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日本のトップ研究者がGoogleやAppleに奪われても不幸ではない理由

世界中から優秀な人材が集結するGoogle、Amazon、Facebook、Apple(GAFA)ですが、巷間、この4社にエリートが奪われることを憂う論調が多々見られます。これに異を唱えるのは、世界的エンジニアの中島聡さん。中島さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』の中で、自身のMicrosoftでの勤務経験等を上げながら、現在の状況を「日本 vs. GAFA」の対立軸で見ることの誤りを論じています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年10月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

国とは何なのか

少し前にこのメルマガで、ハーフで二重国籍で3歳からフロリダで暮らしている大坂なおみが日本人なのかどうか、という話に関して、私はどうでも良いと思う、という意見を書きましたが、これは企業にも当てはまる話です。

先日のNBR(National Bureau of Asian Relationship)での会合でも話題になりましたが、米国は中国の企業が米国の企業を買収することにとても神経質になっています。しかし、ビジネスがグローバル化するにつけ、「企業の国籍の意味が次第に曖昧になっています。

Appleは本社もアメリカで株式もアメリカで上場していますが、ビジネスはグローバルな上に、iPhoneやMacBookの生産は中国で行なっているため、貿易という意味では、中国の輸出に大きく貢献しています。

しかし、iPhoneやiPadの中身を見ると、部品の多くは日本製であり、そこに限っていえば、日本から中国への輸出に多大に貢献しています。

さらに訳をわからなくしているのが、高い法人税を避けるために、知的所有権は海外の子会社に持たせているため(アイルランドとオランダの会社を組み合わせているそうです)、利益はそこに蓄積するように出来ています。

さらにすごいのは、米国では憲法を理由に個人情報を国には決して渡さないAppleが、中国では中国政府にとても協力的であり、その観点から言えば、Appleは米国政府よりも、中国政府との関係の方が密だとも言えます。

先週、東洋経済オンラインの「日本は『超エリート』をGAFAに奪われている」には、東京大学が米国の大学院留学のための予備校になっているとか、博士号を持つような日本のトップ研究者が日本を離れてGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に雇われてしまっていることが大問題のように書かれています。

しかし、個々の研究者のことを考えれば、米国の大学院に進んだ方が勉強になることは確かだし、その後の就職活動にも圧倒的に有利です。GAFAは給与面でも仕事環境においても日本の大半の企業よりもはるかに上であり、良いことばかりです。

私がMicrosoftで働くために米国に来たのも、それが理由です。ソフトウェア・エンジニアとして活躍できる環境がシアトルにたまたまあったから来ただけのことで、「米国の企業で働くのは良いのか悪いのか」などという発想は一切ありませんでした。

その意味では、現在、修士号や博士号を持った研究者を上手に活用できる魅力的な企業が日本にないから、GAFAに人材を奪われているだけの話なのです。

米国国内でも同じことが起こっており、旧態依然とした会社からはどんどんと優秀な人が抜け、GAFAで経験を積み、人的ネットワークを作り、その後は、自分で起業するという新しい形のアメリカン・ドリームが起こっているのです。

なので、今の現象を「日本 vs. GAFA」という対立軸で見るのではなく、「コンピュータやインターネットを上手に活用できる企業 vs. そうでない企業」という対立軸で見るのが正しいのです。

その上で、「なぜ日本にはGAFAのような企業が生まれないのか?」、「なぜ日本の大企業の経営者や起業経験もないサラリーマン経営者ばかりなのか?」という議論をすべきでなのです。

ちなみに、GAFAに日本のトップ研究者たちが働くことは、長期的には決してマイナスではありません。私がMicrosoftを辞めてから会社を作ったように、彼らが将来は起業家になる可能性は十分にあるからです。

もし、日本にGAFAに対抗する企業が生まれて欲しいのであれば、そんな人たちにとって、資金集めや人集めがしやすい環境を作ることが何よりも重要なのです。

私の目に止まった記事

重版率8割超。編集者・乙丸益伸「エセ科学的な本は出したくない」

10万部を超えるベストセラーになった『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』を編集してくれた敏腕編集者、乙丸益伸さんのインタビュー記事です。

記事中にも書いてありますが、「人の役に立つ本を作ろう」という意思が本当に強い人で、良い仕事をするのに必要なエッセンスが詰まったような人でした。

記事中に、

例えば、『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』は、僕自身、仕事に追われて悩んでいた時に、中島さんがネットで書いた時間術に関する記事を見つけたのがきっかけです。そこに書かれていた方法を1カ月実践したら、みるみる仕事が片付くようになったので、「これを本にしたい!」と、オファーしました。

と書かれていますが、これは本当で、私のブログの記事「『時間に余裕があるときにこそ全力疾走で仕事し、締め切りが近づいたら流す』という働き方」を読んだ彼が、「これを本にしたい!」と突然連絡をしてきたのです。

彼のアプローチがユニークなのは、解決したい問題があり、その問題を解決してくれる著者を彼が探し出した上で、本を書いてもらうという、ニーズ重視な作り方で、これはあらゆる商品作りにおいて参考にすべきアプローチです。

特にエンジニアは、技術が先にあり、「この技術を使ったらどんな商品やサービスが出来るだろう」という発想をしがちです。しかし、最も重要なのは、解決すべき問題であり、技術は道具に過ぎないのです。

シリコンバレーでは、人工知能やブロックチェーンやVRを使った数多くのベンチャー企業が誕生していますが、残念ながらその大半が、「技術ありき」の会社で、投資家たちもそれに踊らされてしまっています。しかし、最終的に生き残るのは、「こんな問題を解決した」というはっきりとしたビジョンを持ったリーダーがいる会社だけでなのです。

GAFAと呼ばれる、Google、Amazon、Facebook、Appleの4社のことをよく考えてみてもらえばそれは明らかだと思います。Googleは「もっと役に立つ検索結果を返したい」、Amazonは「品揃えの豊富な本屋を作りたい」、Facebookは「人と人を繋げたい」、Appleは「技術で人間の創造性を開花させたい」という創業者のビジョンがあって始まった会社です。ビジョンの表現方法は時間とともに変わりますが、本質は今でも変わっていないことが分かる、良い例です。

image by: achinthamb / Shutterstock.com

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