イーロン・マスク率いるテスラ社が、予想を上回る黒字決算を達成し話題となっています。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で世界的エンジニアの中島聡さんが、同社を黒字化に導いた2つの要因について考察。さらに国内メーカーの雄、トヨタが1,000億円もの社債を発行する理由についても解説しています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年10月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
テスラ社、予想を上回る黒字決算の背景
テスラに関して、私は2年前から「財政的に破綻せずにモデル3の生産を軌道に乗せることが出来れば、テスラはとんでもない企業になる」と予想してきました。
テスラは、リーダーシップのビジョン、技術力、ブランド力、製品の魅力、需要などの面で圧倒的な強さを持っており、唯一の弱点は財政力基盤の弱さにあるからです。
そのため、テスラにとって、最も重要なことは、モデル3の生産ラインを増強し、資金が枯渇する前にキャッシュフローを生み出すことが重要ですが、生産ラインの増強には当然、大量の資金が必要であり、そこがテスラを経営する上で一番難しい部分であることは明確でした。
そんな事情もあり、投資家たちは今期(2018年第三四半期)の業績に注目していました。今期も赤字が続くのであれば、資金がショートしかねません。さらなる資金調達も簡単ではありません。
結果は予想を上回る黒字決算でした($312million)。それも単に帳簿上黒字というだけでなく、最も重要なキャッシュフローもプラス($731million)という結果になりました(参照:Tesla shares soar on surprise third-quarter profit that beats Wall Street expectations https://www.cnbc.com/2018/10/24/tesla-earnings-q3-2018.html)。
黒字化に成功した一番の理由は、モデル3の生産が立ち上がったことにありますが、それに加え、50万人を超える予約者に対し、「すぐに欲しいのであれば、より多くのバッテリーを積んだ$55,000のモデルを購入する必要がある」という条件を突きつけることにより、まずは利益率の高いモデルから販売したことにあります。
私の知り合いの一人も、「$35,000で買える電気自動車というから申し込んだのに!」と文句を言いながら、「これ以上待てない」と$55,000のモデルを購入しました。
ちなみに、テスラは先週、ほどほどにバッテリーを積んだ$45,000のモデルを発表しましたが、これは、予約者の中で$55,000のモデルを購入できる人が尽きて来たので、(利益率の低い)$35,000のモデルを売る前に、$45,000のモデルを売ろうという戦略です。
この手の戦略をMBAの授業では、Revenue Maximization(売上最大化)とか、Customer Segmentation(顧客のセグメンテーション)と呼びますが、非常に分かりやすい例です。