トランプ大統領による2度目の米朝首脳会談開催の公表を受け、「首脳会談が成立する前提が整っていないため、高い確率で成果は出ない」と分析するのは、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者で、数々の国際舞台で交渉人を務めた島田久仁彦さんです。島田さんは、核問題で合意が得られなかった場合にアメリカが北朝鮮への攻撃を躊躇う理由がなくなっていると、北朝鮮との関係を深める中国と韓国の動向も鑑みて結論づけています。
2度目の米朝首脳会談の開催が決定。その見通しは…
米国東海岸標準時で2月5日に行われたトランプ大統領の一般教書演説において、2度目の米朝首脳会談が2月27日と28日にベトナムで開催されることが公表されました。
昨年6月12日にシンガポールで第1回目にして史上初めての米朝首脳会談が実現した際、世界は一様に「これで北東アジアに平和が訪れるのではないか」との気持ちを抱き、熱狂するメディアも多くありましたが、今回の2度目については、どこも非常に冷めた目で対応しているように思います。
本来ならば、“公言通り”2度目の会談を開催するわけですから、もっと前向きにとらえられてもいいはずですが、どうしてでしょうか?
それは、昨年6月来の両国の協議の遅々として進まない状況や、肝心の「朝鮮半島の非核化」の解釈を巡る両国間での大きなズレ、相変わらず核開発が継続されているという動かぬ証拠の連発といったことも大きく影響しています。しかし、それ以上に進展を難しくしてしまっているのが、両国以外の魑魅魍魎たちが過度に介入しているという現実です。
それはだれか?中国と韓国です。そして、両国がそれぞれに北朝鮮と築く“相思相愛の関係”です。まず、中国については、皆さんご存知の通り、習近平国家主席は「北朝鮮の後ろ盾」として、金正恩氏の発言や方針を裏で操っています。また、体制維持のため、金正恩氏も中国をうまく利用しています。
その証拠に、今回の会合の話が出る前にも新年早々、金正恩氏は北京を訪れて、習近平国家主席に“相談”をしていますし、昨年6月12日の前にも、そしてその後にも、まるで逐次、対米交渉の状況を“お耳に入れる”ために訪中しています。その見返りとして北朝鮮は、中国の庇護を受けている。そのような図式が描かれています。
北朝鮮と金正恩氏が対米交渉において、実情に合わないレベルで強気の態度を保っていられるのは、中国のバックアップを得ているからというのは間違いがありません。しかし、不思議なのは、「なぜ、中国がここで明らかな北朝鮮の肩を持つ戦略を取ったのか」という点です。理由としてはいくつか考えられます。
先の米朝首脳会談後、戦略転換した中国の狙いとは?
1つ目は、中国自身が抱える米中貿易戦争と南シナ海を巡る問題と絡んで、アメリカに対して中国が持つ北朝鮮への影響力を、対米交渉における駒として用いたいからと言えます。言い換えれば、「もし北朝鮮との交渉で成果を上げたいのであれば、貿易戦争のみならず、南シナ海問題に関しても対中攻撃を止めよ!」というメッセージでしょうか。
2つ目は、北東アジア地域の今後を決める場に、当事者として参加し、結果に対してきちんと立場を反映させたいと切望しているからです。それは、朝鮮戦争の終結とその後の朝鮮半島の姿を決定する場で、署名国の一つとなるということです。
6月12日の会談後、北京にとってショックだったのは、朝鮮戦争の終結と平和条約締結という南北朝鮮の夢の実現が優先され、中国抜きで、米・朝・韓の3か国で決めてしまう可能性が、実際に有力だったことでしょう。
現在、見える過剰なまでの北朝鮮への肩入れの理由は、ここにあると考えます。今月末に開催される米朝首脳会談に臨む北朝鮮側からの立場の一つに、「朝鮮戦争の終結と平和条約締結に関する協議に中国も当事者として迎え入れる」という内容が示されているのは、北朝鮮の後ろ盾としての中国の存在の証です。
アメリカにとっては、条件さえ揃えば、米韓中朝の4か国を当事者として朝鮮戦争の終結と平和条約締結を行うことについて合意することは、さほど困難ではないでしょう。その条件とは何か?南シナ海問題に関わる米中間での取り決めが出来るか否かですが、これについては、また別の機会に詳説します。
3つ目は、北東アジア地域および世界情勢におけるロシアへの牽制という側面です。北朝鮮建国以来、エリートはソ連に留学して教育を受け、同時にソ連の共産党中枢とのネットワークを築くというのが定石でした。また、北朝鮮の核開発を可能にしたのは、核技術を持つパキスタン・イランとのつながりですが、これも過去にソ連がお膳立てをしたものでした。
当時は冷戦時代で、朝鮮半島の北緯38度線を挟んで米ソが睨みあっていましたので、その“砦”を守るためにソ連は北朝鮮の核開発をバックアップするという理由があったわけです。しかし、ソ連崩壊後、ロシアがその後継国となりますが、10年にわたる経済的な苦境から北朝鮮の面倒を見ることができなくなったことに付け込んだのが、中国です。
外交的には金日成氏も、金正日氏も、そして今は、金正恩氏も中国を重要視していますが、その背景には、ロシアが立ち直る間に起こった中ロ間のパワーバランスの変化があるのではないかと考えています。
昨年に降ってわいてきたような米朝急接近までは、実は、習近平国家主席は北朝鮮を無視している感じがあったのですが、北朝鮮が自らアメリカと交渉することを良しとせず、ロシアが乗り出してくる前に、方針転換をして、金正恩氏の取り込みを急いだようです。
実際に、まだプーチン大統領と金正恩氏の面会は成立していませんし、北朝鮮とアメリカの“交渉”については、ロシアは表立って口出ししていないため、中国の目論見は当たっているようです。
では、仮に米朝首脳会談が不発に終わり、朝鮮半島にアメリカからの攻撃が行われそうになった時、中国は北朝鮮の後ろ盾としての役割を保つでしょうか?残念ながら、それはないと見ています。
その理由は、中朝国境に最精鋭の部隊を配置し、有事の際に北朝鮮からの難民が中国領に流入してくることを力でもって防ぐという姿勢が崩れないからです。
以前にもお話しましたが、仮に米朝首脳会談が物別れに終わった場合、諸々の理由が合わさって、トランプ大統領は北朝鮮への攻撃を指示する可能性が一気に高まります。その場合、朝鮮戦争時と全く異なり、ミサイルによる攻撃となりますので、中国が、北朝鮮の後ろ盾として対抗する術も、そしてそれだけの理由も存在しないからです。
そして、同時に、今年初めに習近平国家主席が異例の指示を軍部に出したお話もしましたが、可能性は低いとは思いますが、アメリカとのいざこざの可能性の一つとして、武力衝突も視野に入れるという内容でした。これは、南シナ海での衝突を想定しており、決して、朝鮮半島での衝突を前提とはしていません。
アメリカからの北朝鮮攻撃の際には、外交的に非難こそするでしょうが、巻き添えになることを避け、力を温存すべく、実際には北朝鮮を見捨てることになるのでしょう。ゆえに、一見、相思相愛に見える中国と北朝鮮の関係は、完全にまやかしであろうと考えられます。そこが、韓国から北朝鮮へのラブコールと異なるところです。
ズタズタの日米韓の協力関係。米国は攻撃に躊躇なし
韓国と北朝鮮の関係については、完全に文大統領が演出する“相思相愛”関係だと言えます。昨年の米朝首脳会談のきっかけを作ったことは評価されますが、実現後にもいろいろと出しゃばり、ローマ法王まで担ぎ出そうとしたことで、欧米諸国からは総スカンを食らい、中国にもすでに相手にされていません。
まさに四面楚歌の状態となっている韓国外交ですが、唯一、前向きに見えるのが同胞北朝鮮との関係です。しかし、実際には北朝鮮からのloveのお返しはなく、相思相愛とは見せかけの韓国・文大統領の片思いにさえ思えます。それでも、同盟国アメリカや日本を度々激怒させ、日米韓の協力関係はズタズタになるなど、まさに北朝鮮はもちろん、中国の思うつぼになっています。
焦るほど墓穴を掘る典型例を今、文大統領の韓国に見ているように思えます。大はしゃぎしていますが、後ろにはもう誰も付いては来ないのが、今の韓国でしょう。
そのような中、肝心の第2回米朝首脳会談の行方はどうでしょうか。結論から申し上げますと、かなり期待薄です。
昨年来、両国間で協議を進めてきていますが、6月12日の共同宣言の内容が非常に曖昧であったこと(何一つ数値目標や年限を盛り込めなかった)もあり、未だに「朝鮮半島の完全な非核化」が何を指すのか解釈が一致していません。
米国側の意図は、北朝鮮が核開発を停止し、保持するすべての核弾頭を破棄することに加え、弾道ミサイルの開発も停止することですが、北朝鮮側は「在韓米軍という“核戦力”も含めた非核化」を指しており、それは同時に在韓米軍の撤退の要求にも繋がっています。
そして、実際の意味することがなんであるにせよ、北朝鮮側の一貫した立場は、「経済制裁を含む対北朝鮮制裁の解除」をもって、漸進的な非核化に応じるというもので、先に土産だけ取られることを受け入れることが出来ないアメリカ側の立場と相反する内容です。
本来ならば、首脳会談が成立する前提が整っていないはずですが、大統領選挙を来年に控えているトランプ大統領としては、mission impossibleとされる北朝鮮との直接対話と“何らかの”非核化に関する成果をアメリカ国民にアピールしたいとの狙いもあり、見切り発車であることは分かりつつも、第2回目の会談に臨む決心をしています。
恐らく、見事に北朝鮮側の思うつぼです。そして、また中国の思うつぼです。ただし、アメリカが延々と続く協議に居残るのであればですが。
昨年の共同宣言以降、進むはずの何らかの非核化に向けた動きは、あくまでもポーズだけで、実際には核開発は継続していますし、ミサイル開発も進められています。韓国の国際社会への裏切りもあり、制裁下で禁止されている石油などの瀬どりが行われ、北朝鮮を追い込む包囲網は完全に崩れています。
そして“裏切り”に加え、日本の海上自衛隊P1哨戒機への火器管制レーダー照射問題が日米両国の怒りの火に油を注ぐ結果になっています。トランプ大統領もすでに韓国を見切っており、それがアメリカの外交戦略にも反映されています。
これまで、何度か北朝鮮攻撃が計画されましたが(直近では、クリントン―ブッシュ時代)、同盟国韓国への被害を考慮して、踏みとどまってきました。しかし、現在の冷え切った米韓関係と、文政権によるアメリカ無視の姿勢により、トランプ大統領は北朝鮮攻撃を躊躇う材料がないと判断しているようです。
つまり、今回の第2回米朝首脳会談が、全く具体的な成果を生まず、米国内および国際社会から批判されるような状況になれば、かなり高い確率でアメリカによる北朝鮮攻撃が起きます。それはつまり協議の終結です。
その時、韓国はどのような動きをするのか?中国は?そしてロシアは?非常に憂慮すべき状況なのですが、この3週間足らずの間に、米国民も、そして国際社会も納得するような合意の種を作れることを願って、最悪のシナリオについては、今回は書かないでおこうと考えています。
しかし、私の見立てでは(いろいろな情報を総合的に分析すると)、非核化に関する実のある内容はもちろん、朝鮮戦争の終結と平和条約締結に関するネタも、特に大きな成果は出ないと思います。
そして、注目すべきは、米朝首脳会談直後に行われる予定の米中首脳会談の行方でしょう。具体的な合意が出来なかったことに気をよくした習近平国家主席がニコニコしている裏で、かつてフロリダでの米中首脳会談の夕食時にあったように、トランプ大統領が「北朝鮮にミサイルを撃ち込んだ」とでも耳打ちするような事態になるかもしれません。
そうなったら、まさに混乱こそしていても微妙なバランスで安定していた北東アジア地域は、一気に混乱と戦争の時代に突入することになるでしょう。今回の米朝首脳会談は、恐らく、アメリカの対北朝鮮最後通牒のきっかけとなるのかもしれません。
皆さん、どうお考えになりますか?
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