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平成最悪の豪雨被害、気象予報士が恐れた「バックビルディング現象」

100名を超える死者を出し、今なお多くの方が行方不明となっている「平成30年7月豪雨」。これだけの降雨をもたらした原因に「バックビルディング現象」の多発が挙げられていますが、一体どのようなメカニズムなのでしょうか。「ニュースステーション」のお天気キャスターとして活躍された河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中で、気象予報士という専門家の視線でこの現象を解説。さらに社会学者の観点からは、国や個人が命を守るために取るべき対策を提言するとともに、災害被害者の悲しみを消費の対象にする報道機関の「愚行」を批判しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年7月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

西日本豪雨と日本のメディア

西日本を中心に甚大な被害が出ていますが、みなさんやみなさんのご家族・知人はご無事でしょうか? 先週の「体調予報」で警告した通り、南から湿った空気が入り込む影響で集中豪雨は予想していましたし、最近の雨は尋常でない降り方をすることも危惧していました。が、ここまで被害が大きくなるとは…。言葉もありません。

7月10日も広島で川が流木に堰き止められ、氾濫しましたが、避難している方たちや捜索されている方たちの暑さによる熱中症なども心配です。

今後1週間はすっぽりと夏の高気圧に覆われ、連日連夜猛暑が続きます。1時間にコップ一杯の水、濡らしたおしぼりで首の後ろを冷やすなどしてください。特に高齢者は喉乾きセンサーが効きづらくなっているので、近くにいる方はその都度声をかけたり、遠くに住むご家族はスマホで連絡するなど心がけてください。

さて、今回の豪雨ですが、防災科学技術研究所が雨雲を解析した三次元動画を公表し、積乱雲が数珠つなぎに次から次へと生じる「バックビルディング現象」が各地で多発し、同じ場所に長時間激しい雨を降らせていたことがわかりました。

積乱雲というのは入道雲が発達したもので、10種類ある雲の中で一番の暴れん坊です。大雨、大雪、突風、竜巻、雷といった災害に繋がる気象現象は全て積乱雲の仕業です。

雲の幅は1~2キロ程度で、寿命は30分~60分。集中豪雨が局地の気象現象で短時間で終わるのもこのためです。

ところが、積乱雲が次々とできたり、一つ一つがくっ付き巨大な積乱雲になると、今回のような甚大な被害をもたらす長時間豪雨になります。専門的には前者は「マルチセル型」、後者は「スーパーセル型」と呼ばれています。

で、今回。先に発表があった通り、バックビルディング現象によるマルチセル型だったというわけです。

これは積乱雲の風上に、次の積乱雲が連鎖的に発生するもので、2014年8月の広島土砂災害や昨年7月の九州北部豪雨でもみられました。

私が1994年に気象予報士第一号となり、ニュースステーション(テレ朝)に出演していた時、福岡で1時間に100ミリ近い雨が降りトップニュースで報じられました。

確か…1997年だったと記憶しています。当時、報道番組のトップニュースで台風以外の気象現象が報じられるのは珍しいことで私も「100ミリの雨を体感して来い!」とプロデューサーに命じられ、筑波の気象研究所で人工的に降らせてもらい、「久米さん~~、これが100ミリの雨です~!」などと中継しました。

100ミリの雨はまるで滝の中にいるようで、土砂は見る見るうちに崩れ、非常に切迫感がありました。

その後、集中豪雨は頻発するようになり、東海地方で「集中豪雨は一回で終わるというそれまでの常識を覆し、断続的に100ミリ近い雨が降りました。ジャイアンツの選手が新幹線で長時間缶詰になったので記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

また、上越地方で今回と同じようにバックビルディング現象で豪雨となり被害も出ました。2000年に入ってからも、度々バックビルディング現象による豪雨被害が続いています。

温暖化の影響?

それもあります。特に近年は海水温が高くなる傾向にあり、雨粒の元となる湿った空気が次々と補給されやすくなっています。

ただ、今回もハザードマップが示した通り、雨に弱い地域での被害が多くなりました

自分が住んでいる土地がどういうところなのか? 警報が出た時にどう行動するか? 家族との連絡をどうするか?

そういった非常時の決め事をきちんと整理し、ご近所とも連携して、高齢者や子供などへのサポートの手順を確認してください。

そして、国も日本は豪雨、地震、火山と災害大国なのですから、米国のFEMA(Federal Emergency Management Agency)のような政府機関設立や、避難所を学校などに委ねるのではなくシェルターのようなものを整備することなどを議論して欲しいです。

最後に、自戒も込めてですが「天災は忘れた頃にやって来る」。明日は我が身かもしれません。…その気持ちがあれば、今回の災害ももっと真摯に東京のキー局も伝えることができたはずです。

この原稿を書いている横で、NHKニュースまでもが被害に遭われた方にカメラを向ける報道をトップニュースにしています。悲しみを消費の対象にするのはうんざりです。

助かって避難している人たち、困っている人たち、東京からできること、わかっていること、必要なこと。それを教えて欲しいです。そういう災害報道も大切なのに…。

image by: 防衛省 海上自衛隊 - Home | Facebook

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年7月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年7月11日号)より一部抜粋

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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