安倍首相に新たな疑惑が浮上しました。先日、米メディアが「トランプ大統領に気に入られるため首相が日本でカジノの合法化を推進した」とも取れる記事を配信。参院予算委で事の真偽を質された首相はこれを全否定しましたが、はたしてその真相は?元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、この「カジノ疑惑」を多方面から検証しています。
また一つ“不都合な真実”か、安倍首相の「カジノ疑惑」
安倍首相にとって、また一つ、“不都合な真実”が11月5日の参議院予算委員会で取り上げられた。
非営利・独立系の米メディア「プロパブリカ」が10月10日、安倍首相にまつわるカジノ疑惑を報じた。アメリカのカジノ王と親密なトランプ大統領に気に入られるため、安倍首相が日本でカジノの合法化を推進したと受け取れる内容だ。
立憲民主党の杉尾秀哉議員がその件について質問した。
「去年の2月10日、ホワイトハウスで日米首脳会談があって、その後、フロリダのマル・ア・ラーゴ、つまりトランプ氏の別荘に場所を移し、食事会とゴルフあった。その間、いっさいトランプ氏とカジノの話は出なかったということでいいんですね?」
安倍首相は「記事は誤っている」と否定したが、報じられた内容がかなり綿密な取材に基づいており、今後、日米首脳を巻きこむ「カジノゲート事件」に発展するのではないかとみる向きも少なくない。
プロパブリカは90以上の報道機関と提携し、公益を目的とした調査報道を行うことで知られる。ビジネス上の利益や政治の圧力、宣伝の影響を受けない環境のもとで、自社と他社の記者が協力して取材、執筆をすることを旨としている。2010年にはオンライン・ニュースとして初めてピューリッツァー賞を受賞した。
杉尾議員はIR実施法案、いわゆるカジノ実施法案が成立する直前の今年7月6日、参院本会議で安倍首相に「カジノ産業を有力スポンサーにするトランプ大統領との間に密約でもあるのでしょうか」と質問するなど、かねてからトランプ大統領を介したカジノ産業との関係を疑っていた。
「プロパブリカ」の報道はまさに、そのものズバリといえる内容だ。ストーリーは以下の記述ではじまる。
2017年2月、木曜日の深夜、日本の総理大臣・安倍晋三を乗せた飛行機が、ドナルド・トランプ大統領との首脳会談のため、メリーランドのアンドルーズ空軍基地に降り立った。その数時間前には、カジノ王、シェルドン・アデルソンがラスベガスからボーイング737型機で、レーガンナショナル空港へ到着していた。アデルソンはその夜、ホワイトハウスでトランプ大統領、ジャレッド・クシュナー、レックス・ティラーソンと夕食をともにした。
アデルソン氏は、トランプ氏の最大の支持者だ。その選挙キャンペーンや就任式に少なくとも2,500万ドルを投じた。「だが、アデルソンはそれよりはるかに巨額のマネーを目的に、ワシントンにやってきたのだ」とプロパブリカの記者は書く。
アデルソン氏が経営するラスベガス・サンズは、マカオやシンガポールのカジノを経営する最大のカジノ運営会社だが、10年以上も前から、日本に数千万ドル規模のカジノリゾートを建設しようと画策してきたという。
カジノ会社にとって日本は、世界で最も魅力的な「未開拓市場」の一つであるらしい。
記事は次のように展開する。
ホワイトハウスでの夕食会の翌朝、アデルソンはワシントンで安倍と米カジノ業界の他のCEO2人を集めた朝食会に出席した。出席者によると、アデルソンらは、安倍にカジノの話を切り出した。
アデルソンは野望の実現に強力な盟友を持っている。すなわち米国の新しい大統領だ。朝食会の後、安倍はトランプとミーティングをした。
週末のマル・ア・ラーゴでの会談で、トランプはアデルソンのカジノ入札を安倍首相に提起した。日本側は驚いていたという。トランプは「ラスベガス・サンズにライセンスを与えることを真剣に考えるべきだ」と言った。安倍氏は「情報に感謝する」とのみ返答した。
米国大統領が他国のトップに、個人的なビジネスの仲介をするようなことがあるのだろうか。記事では「長年の規範に反する」と指摘している。
11月5日の参議院予算委員会に戻ろう。杉尾議員の質問に対する安倍首相の答弁はこうだった。
安倍首相 「プロパブリカというんでしょうか、この記事。最初に『ホワイトハウスでの夕食会の翌朝、アデルソン氏は』と書いてある。ホワイトハウスでは夕食会はやっていない。だからこれは誤っている記事をもとにしている」
プロパブリカの記事にあるトランプ、アデルソンらの夕食会には、その日の深夜に到着した安倍首相は当然のことながら出席しておらず、開かれたかどうか知るはずもない。
杉尾議員 「プロパブリカはピューリッツア賞も取った調査報道メディアだ。トランプ大統領はラスベガス・サンズを経営するアデルソン氏の日本進出を働きかけた。同席者の一人が『大統領の発言があまりにあけすけで驚いた』と証言している。ここまで詳細に書かれている記事だが、安倍総理は読みましたか?」
安倍首相 「読んだから間違いを指摘している。なにか立派な記事のように言っているが、ホワイトハウスの夕食会はなかった。翌朝はそもそもトランプ大統領と首脳会談をやっていない。マールアラーゴに行った後、そんな話は出ていない。杉尾さんが独自に資料を持っているなら別だが、国会の大切な時間をそんなことで浪費しないでほしい」
外務省のホームページで確認すると、日米首脳会談は以下のように現地時間で2月10日の金曜日に開かれている。
2月10日、ワシントンD.C.出張中の安倍晋三内閣総理大臣は、ドナルド・トランプ米国大統領との間で、午後12時10分頃から約40分間、日米首脳会談を行い、その後の共同記者会見に引き続き、午後1時40分過ぎから約1時間、ワーキングランチを行った。
木曜日の深夜、アンドルーズ空軍基地に到着した安倍首相は金曜日のアデルソン氏らとの朝食会に出席、昼からホワイトハウスで首脳会談をした後、トランプ氏の別荘へ向かった。記事には事実となんの矛盾もない。
むしろ、安倍首相が「ホワイトハウスの夕食会はなかった。翌朝はトランプ大統領と首脳会談をやっていない」とごまかしている。翌朝ではなくとも、翌日の午後には首脳会談が行われているのである。
10月17日の東洋経済オンラインに掲載されたダニエル・スナイダー・スタンフォード大学教授の記事によると、アデルソン氏は2014年5月にサンズ社が運営するシンガポールのカジノへのツアーを安倍首相のために手配するなど、直接、日本政府に働きかけをしてきたようだ。
トランプタワーにおける安倍首相と当選直後のトランプ大統領との会談を成立させたキープレーヤーがアデルソン氏だともいわれる。
安倍首相がこの会談をきっかけにカジノ法案の成立にむけて走りはじめたという推定は以下の経過からなりたつだろう。
2016年11月17日、トランプタワーで安倍・トランプ会談。同年12月15日、衆議院本会議でIR推進法案の修正案が自民党・公明党・日本維新の会の賛成多数で可決・成立。同12月26日、IR推進法が施行された。強行採決をくりかえす強引な与党の国会運営が目立った。
アデルソン氏は2017年9月、埋め立ててつくった広大な遊休地に万博やカジノを誘致しようと意気込む大阪府の松井知事や大阪市の吉村市長に会うため、有力候補地である大阪を訪れた。松井知事らを喜ばせたのは、アデルソン氏が日本のカジノ事業に1兆円を投じる用意があるとメディアに語ったことだった。
カジノリゾート誘致には、東京、横浜、千葉、北海道、長崎、和歌山も積極的な姿勢だ。カジノでつながるトランプ、安倍、アデルソンの蜜月関係が、この国の姿を大きく変えようとしている。
それでも、安倍首相はカジノ疑惑に関する米メディア報道についての質問にまともに答えないばかりか、「間違った記事に基づいている」と、逆に野党議員を批判した。モリ・カケと同じように、私的な思惑を隠し、欺瞞的な姿勢を貫いて、真相を闇に葬るつもりらしい。
ラスベガス・サンズ社が当て込んでいるのは外国人観光客ではなく、日本人富裕層である。
政治家たちはそれを知っていながら、外国人観光客を呼び込むエンジンになると吹聴して、こう言う。「外国カジノ資本のカネでIRをつくらせ、税収が増えれば願ったりかなったりだ」と。日本人の富をカジノの胴元に移転させる装置をつくるだけのように思えるのだが…。
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