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【書評】なぜ筒井康隆は「老人版バトルロワイヤル」を書いたのか

「今から君たちには殺し合いをしてもらいます」という台詞が話題となった『バトルロワイヤル』という小説がありますが、「老人版バトルロワイヤル」とも言うべき書籍があることをご存知でしょうか。SF御三家の一人である筒井康隆氏によるその衝撃の内容は? 無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんがレビューしています。


銀齢の果て
筒井康隆・著 新潮社

「敬老の日」に筒井康隆『銀齢の果て』を読むんだから、われながら悪趣味である。増大した老齢人口の調節のため政府は70歳以上の国民に殺し合いをさせる老人相互処刑制度」を開始した。主役・宇谷九一郎は77歳、学友で相棒の猿谷甚一は76歳、元刑事。彼は別の地区でこの制度の勝者になっている。

宇谷の住む 宮脇町5丁目地区のバトルは、昨日から始まり一か月続く。対象は男22人、女37人、計59人、生き残るのは一人だけだ。猿谷は宇谷の助っ人、本当は違法かも、でも殺る気満々だ。制度の企画運営は厚生労働省直属の中央人口調節機構・CJCKで、都内処刑担当官は斉木、老人や家族の恨みをかう彼への攻撃者は射殺する権限がある。

彼は老人ホームに行って「殺されるのがいやなら殺すのです自殺という手段もあります」と慇懃無礼に宣告する。政府見解では老人を罪人としか見ていない。バトル・ロワイヤルは一番の生き残り候補が最初に襲われて、生き残るのはだいたい三番手か四番手だと分析する宇谷だが、皆からマークされているようだ。

さてそれから、いろいろな人のバトル対応、殺し殺されが展開されるのだが、一行の空きもなくテキストが続くので、いつのまにか主役が代わっていて読みにくい。政府は余計なお世話で老人の健康に気を配り、何やかやで大切にしすぎて、老人が増え続けた。それで「ご老人をいたわりましょうから一転して老害だからバトルをやらせて数を減らそう」ということになったのだ。

地区の医師は老人の診察や治療をしてくれなくなった。地区内で10余人は、バトル終了を待たずに死亡すると見込まれていた。このチャンスにヤクザが武器を売りに来る。ワルサー一挺が250万円、手榴弾30万円。死の商人の商売繁盛である。厚労省は地震や洪水などの被災地はバトル対象から外すことに決定した。被災者を殺し合わせるにしのびないという「良識」によるものである。

「その良識なる名のもとでこんな状態になったのじゃなかったのかね。あの、間の抜けた介護制度なんてものは良識による悲劇の最たるものじゃなかったのかな」と宇谷は怒る。与党も野党も人気とりとなれあいで、老人を利用し、いたぶってきたのだ。一事が万事、良識や優しさとやらがバトルの裏返しなのだ。

宇谷は生き残る。猿谷は重傷を負うが元気がいい。そこに別地区の生き残り砂原が現れ、このバトルは日本の過去を葬ろうとする愚挙であると断じる。政府は相互処刑などと称しているが、実は老人による老人の処刑、殺害に他ならない。これ以上この制度を続けてはならない。政府に制度を見直す機会を与えるために、実力をもって厚労省を逆襲するしかない、と賛同を得に来たのだった……。

70歳を超えた筒井康隆が描いた、本来なら賛否両論が起きるような刺激的な内容なのに、小説新潮に連載中になんの騒ぎも起きなかった。単行本、文庫本になっても、不謹慎とかいった非難はなかったように思う。今だったら、有名人の些細な一言でもギャーギャー騒ぐ狭量なマスコミもかつてはこんな過激な冗談にも寛容だったようだ。山藤章二が描く40数人の登場人物の全身像と、武器代わりに動員された象一匹の姿が味わい深い。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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