国公私立の小中高校、特別支援学校の児童生徒約500人について実態を調査したところ、経済的困難で将来を悲観した自殺が5%と、いじめの2%を上回っていることが明らかになっているのです(文科省調べ)。
完全なる負の連鎖──。政治家が「食べるに困る家は実際はない」などと平気で口にするだなんて、完全にアウトです。
子どもの相対的貧困を放置した場合、42.9兆円の社会的な損失になるという試算(日本財団)もあるというのに…。
今回、メディアは二階氏の発言を問題にしましたが、クローズアップしたのは「子どもを持つ自由」という点ばかり。「ご飯発言」は二の次でした。
日本って本当に素晴らしい国なんでしょうか? 本当に幸せな国なんでしょうか?
正直、私は最近わからなくなりました。みなさんのご意見もお聞かせください。
image by: Shutterstock.com
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年7月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年7月4日号)より一部抜粋