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シダックスが「カラオケ館」に事業売却、業界勢力図はどうなる?

かつて業界の雄として君臨したシダックスが、そのカラオケ部門を「カラオケ館」の運営会社B&Vに売却することが5月末に発表され、大きな話題となりました。カラオケ屋としての「シダックス」の名はそのまま残るようですが、カラオケ館はシダックスとともに「戦国時代」とも言われるカラオケボックス業界を制することはできるのでしょうか。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、同業他社の戦略等を紹介しながら、その行く末を占います。

カラオケボックス戦国時代、到来。カラオケ館とシダックスが覇権を握るために必要なコト

かつてカラオケ業界で権勢を誇っていたシダックスが、傘下のカラオケ運営会社2社を「カラオケ館などを運営するB&Vに売却すると5月30日に発表し世間を驚かせました。

シダックスは主に郊外の幹線道路沿いに大型店を出店し、豪華な料理と飲み物を武器に飲み会の2次会需要を取り込むなどして業績を伸ばしてきましたが、低価格路線の競合が台頭したことで次第に客足が遠のき苦戦を強いられるようになりました。

シダックスはかつて約300店を展開していましたが、不採算店の閉鎖を進めた結果、現在は約180店に激減しています。店舗数の減少に伴いカラオケ事業の業績は悪化し、ピークの2007年度に629億円だった売上高は17年度には170億円と4分の1の規模に縮みました。店舗の減損も影響し、同事業の営業損益は17年度まで3年連続で赤字となっています。

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こうして経営不振に陥ったシダックスのカラオケ運営会社を、業界大手で「カラオケ館」を運営するB&Vが買収することになったわけですが、これによりカラオケ業界において新たな戦いの幕が開けることになりました。

カラオケ市場は安定しています。全国カラオケ事業者協会によると、10年代のカラオケの利用人口(推計)は4,600万~4,800万の間で推移し、緩やかながらも増加傾向を示しています。成長市場とは言えませんが、戦い方によっては十分収益を上げられる市場といえるでしょう。

シダックス郊外を中心に全国的に展開している一方、カラオケ館首都圏の繁華街立地が中心のため、両チェーンは共存できるとみられています。約180店のシダックスと約130店のカラオケ館を両輪に、B&Vは先行する企業を追撃したい考えです。

まさに「戦国時代」の様相、ライバル店の業績と戦略は?

「カラオケ館」と「シダックス」を擁することになったB&Vですが、同社以外のカラオケ運営企業も虎視眈々と勢力拡大の機会を狙っています。

カラオケ本舗まねきねこ

「カラオケ本舗まねきねこ」を展開するコシダカホールディングスの17年度(17年8月期)のカラオケ事業売上高は前年比7.1%増の296億円と好調です。まねきねこは郊外を中心に全国に現在約510店を展開しています。料金の安さを売りとしています。また、多くの店舗で飲食物の持ち込みが可能です。

同社は、日本初と言われる一人カラオケ専門店ワンカラ」の展開を11年から始めたほか、まねきねこでは一人カラオケ専用の料金体系を導入するなど、斬新な試みを打ち出すことでも知られています。近年増えている一人カラオケの需要を積極的に取り込んでいく考えです。

ビッグエコー

「ビッグエコー」を展開する第一興商の17年度(18年3月期)のカラオケ事業売上高は前年比6.6%増の610億円と好調です。ビッグエコーは繁華街を中心に出店を重ね、全国に現在約490店を展開しています。料金はやや高めですが、運営会社の第一興商がカラオケ機器で最大シェアを誇る「DAM」を展開していることもあり、DAM専用カラオケ店として一部のユーザーから高い支持を得ています。また、8種類あるコンセプトルームが人気を博しています。

カラオケバンバン

「カラオケバンバン」を展開するシン・コーポレーションの16年度(17年5月期)の売上高は前年比13.0%増の210億円と好調です。カラオケバンバンは郊外を中心に全国に現在約420店を展開しています。料金の安さを売りとしています。

ジャンボカラオケ広場

「ジャンボカラオケ広場」を展開する東愛産業の16年度(17年5月期)の売上高は239億円です。繁華街を中心に出店を重ね、近畿地方を中心に全国に現在約170店を展開しています。料金の安さが売りでしかも飲み放題込みとなっており、他の多くのチェーンでよく見られる「ワンドリンクオーダー制」や「ワンオーダー制」がありません。また、全店で飲食物の持ち込みが可能です。

コート・ダジュール

「コート・ダジュール」を展開するAOKIホールディングスの17年度(18年3月期)のカラオケ事業売上高は前年比0.1%増の186億円とほぼ横ばいでした。近年は苦戦を強いられています。コート・ダジュールは郊外と繁華街の両方で出店を重ね、全国に現在約170店を展開しています。豪華な部屋と豪華な飲食メニューが特徴で、料金は高めです。

シダックスのクビを絞めたものは何か?

店舗数が多いカラオケチェーンを挙げてみましたが、こうしてみると、「低価格繁華街立地」を志向しているチェーンに勢いがあることがわかります。

まねきねことカラオケバンバン、ジャンボカラオケ広場は低価格を志向し勢力を伸ばしています。いずれのチェーンも、閉店したカラオケ店跡に居抜き出店するなどしてコストを抑えることで低価格を実現しています。

カラオケ事業は変動費(飲食に係る食材費など)の割合が小さく固定費(賃料など)の割合が大きいという特徴があります。固定費がレバレッジ(てこ)の役割を果たすため、客数の減少などにより減収になってしまうと利益が大幅に減少してしまいます。そのため、無駄なコストを削減することがより強く求められます。

そうしたなか、高価格を志向するシダックスは苦境に陥り、同じく高価格志向のコート・ダジュールは伸び悩んでいます。高価格志向の場合、それに見合うだけの付加価値が求められるわけですが、両チェーンは現状、価格に見合うだけの付加価値を提供することができておらず、コストだけがかさむだけで終わってしまっています。

たとえば、両チェーンとも豪華な飲食メニューを提供することを売りにしていますが、カラオケは所得が低い若年層が主要顧客層になるため、カラオケに豪勢な料理や飲み物を求める人がそう多くはなく、豪華な飲食メニューが付加価値になっていないという現実があります。

また、飲食メニューは提供に人手がかかるため人件費がかさみやすく食材の仕入れ費用もかかるため、高コスト体質になりがちです。そうしたことから料金を下げることの妨げとなっており、価格競争力を欠く要因となっています。機械化やメニューの絞り込みなどでコストを抑える必要があるといえるでしょう。

繁華街立地を志向しているチェーンも勢いがあります。ビッグエコーやジャンボカラオケ広場がそうでしょう。飲酒運転に対する規制が厳しくなったことで郊外型のカラオケチェーンに逆風が吹いた一方、繁華街型には追い風になっています。こうしたことから、従来は郊外立地を志向していたチェーンが近年繁華街に出店するケースが目立っています。

B&Vがシダックスを傘下に収めたことでにわかに注目が集まっているカラオケ業界。勢力争いが混沌としているなか、どのチェーンが覇権を握るのかに注目が集まります。

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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