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筆跡すら、力強い。西郷どんという巨人が近代日本に残したもの

「今宵はここらでよかろうかい」―。大河ドラマ「西郷どん」のエンディングは、こんな物悲しさを漂わせた西田敏行さんのナレーションで締めくくられます。まるで西郷隆盛の運命を暗示するかのように。無料メルマガ『おやじのための自炊講座』では著者のジミヘンさんが、司馬遼太郎の著書を通じ、西郷隆盛をはじめ、江藤新平・大久保利通ら近代日本の礎を築いた男たちの美学と悲劇を紹介しています。

司馬遼太郎の慧眼

書店で司馬遼太郎氏の『手掘り日本史』(集英社文庫、のち文春文庫)という古い文庫本を見つけた。評論家・江藤文夫氏が司馬遼太郎へインタビューする形で行われたものに司馬氏が手を加えて出版されたエッセイ集である。

中に、「体制製造家と処理家」という一文があった。明治6年、征韓論議がピークに達していた時の参議のメンバー11人を引き合いに出して語る。

西郷隆盛や江藤新平、大久保利通のような“体制製造家”は、みな生命が危ない。悲劇的な最期を遂げる。

あとの人たちは処理家ですね。処理家というものは、誰かが作ったものを処理していく。

体制製造家の悲劇というものがあるんですね。その生涯はまことに華麗で、しかもすさまじい。だが、これは人間のなかにはめったにない才能です。処理家のほうは、たとえば東京大学法学部が生産し得るわけですし、いくらでも出てきますけれども、新たな体制を創始する人間はなかなか出ないんですね。

大久保は処理家だと小生は考えていたが、司馬は体制製造家と見た。

日本人とは何かを探る中で、「無思想の思想という一文が心に刺さった。

思想的民族というのが、世界にはふんだんにいます。しかしながら日本人は、それに入っていない。日本人は思想がゼロなのではないかといわれる。が、私にはどうもそうではなく、無思想という思想が日本人の底の底にあるのではないかと思う。私のイメージでいいますと、それは巨大なフライパンのようなものではないか。いろいろなものを乗せたり、これを煮炊きすることができる。思想を載せることのできる容器のようなものですね。

それはおそらく思想というより、美意識だと思います。簡単に美意識と言ってしまうと、誤解を招きやすいのですが、私はそれをたとえば“神道”ということで考えています。

そして、こう続けた。

要するに伊勢神宮を想像してもらえればいいのですが、玉砂利をきれいに敷きつめ、あたりの景色を清々しくしておく。清らかなことだけが、神道の教理といえば教理ですね。

ただひとつ、穢(けが)れたものを嫌い、それを忌む心がある。これが教義といえば教義です。

日本人の心の内を見抜いている卓見だと感心する。わが国民の素晴らしさや危うさを大衆に説き、時に警鐘を鳴らす知識人がいなくなって久しい。

西郷どん

大阪歴史博物館で開催中の「特別展 西郷(せご)どん」を観に出かけた。NHK大河ドラマ「西郷どん」の主人公・西郷隆盛を取り上げた展覧会であり、西郷ゆかりの品々を紹介するほか、島津斉彬や篤姫、大久保利通などの資料を展示するタイムリーな企画である。

斉彬の鎧兜や、大砲・銃・太刀などの展示もあるが、大半が書状と絵図である。歴史上の人物が書いた自筆の書状を見比べるのも興味深いものだ。「なんでも鑑定団」でもよく見かける西郷の筆致は、太く力強い燃えたぎる情熱が書状の受け手にも伝わったのではないか。

一方、大久保と小松帯刀の筆跡は、細く繊細でよく似ている。生真面目なインテリの字である。子供のような稚拙な字を書いたのは伊藤博文だった。教科書では威厳のある顔をしていたが、意外におっちょこちょいの愛されキャラだったのではないだろうか。

最終展示室に、西郷の肖像画がいくつか並んでいた。生涯一度も写真を撮らせなかった西郷の顔は謎とされている。死後10年以上も経ってから描かれた肖像画は、西郷の弟や息子の顔を参考に創作されたようだ。身長180センチ、体重110キロあったという巨人・西郷は人間としてのスケールの大きさと謎多き人物として傑出している。

image by: shutterstock

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【著者】 ジミヘン 【発行周期】 週刊

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