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イギリスで何が起きているのか?今さら聞けない「ブレグジット」

1月15日、EU離脱案が大差で否決され、21日、メイ首相が代替案を提出しました。しかし、その内容が否決された案と大きな違いがなかったことで、ブレグジットの行方は混迷を極めています。そもそもなぜこのような事態が起こってしまい、今後何が起こるのか、メルマガ『宇田川敬介の日本の裏側の見えない世界の話』では、キャメロン首相時代から遡りメイ首相が抱える苦悩まで、「ブレグジット」の問題の本質に迫り、解説しています。

いよいよ大詰めのブレグジット。その発端は?

イギリスの国益を考えた末の国民投票で、当時のキャメロン内閣が主張するEU残留が否決されました。2016年6月の国民投票の結果です。しかし、この結果については、賛否両論双方が拮抗していたということと、もう一つは、キャメロン首相本人がこよなく嫌われていたということが問題として挙げられます。

キャメロンという人物は、「金のためならば何でもする」という人物でした。そのために、インドに行って無名戦士の墓の前で土下座をし、そのうえでインドの植民地支配に関して謝罪会見をします。イギリス人の多くの人が歴史上の誇りと思っていた内容を、キャメロンは簡単に覆して、イギリスの恥としたのです。

日本でも、そのような首相がいましたね。その首相は、中国との連携とか、東アジア共栄圏のようなことを言い、「友愛」などといっていましたが、ほとんどの人に理解されもせず、その次の選挙では落選どころか、立候補すらできなかったのです。

まさに、それと同じで、「国家の財政」とか「経済的発展」ということが課題として残っていても、それ以上に国家の誇りとか、国民が譲れないプライドというものがあるはずです。残念ながら、そのような「国家の誇りを捨てる政治家」は、どの国でも嫌われてしまいます。

主権と主権があったお互いに尊重する国交ならよいですが、「土下座をして保つ国交はいらない」、それが、日本もイギリスも同じ国民性なんです。政治家というのは、自分の個人の欲と、その欲望をいかにも「国民のためにやっています」のような建前論での国民へのだましが出てくるために、そのようなことが出てきてしまうのです。

キャメロン首相の場合、そのような「金銭的欲望を丸出しにした外交」が明らかになった後、パナマ文書に自分の親が多額の資金をため込んでいることが暴露されてしまいます。そのことによって、「キャメロンの主張することは信じてはいけない。国の誇りを失う」というような感覚が蔓延してしまいます。

そのうえで、キャメロンが起死回生の思いで呼んだ習近平国家主席に対して「人権が守れない国」としてフィリップ皇太子は、晩餐会を欠席。後日になってエリザベス女王が習近平は下品だと言ったことによって、完全にキャメロン首相の信用は失墜します。

つまり、国民的に慕われ、尊敬を集めているエリザベス女王に、いやな思いを強要した。イギリスの統治の象徴である女王の意向を全く汲むことのできない首相である。このことは完全に、キャメロン首相を貶めたのです。

このときに、「欧州懐疑主義」つまり「EU離脱派」の中心となったのは「ボリス・ジョンソン」ロンドン市長でした。非常に人気の高い政治家で、なおかつ、その主張は歯に衣着せず、自分の内容をしっかりと主張するという感じです。

もともとは保守系紙『デイリー・テレグラフ』記者で1989年から1994年まで同紙のEC特派員としてEUの本部のあるブリュッセルに派遣されます。欧州統合の強力な推進者であったジャック・ドロールを厳しく批判、ECの首都たるブリュッセルの地にあって、数少ない欧州懐疑主義のジャーナリストとして知られるようになっていくのです。

以前は左派によって主張されることが多かった欧州懐疑主義を、右派にとって魅力的なものに変貌させるのに大きく貢献します。この国民投票の時もEU離脱の論陣を張り「ほかに選択肢はない」として、そのまま運動を継続します。

そして、キャメロン首相が辞任後、当然のごとく内閣になると思っていたが、本人は立候補せず、キャメロン内閣の中で離脱派でもあったテリーザ・メイが首相となったのです。

メイ首相就任で変わった風向きと蠢く欧州の右傾化

ここで2つの動きがでてきます。1つの動きは、「EU残留派の揺り戻し」です。このことは「本当に離脱をして大丈夫なのか」というような感じになってきます。どこの世界にも「現状が大きく変わることに関する漠然とした不安」がありますが、その内容を非常に多くの人が感じます。

現状の怒りやEUの矛盾だけではなく、キャメロン首相に対する批判票が入っているということが大きなポイントになったと説明しましたが、そのポイントの中において「離脱しないでもキャメロンでなければなんとかなるのではないか」というような感覚が出てくるのです。

このような時に、もっとも政治的に困るのは「どっちつかずの中間派」ということになります。まさに、どっちの結論になっても反対するというような人が、日本にもいますが、そのような存在が国家を停滞させるのです。

そこで、「積極的残留派」と「なんでも批判派」「漠然とした不安派」という三つの派閥が形成され、その中においてメイ首相を攻撃することになります。

もう1つの動きは「このEU離脱を利用した自己実現」ということが出てきます。特に、この問題は、イギリスの中において「スコットランド」「北アイルランド」が独立を目指しているということがあります。そのうえで、スコットランドは、イギリス全体とは異なり、全体の62%が残留派であったために、「スコットランドはイギリスから独立してEUに残留する」と宣言したのです。

スコットランド独立党のスタージョン代表は、このイギリスの混乱を利用して、スコットランドの独立を画策するようになります。当然、イギリスのEU離脱を歓迎しない他の国々は、そのスタージョンを支持することになります。EUの総会に、本来であれば「一地域の代表でしかない」スタージョン代表を参加させ、スコットランドのEU参加を認めるというような状況を作り出してしまいます。

しかし、このことは、他の地域の、地域独立を同様に呼び覚ますことになります。イギリスを非難していたスペインは、「スコットランドを歓迎する」などとし、「イギリスから独立することを歓迎し、支持する」などとしてしまったのです。その結果、スペイン国内のカタルーニャも「我々もスコットランドと同じである」というような主張を行うようになり、カタルーニャの独立運動が大きくなります。

イギリスのブレグジットの動きから派生する地域独立運動が出てくることになるのです。ちなみに、この第27話の主題は、ここ、つまり「地域自決主義」といわれる「地域の独立」とグローバリズムの関係というような感覚になってきます。そこで、この内容はもっと詳しく後に紹介します。

さて、このような中で、イギリスは、2019年3月29日までの間に、離脱に関する条件交渉を行い、そして離脱をすることになりました。メイ首相とすれば、メイ首相の反対派や漠然とした不安派を多く抱えた中で、議会や政党をまとめ、そのうえで、交渉を行わなければならないということになります。

それができない場合は、すべてのEUの恩恵がなくなるので、例えば、今まで関税なしで取引をしていたイギリスとヨーロッパ各国との関税を決定していかなければなりませんし、交通の往来なども1つ1つ条約を結ばなければなりません。

メイ首相は北アイルランドなどに郷愁をもって接しているために、その辺がうまくいかないわということになります。基本的に「政治に感傷をもって接する人はうまくいかない」の法則の通り、合理性を欠いた政策が、おかしな方向に向かうことになります。そのまま交渉も進まず、また国内の統一もできないというのが現状になってくるのです。

そして2018年12月に一応の内容を作ったのですが、その内容に関してイギリス議会はメイの離脱案を否決します。これに対して、内閣不信任案も否決するということになります。

それはそうで、この状況で、メイをやめさせて、首相になってまとめ上げられるだけの人はいないということになるのです。イギリスを「EU離脱したら国が亡びるというようないけにえにしたい」ドイツ・フランス、またはイギリス内でもEUに対する文化などの否定による感情的な対立があるために、少なくとも「ソフト・ランディング」は基本的にありません

その中で「感傷的な結論」しか出せないメイ首相は、そろそろその「感傷的な結論」をなくす必要があるのではないかと考えられます。いずれにせよ、そのような状況が現在の状況なのです。さて、では、次回はイギリスの中心になっている「欧州懐疑主義」について簡単に触れてみましょう。

image by: Drop of Light, shutterstock.com

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