すでに着工している九州新幹線の「西九州ルート」ですが、佐賀県内の「武雄温泉=新鳥栖」間が計画白紙状態になっていることをご存知でしょうか。その理由は佐賀県が反対しているからだそうですが、どうやら無闇やたらに反対している訳ではなさそうです。鉄道関連にも造詣が深い米国在住の作家・ジャーナリストの冷泉彰彦さんが、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の中で、その理由と問題点について詳しく解説しています。
何とかならないのか、九州新幹線西九州ルート
長崎に行く機会がありました。主要な用件は「新幹線問題」です。九州新幹線(西九州ルート)については既に着工しており、佐賀県の武雄温泉駅から嬉野温泉、新大村、諫早を通って長崎駅まで(駅名は仮称)は今、工事がドンドン進んでいます。沿線では、高架柱が林立して、一部では高架橋が完成し、トンネルも貫通し始めている、その様子を確認するのが目的です。
では、この新幹線は九州新幹線から山陽新幹線につながって、鹿児島同様に本州に直通するのかというと、そうではありません。長崎と武雄温泉の区間「だけ」2022年度内に開業が決まっていますが、そこから新鳥栖までは計画は白紙です。
問題は、この「武雄温泉=新鳥栖」という佐賀県内の区間については、新幹線の幅の広い「標準軌」と在来線「狭軌」を自在に乗り入れ可能な「フリーゲージトレイン(FGT)」の開発を国(厳密には鉄道・運輸機構)が進めてきたのですが、この長崎ルートでの採用は断念という結論に至ったということです。
では、どうして佐賀県内は「フル規格新幹線」の計画がないのかというと、佐賀県が反対しているからです。とは言っても、佐賀としては「ヘソを曲げている」わけではありません。
佐賀には佐賀の十分な言い分があります。つまり、メリットはなく、デメリットばかりだというのです。特急から新幹線になると運賃が上がります。にも関わらず、博多への所要時間も35分が20分になるだけです。そもそも、若者はみんなバスで行くし、東京へは飛行機で行く、それなのに、フル規格新幹線の場合は地元負担を1000億円も拠出するというのは不可能というわけです。新幹線ができてしまうと、現在の在来線の今後も怪しくなります。
そこで佐賀を説得するためにFGTが計画されたのですが、その適用は技術的な問題とコストなどの点から正式に断念ということになっています。現在は、「佐賀に理解してもらってフル規格にする」のか「コストの安いミニ新幹線(秋田新幹線のように在来線を軌間だけ標準軌にする)」にするのかという2つのチョイスが与党のプロジェクトチームで検討されているところです。
この「ミニ」というのは、一種の「当て馬」で、最終的に佐賀を説得する材料のようなものですが、佐賀県の山口知事は現時点では「一切妥協しない」つまり、「1000億円以上を負担するフル規格に同意」はしないという構えです。
長崎の様子ですが、以前は佐賀に遠慮して「自粛して」いた「フル規格要望」がここへ来て全開モードになっており、市電には「実現させようフル規格」といったスローガンが貼ってあったりします。
そういえば、総裁選の「巡回演説会」で、安倍・石破の両候補が佐賀に来ました。石破さんは地方創生の観点から「フル規格」を言うかなと思っていたのですが、「佐賀の反発を恐れた」のと「ここで石破さんが言うとかえって問題が解決しない」と言う計算があったのでしょう。話題にはならなかったようです。
この問題、とにかく「ねじれ」と「もつれ」の結果、ここまでズルズル来たわけですが、何とか「フル」で丸く収まって欲しい、そのためには全くの私案ですが「三方一両損」方式というのも一案と思います。
現在の新幹線は「通過距離に応じて地元負担」と言うのが厳格に決められているのですが、この長崎ルートの新幹線に関しては、長崎はメリットが大きく、佐賀にはデメリットが大きいわけです。そこで、「長崎は多めに負担する」「佐賀も一部は出す」「国が残りを出す」という三者で1000億円を分担するという考え方です。厳密に三分の一ずつと言うのではなくて良いのですが、とにかく佐賀の負担を下げる知恵を引っ張って来る必要があります。
その佐賀では、堤防開門を「しない」ことによる漁業補償問題がありましたが、こちらは「佐賀空港にオスプレイを配備」する代わりにカネを出すという、世論的には「一部には相当な不快感を与える」裁定になっています。新幹線の場合は、もっとスッキリと県外の納税者にも理解のできるような落とし所を探って欲しいと思うのです。
佐賀の言い分は痛いほど分かるのですが、このままではインバウンドにも大人気の九州の観光インフラが不完全な格好で長期化するのではと心配になります。
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