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【書評】官僚のニセ情報もチェックできぬ「文系バカ」のマスコミ

よく「日本の借金は○○兆円」などと報道されますが、それを報じる「文系」のマスコミ側は、官僚が出して来た数字を鵜呑みにしているのではないでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で、編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、自らを数学分野の「専門バカ」と呼ぶ元大蔵官僚の高橋洋一氏の著書。高橋氏はこの著書で、数学的思考を持たない「文系バカ」のマスコミが低レベルな報道をしていると指摘しています。

「文系バカ」が、日本をダメにする -なれど“数学バカ”が国難を救うか

高橋洋一・著 ワック

高橋洋一『「文系バカ」が、日本をダメにする -なれど“数学バカ”が国難を救うか』を読んだ。数学落ちこぼれのわたしは、著者のファンである。期待して読み進めたが、第一章の〈私は「神童」だった!?〉から違和感むらむら。自画自賛のオンパレードなのだ。これは断じて本人が書いたのではなく、ライターの聞き書きであろう。そうでなければ恥ずかしすぎる。

でも、当然本人がチェックしているはずだ。中学時代に東大入試の数学は満点がとれた、全国模試一位とZ会の問題作りで「小遣い稼ぎ」、受験には関心がなくアインシュタインの論文を読む、とかなんとか神童ぶりを語っているが、それは本当のことであっても、自慢たらたらぶりがはしたない。第二章〈何の専門性もない財務官僚は「ただのバカ」〉も本当のことだろうが自慢が過ぎる。

いちばん癇に障るのが、「(笑)」の多用だ。と思ったが、じつは多用ではなかった。でも、出てくる度に厭な感じ。もしかしたら、すべて本人が書いているのかもしれない。だったらなおさら品がない。格調がない。編集者が悪い。それでも、面白いからいいや。最強の官庁・財務省の正体が暴かれていて痛快

エリート意識がハンパない東大法学部出身の大蔵官僚(1980年当時は大蔵省)は「俺たちは日本の財政の専門家だ。国家を背負っている」と豪語していたが、〈変人枠〉で入省した東大理学部数学科出身の著者からみると、彼らは財務官僚としての専門性が全くない「文系バカ」だった。彼らはファイナンス(財政・金融・会計)を理解しておらず、数理的思考も怪しいという感じだったという。

著者は数学分野の堂々たる「専門バカ」だが、その視点から世の中のおかしな点を指摘していて痛快。マスコミの人は殆ど「文系バカ」だから、数学的思考や数理的発想や技術的なことを理解しておらず、そうした事象についてきちんと一般大衆に伝えられない。故に、あまりにも低レベルな報道が多すぎる。

「日本にはこんなに借金がある。財政再建が必要。消費税を上げなければならない」というバカ官僚のニセ情報に対してもチェックができない。著者ら理系の人々はよく「専門バカ」と言われるが「専門バカはただのバカよりいい」と言い返す。「専門バカはそれしかできない」=「専門分野は抜群にできる」だ。

「人工知能」という訳語が誤解を与えているが、AIは人間の作った「プログラム」に過ぎない。AIは「知恵」はまったく持っておらず、人間の作ったプログラム通り、その範囲内で動くだけである。わたしはAIの知性が人類を超えて、というエンタメ・ヨタ話が好物だが、危険なことの起こるプログラムが書けるのであれば、それが起こらないようにするプログラムも書けることを知った

「シンギュラリティ」という言葉を使う人も怪しい。言葉の定義もできていないのに「大変なことになる」とかいうのは「ノストラダムスの大予言」と変わらない。プログラム化できる定型業務はAIに取って代わられる、というのは本当だ。この本は中見出しがうまい。編集者が良い(あれ?)。

著者は大蔵省に入省して3年目、まだネットのない時代に、省内LANを構築した。金融工学を用いて金利計算を修正した。文系大蔵官僚たちは金利リスクの根本を分かっていなかった。著者は郵政民営化の最初から最後まで関わる。わたしはこの本を読んで、郵政民営化の意味を初めて理解した。

財政投融資(財投)改革も著者のお手柄だ。当時の大蔵省は400兆円くらいを運用していたので、少しの金利変動でも大穴を空ける危険性があった。リスク管理を強化するためにALM(資産・負債の総合管理)の導入が必要と考え、異動時に金利リスクの論文を提出した。数か月後、大きなリスクのがあることを知った理財局に呼び戻され、ALMプロジェクトの全権を任されることになった。

ALMのシステムを外注すると、2~3年で10~20億かかるし、極秘なので内部で進めた。システム原型を遊び半分で作ってあったので、3か月という驚異的スピードでシステムを作り上げた。著者は大蔵省をリスクから救った人間とみなされ、「中興の祖」とまで言われて持ち上げられた。と、自分で書いている。まあ、他人の成功は誰も書いてくれないだろうから、こうするしかないが。

数学を専門にしてきたから、コンピュータ・プログラミングやAIには詳しい。SFのような話ではなく、現実のAIについて考えるべきだ、と著者は言う。AIが人間を超えることは当面ないが、人間の仕事の一部を奪うことは十分にあり得る。コンピュータの優れている点は計算能力である。それを生かしやすいのが定型的作業、ルーティンの作業だ。自動車の運転などはプログラム化できる。

弁護士、公認会計士、税理士などは国家試験で合格しないとなれないので、専門職と思われているが、やっている仕事の多くは定型的業務であり、プログラム化できる。裁判官の仕事もかなりAI化できる。資格制度に守られてきた「士業」はいずれ崩れていく。医者の世界でも、画像診断はすでにAIの方が人間の能力を上回り、支援ロボットの技術が進化して、手術の形態も変わっている。

世の中の多くの仕事はAIに代替させることができるが、ポイントはプログラム化できるかどうかだ。曖昧な仕事はプログラム化できないが、仕事の中身を定義可能なものはできる。公務員の仕事はAI化に向いている。AIのほうが恣意的な要素を入れずに、誰に対しても同じ計算をするので、人間がやるより公平になる。許認可に関わる仕事はAIにやらせれば、公務員を大幅に減らせる。

日銀の仕事はAI化できますか」と聞かれるが、もちろんできる。日銀の仕事を定義すると、失業率とインフレ率の関係を一番いい状態にする、それだけだ。ベーシック・インカム、仮想通貨についてもわかりやすい解説があって、まったく経済を知らないわたしにも理解できた。この本はやはり本人以外が書いていると思う。文系バカが文系バカ向きに、ちょっと下世話にまとめている。

著者はしばしば新聞記事の批判をしているが、財務省時代も内閣参事官時代も含め、もう30年ほど新聞を読んでいない。新聞をとっていない。原稿を書くのに必要なときには、大学のデータベースで新聞記事を検索し必要なところだけ目を通す。左派の文系バカが書いているから、新聞記事は役に立たない。イデオロギーで考える文系バカは、スポーツなどを担当するがいい(笑)。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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