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「毎月勤労統計」不正問題で暴かれた、アベノミクスの化けの皮

厚労省の「捏造」が発覚し、問題となっている「毎月勤労統計」の不正問題。これらの偽装行為が事実であれば「実質賃金はマイナスになる」と指摘するのは、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんです。新さんは、ここ数年のアベノミクスによって、むしろ「日本国民は貧困化した」と厳しい口調で鋭く指摘しています。

毎月勤労統計不正で暴かれた安倍政権の「実質賃金偽装」

2018年に賃金がめざましく上昇したかのように装った形跡のある毎月勤労統計調査。その不正操作安倍官邸関与したのかどうか、気になるところだ。

低迷する「実質賃金」の偽装ではないかと筆者は疑っている。

実質賃金は、安倍政権が誕生した2012年以降、インフレ誘導政策もあって顕著に下がり続けた。2016年だけインフレ率がマイナスにふれたことで前年比わずかに上昇したが、2017年も実質賃金は下落した。

翌年1月31日の参院予算委員会小川敏夫議員はこう質問した。

実質賃金はアベノミクスが始まってから大体5ポイントぐらい下がっている。足下で微増しているが、下がっている状態には変わりない。家計調査の消費支出も落ち込んでいる。…アベノミクスによって国民生活は苦しくなったのではないか

安倍首相は反論した。

実質賃金については、16年に前年比プラスとなった後、17年に入って横ばいで推移している。名目賃金で見れば、中小企業を含め今世紀に入って最も高い水準の賃上げが4年連続で実現し、多くの企業で4年連続のベースアップを実施している

苦しい答弁だった。「実質賃金」の低下はアベノミクスにとって最も痛いところなのだ。

それだけに、2月中に確報値が出ることになっている2018年毎月勤労統計調査への安倍官邸の期待は大きかった。実質賃金はプラス0.3%ほどの高水準が見込まれていた

算出のもととなる同統計調査で、昨年の1月以降、賃金が上昇曲線を描きはじめ、6月には名目賃金速報値で3.6%、確報値で3.3%もの上昇率を示した。21年ぶりの賃金上昇率と報じられた。

ところが、これは不適切な方法によって算出された数値であることが最近になってわかった。昨年1月から、“復元”という名の操作厚労省が加えていたのが一因だった。

この統計、従業員500人以上の事業所に対しては全数調査をするのが決まりだ。なのになぜか厚労省は2004年以降、東京都だけ全数でなく3分の1の事業所を抽出して実施してきた。

給料の高い東京の事業所数が少ないため、平均賃金が実際より低めに出ていたが、厚労省は昨年1月調査分から、抽出した事業所数約3倍にする補正をしはじめた。平均賃金額が実態に近くなった結果、前年同月比の伸び率が急に高く出るようになった。アベノミクスの成果と喧伝するには恰好の材料だ。

エコノミストらはこの不自然な数値の動きに疑問を抱き、メディアが報じた。そして、国会の閉会中審査で追及されるにおよび、厚労省は数値を修正した。

不正な調査が続けられてきた「毎月勤労統計」について、厚生労働省は23日、正しい数値に近づけるデータ補正が可能な2012年以降の再集計値を発表した。現金給与総額(名目賃金)は全ての月で修正され、18年1~11月の伸び率はすべて縮んで最大で0.7ポイント下方修正された。(1月23日朝日新聞デジタル)

昨年6月に3.3%とされた名目賃金の上昇率再集計によって2.8%になった。

しかし、これでコトは済まなかった。国会の議論や、厚労省など関係省庁に対する野党合同ヒアリングで、毎月勤労統計調査の賃金変動は、前年と同じ事業所で比較する「参考値で見るのが正しいことが、総務省の指摘で確認されたのだ。「参考値」なら、さらに伸び率は縮む。

1月24日の衆議院厚労委員会における質疑で、山井和則議員はこう質問した。

山井「再集計された名目賃金の伸び率は2.8%だが、参考値の伸び率は1.4%だ。日本の全体の統計を監視している総務省の統計委員会は、2.8%と1.4%のどちらが適切と考えるのか」

総務省大臣官房審議官「賃金の変化率は共通事業所(参考値)でみて、賃金水準は本系列(公表値)で見るのが適切だ」

つまり、1.4%のほうが適切な数値だと総務省が認めたのだ。

前年同月と共通した調査対象事業所のデータを用いて比べるのが「参考値」、抽出する調査対象事業所の一部を入れ替えて比較するのが「公表値」である。総務省は統計委員会の指摘などから、昨年1月以来、「参考値」を重視してきた。

参考値の名目賃金が1.4%の伸びなら、それに対応する実質賃金の方はどうか。山井議員によると、実質賃金伸び率の公表値は2.5%だったが、再集計で2%に修正された。この場合、参考値を計算すると0.6%になる。

ただしこれは最も伸びた6月の数字であり、参考値で昨年1月~11月の平均を出すと、実質賃金の伸び率はマイナス0.53%だという。この分だと、残念ながら2017年に続き18年もマイナスだった可能性が高い

1月25日の野党合同ヒアリングで、野党議員らは「統計の不正が発覚するまで財務省はプラス0.3%で予算を組んだのか。実際にはマイナスだったことを財務省は知っていたのか」などと追及した。

これに対し財務省側は「昨年9月28日の統計委員会における指摘もあり、賃金変化率については参考値が重要であることを、われわれも認識していた」と答えた。

官僚たちは参考値を重視していた。ならば、麻生大臣はどういう認識のもとに予算編成の指揮をしたのだろうか。財務大臣が実態にもっとも近い数値を把握せず、公表された数値だけを信じていたとしたら、おかしな政策判断になりはしないか。

実は、麻生大臣には、毎月勤労統計調査の不正操作を官僚に忖度させたのではないかという疑惑がある。

昨年9月、厚労省政策統括官が出した文書に、毎月勤労統計をめぐって麻生大臣が経済財政諮問会議で発言した内容が次のように記述されている。

『基礎統計の更なる充実について』として「事業所サンプルの入替え時に「非連続な動き(数値のギャップ)」が生じているのではないか。」との問題提起あり。(平成27年10月16日:第16回経済財政諮問会議・麻生太郎議員提出資料)

厚労省が麻生発言を重く受けとめたことが、この文書で分かる。そこで、2015年10月16日の経済財政諮問会議議事録から麻生発言を拾ってみた。

麻生議員「私どもは気になっているのだが、統計についてである。(中略)毎月勤労統計については、企業サンプルの入替え時には変動があるということもよく指摘をされている。また、消費動向の中に入っていないものとして、今、通販の額はものすごい勢いで増えているが、統計に入っていない。(中略)ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたいとお願いを申し上げる」

要するに、麻生大臣は経済関係の統計データアベノミクスの成果を示す内容になっていないのが不満なのである。

とくに賃金については、名目賃金こそ上がっても物価上昇がそれを上回るため、実質賃金は下がる一方。ゆえに国内消費は低迷したまま。円安、株高の政策誘導で大企業だけアベノミクスの恩恵にあずかってきたのが実情だ。

2012年と比較すると、2017年の実質賃金は4.1%も下がっている。第2次安倍政権下で、国民はそのぶん「貧困化」したといえる。

それでも、安倍首相は通常国会初日の1月28日、施政方針演説消費増税について国民の理解を求め、次のように発言した。

アベノミクスはいまなお進化を続けている。GDP600兆円に向けて歩みを進めていく。…企業の設備投資は14兆円増加し、20年間で最高となっている。5年連続で今世紀最高水準の賃上げが行われた。経団連の調査ではこの冬のボーナスは過去最高だ

なんという認識の乖離だろう。いや、なんという欺瞞か。経団連の調査など、一部大企業の実態を示しているに過ぎない。

経団連は2018年の春季労使交渉の最終集計結果をまとめた。大手企業の定期昇給とベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は2.53%で、1998年以来20年ぶりの高水準となった。(日経2018年7月10日)

安倍首相は、昨年10月30日の参院本会議でも、「五年連続で今世紀に入って最も高い水準の賃上げが実現し、この春の中小企業の賃上げ率は、過去二十年間で最高だ」と胸を張った。

中小企業の賃上げ率を調べたのは連合である。

連合が6日発表した2018年春季労使交渉の最終集計によると、定期昇給とベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は平均2.07%で前年を0.09ポイント上回った。…中小企業の賃上げ率は20年ぶりの高水準になった。(日経2018年7月7日)

2018年12月28日公表の労働力調査によると、就業者数は6709万人連合傘下の労組に加入する組合員は約700万人だ。

そのうち中小企業の組合員が何人かは知らないが、連合の調査をもって「中小企業は20年ぶりの高水準」と言って憚らないところが、いかにも安倍首相らしい。

景気判断のもととなる統計調査の信用が崩れ落ちたばかりというのに、テレビから「景気回復戦後最長」のニュースが流れ、茂木経済再生大臣が「今月で74か月、(景気回復は戦後最長になったとみられます」とコメントする白々しさ。庶民の実感とかけ離れた景気回復PRは、何の効果ももたらさない。

image by: 首相官邸

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