従業員10人未満の会社では作る必要のない就業規則ですが、「作成しないのはあまりにももったいない」とするのは、社労士の飯田弘和さん。飯田さんは今回、自身の無料メルマガ『採用から退社まで! 正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』で、就業規則が会社にとっていかにメリットがあるかを記しています。
御社では、就業規則を有効活用していますか?
労基法では、常時10人以上の従業員を雇っている会社について、就業規則の作成と労基署への届け出を義務付けています。ですから、従業員10人未満の会社では、就業規則を作成する必要はありません。しかし、就業規則を作らないというのは実に勿体ない。あるいは、せっかく作った就業規則を従業員に見られないように仕舞い込んでいる会社もあります。これも、実に勿体ない。
なぜなら、就業規則というのは、社内のルールを会社が一方的に作ることができるものだから。こんなに会社にとって都合が良いものを、作らなかったり、従業員が見られないようにしておくなど、勿体ないったらありゃしない。
会社と個々の従業員は、個別の労働契約によって労働条件が定められています。契約がある以上、お互いに契約内容を守る義務があります。労働条件には、賃金、労働時間や休憩・休日、退職や解雇についてなど、広くいろいろなものが含まれます。この労働条件を変更するためには、会社と個々の従業員との間で合意が必要となります。ただし、たとえ合意が得られない場合でも、就業規則の変更によって、個々の労働契約の内容を変更することができるのです。
※秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日)
新たな就業規則の作成・変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、この規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない、と解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続きによる改善を待つしかない。
就業規則については、会社が制定権・改定権を持っています。とはいっても、無制限に変更できるわけではなく、変更内容に合理性が必要になります。この合理性の判断は、裁判所が行います。ですから、従業員が就業規則の無効を訴えて裁判を起こさない限り、一応は、就業規則の内容が会社のルールとなります。
なお、賃金の減額変更などについては、就業規則変更の合理性が否定されやすい。一方、懲戒処分事由や解雇事由を新たに設けたり追加するような場合には、合理性が肯定されやすい傾向があります。
懲戒処分については、そもそも、就業規則等に定めがなければ、従業員を処分することができません。それも、懲戒処分事由は「限定列挙」であるとされているので、就業規則に書かれている懲戒事由に当てはまらなければ懲戒処分できません。せっかく、会社に制定権・改定権のある就業規則なのですから、しっかり内容を吟味して、ヌケやオチのないようにしたいものです。
ちなみに、就業規則の効力が発生する要件は「周知」です。従業員が見ることができない就業規則には効力がありません。労基法で定められた「従業員代表者の意見聴取」や「労基署への届け出」については、効力の発生には関係ありません。「周知」さえされていれば、就業規則は社内ルールとしての効力が発生します。新たな年の始まりに、あるいは新たな年号の始まりに、就業規則の作成や変更・見直しを行って、新たな社内ルールのもとで会社経営・事業運営を行っていきませんか?
以上を踏まえて、改めてお聞きします。
「御社では、就業規則を有効活用していますか?」
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