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福岡伸一先生が分析、フェルメールの絵が人を惹きつけ続ける理由

バロック期の代表的画家として知られるフェルメール。その映像のような写実的な描き方は、まだ写真が発明されていなかった当時、画期的技法だったといいます。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、フェルメール愛好家として知られる生物学者の福岡伸一さんと筑波大学名誉教授の村上和雄さんの対談を通じ、フェルメール絵画が持つ独特の魅力について探っています。

“光の天才画家”フェルメールのすすめ 福岡伸一(生物学者)×村上和雄(筑波大学名誉教授)

現在、上野の森美術館でフェルメール展が開催されていますが、そのフェルメールの作品を愛してやまないのが生物学者の福岡伸一さんです。


村上 「ご著書には、フェルメールの絵の中には境界が溶け出しているような世界があるとも書いておられましたね。僕も口では上手く言えないけれども何か他の画家と違うものを感じる。福岡さんはフェルメールの絵が人を惹き付ける秘密をどのように捉えておられますか」

福岡 「同じ時代に彼のように室内の絵を描いた画家はたくさんいました。しかしフェルメールの絵はやっぱりどこか違う。なんというか、全体に光のベールがかかっているような感じがするんですよね。言い方を換えると、フォーカスが合っていない。写真はある一点にフォーカスを当てると、他の部分はボケますよね。人間がものを見る場合も、注目している以外のところは視界には入っていても、光のベールがかかったようでよく見えていないわけです。

絵は対象のどの部分も細部まで描き込めるけれども、すべてを精密に描くと、たぶん人が実際にものを見た時の印象と異なる偽物になります。しかしフェルメールの絵は、全体として非常に精密に描かれてはいるけれども、夢の中みたいなぼんやりしたところとよく見えるところが描き分けてあって、見ているうちに自分も絵と一体になっていくような感じがする。人がものを見た時の印象をそのままカンバスに写しとろうとしたように感じるんです。

それから、絵を見るという行為は、人と絵が対峙するようだけれども、実際には、絵に当たった光が反射して目の網膜を通り抜け、情報を伝える電気信号が脳の中につくり出したイメージを見ているわけで、非常に主観的な行為なんですね。そしてフェルメールの絵は、その主観的な行為を再現する視覚的効果があるような気がするんです。

脳内のイメージは、絵とそれを観察する自分との相互作用として毎回立ち上がってくるもので、客観的にそこに絵があるということではない。相互作用として絵を楽しむという何か動的なものとしてフェルメールの絵はあるような気がするんです。そこが彼の絵の不思議さというか、魅力であって、私もいまだに見る度に新しい発見があるんです」

村上 「興味を抱くようになったきっかけは」

福岡 「ニューヨークのロックフェラー研究所で研究をしていた時に、街でフリックコレクションという個人美術館を見つけたんです。中はニューヨークの喧噪とは打って変わった静けさに包まれていましてね。そこにフェルメールの絵が3枚飾ってあったんです。研究が忙しくて心身ともにボロボロに疲れていた時だったこともあって、強く心惹かれましてね。その時からフェルメールへの“巡礼”が始まったわけです」

村上 「サイエンティストもたまに美術館くらいは行くだろうけれども、一人の画家にそこまで惚れ込むというのは、やはり福岡さんはただ者じゃない」

福岡 「ただの物好きです(笑)。しかし、ただゆかりの地を訪ね歩くだけでなく、フェルメールやレーウェンフックが生きた時代に思いを馳せながら時間を旅するというのは、川の源流を辿りたくなる私のオタク的精神を刺激されて、実に有意義なものでした。まぁそうやって、昆虫少年の頃からずっと自分の好きなことだけやってきた感じがします(笑)」

image by: shutterstock

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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