北朝鮮問題を抱える日米中ロ韓の中にあって、堅い同盟関係を結ぶ日米。韓国も両国との関係性を強化すれば対北朝鮮で協調しやすいと考えられますが、それは難しいことなのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』に届いた読者からのこのような質問に、「韓国で反日感情が高まるのには地政学的要因が大きい」とし、米中ロの大国に挟まれた小国の境遇やパワーバランスを解き明かしています。
韓国の悲劇
読者のYさまから、こんな質問をいただきました。
いつもメルマガ楽しく拝読勉強させていただいています。北野様の分析による中国脅威論とその対策は日本でもやっと徐々に理解されてきたかなと思います。沖縄知事選の結果が注目です。
ところで、慰安婦問題のでっち上げと拡散の黒幕は中国とのことですが、韓国は何故、この問題に安易に与するのでしょうか。韓国は、日本の支援を受けて戦後経済復興も成り立ち、今でも日本との繋がりなくして成り立たないと思います。近年の不況の長期化でSWAP再開を泣きついてきたりと我儘放題です。
日本との友好強化と米国との同盟強化が韓国が生き延びていくための鍵と思うのですが、与野党ひっくるめての反日姿勢は、中国の工作があるとはいえ、自国の利益をまともに考えられないのか不思議です。実質属国の北朝鮮が中国の傀儡なのは分かりますけど。
韓国の経済水準や民主化のレベルは、北朝鮮より遥かに高いのに、南北統一は北朝鮮主導の併合でも構わないと韓国人は思っているのでしょうか。逆に北朝鮮は、韓国主導の南北統一は絶対に認めないでしょうし。この辺の突っ込んだ先生のご見解が伺えたら幸いです。よろしくお願いします。
難しい質問ですが、わかる範囲でお答えします。質問の核心は、
慰安婦問題のでっち上げと拡散の黒幕は中国とのことですが、韓国は何故、この問題に安易に与するのでしょうか。
ですね。まず、「慰安婦問題の黒幕は中国」というのは、「今」のことです。もっと正確にいうと、中国が韓国に「反日統一共同戦線」への参加をオファーした2012年以降のことです。
● 中国の対日戦略、「反日統一共同戦線」の「証拠」とは?
→反日統一共同戦線を呼びかける中国
それ以前の流れは、
- 吉田清治がウソを書き
- 朝日新聞が拡散し
- 韓国がこれらの動きを利用し
- 河野官房長官が談話を出し
といった流れでしょう。そして、2014年
- 朝日新聞が慰安婦問題関連記事の誤報、ねつ造を認める
- 2015年12月、慰安婦合意
こういう流れを見ると、もともと「反日日本人」が元凶だったことがわかります。そして、韓国は、日本側から出てきた「おいしい情報」を利用した。中国はさらに上を行き、「慰安婦問題を全世界に拡散し、日本を壊滅させようぜ!」と提案した。それで、朴槿恵は、「告げ口外交」を開始したのです。
なぜ韓国は、朝日新聞が間違いを認めた後も、この問題を拡散しつづけるのでしょうか?
もし、ここで「あの話は間違いでした」とすれば、世界中が、「今までの大騒ぎはなんだったんだ!? 慰安婦像まで建てて! 韓国人は、大うそつきだ!」となるでしょう? だから、「引っ込みがつかない」のです。
それに、「情報戦」は「ウソをつくのが当たり前」という現実があります。韓国は、一貫してウソをつきつづけ、情報戦を有利に進めている。だから、今更「間違っていました」と訂正する理由などないのです。
韓国は、米中の間を揺れ動く
日本との友好強化と米国との同盟強化が韓国が生き延びていくための鍵と思うのですが、与野党ひっくるめての反日姿勢は、中国の工作があるとはいえ、自国の利益をまともに考えられないのか不思議です。
(Yさまのメールから)
「日本、アメリカとの同盟強化が韓国が生き延びていくための鍵」とあります。これは、「その通り」だと思いますが、「すべての人がそう考えているか」というともちろん違います。
08年にリーマンショックが起こり、「アメリカ一極世界」が崩壊した。アメリカは、大いに沈みましたが、中国は沈みませんでした。それで、「アメリカの時代は終わった。これからは中国の時代だ!」とカン違いした人がたくさんいたのです。
日本も例外ではありません。09年、反米親中の鳩山内閣が誕生しています。小沢さんは北京に行き、「私は人民解放軍の野戦軍司令官であ~~~る!!!」と世界に宣言した。
幸い日本は短期間で、「中国が覇権国家になる幻想」から目覚めました。しかし、韓国は、目覚めなかった。その後の流れを見ると、2012年、李大統領は、竹島に行き、「日王が韓国に来たければ謝罪しろ!」といって全日本国民を激怒させました。同年11月、中国は、韓国に「反日統一共同戦線への参加」を提案。「次の覇権国家は中国だ」と信じる韓国は、喜々としてこれに参加したのです。2013年2月、大統領になった朴槿恵は、「告げ口外交」を展開。中国の「反日プロパガンダ部長」として、大いに活躍しました。ところが、北朝鮮情勢が不穏になってきた。どうも中国は、韓国を守ってくれそうにない。それで、2015年末にはアメリカの方に多少戻り、12月の「慰安婦合意」となった。
こう見ると、韓国は、米中の間をフラフラしていることがわかります。いえ、実をいうと、日本もフラフラしているのです。世界もフラフラしています。イギリスやドイツですら、米中の間をフラフラしているのです。なぜフラフラするのか? それぞれの国のリーダーたちが、自問する。
- アメリカは、覇権を維持するかな? それとも中国が覇権国家になるのかな?
- アメリカとつきあうのと、中国とつきあうのと、どっちが「お得」かな?
この質問への回答が、人によって違うのですね。私たちは韓国の話しをしていますが、実をいうと世界中の国々が、いま迷っているのです。
韓国の悲劇
「それにしても、韓国フラフラしすぎ!」と思うでしょうか? これは、韓国の「位置」の問題だろうと思います。
韓国は、いってみれば、「大国に囲まれた小国」です。それで、どの大国も、韓国のことを「別の大国の侵略を食い止めてくれる『緩衝国家』」と見なします。日本もかつて、「韓半島は、ロシアの南下を防ぐ緩衝地帯」と考えていた。
今、中国とロシアは、「北朝鮮はアメリカの侵略をとめてくれる『緩衝国家』だ!」と考えている。それで、金正恩をこっそり守っています。
当然、中ロは「北朝鮮を中心に韓半島を統一しよう」と考え、アメリカは「韓国を中心に統一しよう」と考える。それで、韓国内では米中ロの工作が激しくなり、フラフラするのです。
韓国とウクライナ
大国に囲まれた小国が考えることは、一つ。「どの大国にひっつくのがお得かな?」。そして、ある大国にひっつこうとするとき、別の大国の悪口を激しくいう特徴があります。韓国に似た国はあるのでしょうか?
たとえば、ウクライナ。冷戦時代、アメリカとソ連の最前線は、ドイツでした。それで、アメリカの西ドイツ、ソ連の東ドイツに分断されていた。冷戦終結後、最前線は、徐々に東に移動していきました。今では、かつてソ連の一部だったウクライナが米ロ対立の最前線になっています。
アメリカは、ウクライナをNATOに入れて、ロシアの国境に迫りたい。一方、ロシアは、「緩衝国家」ウクライナをアメリカにわたすわけにいかない。
2014年2月、ウクライナで革命が起こった。親ロシア・ヤヌコビッチは追いだされ、反ロシア、親米政権ができた。新政権は、「クリミアからロシア黒海艦隊を追いだし、NATO軍を入れる!」などといっている。
ロシアは、「緩衝国家ウクライナ消滅」を許すことができず、クリミアを併合した。さらに、「ウクライナの半分は残そう」と東部ドネツク、ルガンスクを支援し、事実上の独立状態に導いた。
ウクライナ新政権ですが、ロシアに対するふるまいは、日本に対する韓国のそれと非常によく似ています。もちろん、ウクライナには「クリミアを取られた」という非常に重い理由がありますが。
これらの話、私たち日本人には、非常にわかりにくい。しかし、中国、ロシア、韓国、北朝鮮、ウクライナなどの人にとって、この「地政学的感覚」は自然なものです。「海という緩衝地帯」に囲まれた日本は、「とてもラッキーだ」というべきでしょう。
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