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【書評】中国で「くまのプーさん」とネットで書くと消される理由

近くて遠いお隣の国、中国。日本とは何もかもが違う国ですが、大きな違いをひとつ上げるとするならば、国家による「ネット監視」の徹底ぶりではないでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』は、編集長の柴田忠男さんが、中国の裏を明かした興味深い一冊を紹介しています。

言ってはいけない中国の真実

橘玲・著 新潮社

橘玲『言ってはいけない中国の真実』を読んだ。2015年にダイヤモンド社から発行された『橘玲の中国私論』の文庫化で、親本の発売以降の変化を踏まえた一章を追加している。本書は「中国社会についての『原理的』な説明であり、留学やビジネス、あるいは観光でこの『不思議な隣人』とふれあい、私と同じ疑問を抱いたひとにはきっと役立つだろう」と自讃する。

見ものは巻頭カラーの、「人類史上最大」といわれる不動産バブルが生んだ10大「鬼城(ゴーストタウン)」である。廃墟ファンにむけたガイドもある。なぜこんな愚行が続いたのか。地方政府が濡れ手に粟の錬金術に気づいて、フル活用していたからだ。著者はこれを「フィールドオブドリームス」と呼んだ。

「民主化できない平等な社会である中国(と筆者は定義するが、そうかなあ)では、テクノロジーを駆使した監視社会化が進む。Googleは撤退し、Twitter、Facebookが禁止され、YouTubeにアクセスができないのは天安門やチベット問題に関するニュース映像などの投稿を警戒しているからだ。政治的に利用される可能性のある海外の〈危険な〉ネットサービスは、すべて禁止されている。

通常はこのような極端な情報統制はうまくいかないが、中国では楽々可能だ。公安当局がネットの監視に大量動員できるからだけでなく、禁止されたあらゆるサービスと遜色ないサービスが、即座に提供されるからだ。これは13億の巨大な市場を持っているからであり、他の独裁国家ではこんなまねはできない。

実際、中国の一般消費者にとってGoogleやTwitterを使えないことが、大きなストレスにはならない。困っているのは日常的にこれらを使っていた外国人だけ。ネット企業は自由よりも規制を歓迎し、率先して公安当局に協力している。官民あげて情報統制を強化することで、中国はますます監視社会化している。

政府による極めて高度な技術を用いた情報統制はネット企業、ハイテク企業にとって関税障壁のようなありがたい存在だ。高い競争力を持つ海外企業が参入できないので、国内企業だけで13億の市場を争えるからだ。中国は官民あげて情報統制を強化する、負のスパイラルができあがっている。政府は社会の動揺をさらなる規制強化で防ごうとし、国有・民間企業は率先して協力する。

民間企業が集積した個人情報や信用情報は国家に流出する。2018年中にすべての電子決済が人民銀行系の決済システム経由で行われるようになる。スマホでの電子決済取引は国家が完全に把握可能である。国民の大半は中国版LINEである微信などを利用しているが、通信内容は開発企業が自主検閲している。検閲対象語は1万以上ある。習近平似といわれる「くまのプーさん」も発信不可能w

著者の観察は細かく、ツッコミも豊富、資料もたくさん読まれているようなので、優れたレポートになっている。だが、「近現代史における日本の中国侵略は歴史的事実だから、多少の誇張があったとしても『歴史の改変』には当たらない」という、異様に中国に寛容なお方であった。ならば、国家の歴史認識と個人の人間関係を切り離せばいい、というステキなドリーマーである。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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