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2千万人もいる「就職氷河期世代」の救済に、バラまきがNGな理由 

バブル崩壊後の超就職氷河期に社会に出た「ロスジェネ世代」ですが、ようやく国も彼らの救済に本腰を入れる覚悟を決めたようです。しかし、「補助金をバラまくのは愚策」とするのは、アメリカ在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、ロスジェネ世代を救済するとともに「経済成長への契機」を掴むことも可能な具体策を記しています。

ロスジェネ世代、どうすれば救えるのか?

俗に「ロスジェネ」とか「就職氷河期」と呼ばれた世代について、政府が具体的な対策に乗り出すようです。今年、2019年の夏から3年間をかけて集中支援プログラムを実行するための案を作成するというのですが、上手くいくのでしょうか?

とりあえず報道されているのは、この4月10日に行われた経済財政諮問会議で、ロスジェネの世代を「人生再設計第一世代という呼び方に変えるということが発表されました。これではまるで限界集落が「いきいき集落」だとか、地方の過疎高齢化対策が「創生」だというのと同じで、プロジェクト全体に最初からトホホ感が漂っています

ですが、この問題は待ったなしです。ロスジェネ世代というのは、バブル崩壊後の新卒採用悪化によりそのまま非正規や無職となった世代を指すようです。彼らの多くは40代半ばに達しています。政府は、具体的に「就職氷河期世代とは、1993年から2004年ごろに卒業期を迎えた世代」としており、人口規模は2,000万人弱にもなるからです。

どうして政府が危機感を募らせているのかというと、この2,000万人の人口層のうち約400万人は非正規やフリーターあるいは無職であって、その多くは老後資金としては国民年金(それすら加入していない人もいる)だと見ているからです。

ということは、この人たちの老後というのは、今現在の「平均支給月額」で考えると月額5万5,000円の国民年金だけで生活することになるわけです。もっと言えば、掛け金が低いか加入年数が短いなどの理由で、年金は月額数万円にしかならない可能性があります。

こうなると、国家的な政策破綻もいいところで、特に生活コストが低くても生存できるゾーンみたいな地域がポツポツとできてきて治安が悪化するとか、移民コミュニティよりも、こうした日本人のコミュニティの方が貧困に陥って最後には妙な宗教が流行るとか、自暴自棄的な排外テロが起こるとか、社会的な不安定が増す可能性があるわけです。

もっとも、宗教とかテロなどという「元気のいいグループ」は少数で、実際は健康管理や栄養の問題から一気に平均寿命が短くなるとか、加齢に伴う「うつ症状」がかなり「こじれた」社会現象として出てくるとか、下手をすると根深い社会問題になる可能性もあるわけです。

政府としては、どう考えても月額数万円では生きていけないことから、真面目な話、この400万人の受け皿としては生活保護になると考えているようです。ですが、制度の枠組みとして、生活保護というのは地方財政が財源ですから、例えばですが、生活保護受給の高齢単身者がマジョリティになるような都市というのは、財政的には破綻して行くわけです。

そんな中で、遅きに失したとはいえ対策を考え始めたというのは、悪いことではありません。「人生再設計第一世代」というのは何ともトホホなネーミングですが、とにかく対策を行って成果を出してもらいたいと思います。

心配なのは支援策の具体案です。現在出ている議論としては、ハローワークや大学等が連携し3年で対象者半数の雇用を安定化させるとしています。また、中途採用等支援助成金などの要件を緩和することも考えられています。地方への人材移動の促進も検討されています。

こうした対策で「当面の効果になる形でカネで何とかする」ということでは、問題を先へ進めるのは難しいと思います。というのは、この種の金を流すという手法はこれまでも何度か使われてきたからです。

例えば、この「ロスジェネ世代」を代表する論客である赤木智弘氏は、

これまで国は就職氷河期世代に対して、決して無策だったわけではない。雇用助成金などを中心に、就職氷河期世代の雇用を促進しようと頑張って来たのである。しかし残念ながら、その対策は結局は実を結ばなかった。(中略)結局のところ「企業の良心」や「企業のお情け」を期待して政策を打ったところで、企業だって営利で動いているのだから、儲からないことはやらないというだけの話である。なので、政府がいくら「集中支援」とやらを行ったところで、同じ失敗を繰り返すのは目に見えている。

まだ見ぬ、人生再設計第X世代へ(赤木智弘)

という厳しい指摘をしています。

ではどうしたら良いのでしょうか?

2つ提言したいと思います。

まず第1の問題は「氷河期世代がどうして生まれたのかという原因を特定することです。それは、彼らが新卒で就職する時期に、特に新規採用が細っていたから、ではありません。そんなことは現象の一つであって理由ではないのです。

原因は、「大学卒業後1年以内(新卒)か、一度の就職でミスマッチを起こしただけの25歳前後(第二新卒)」でなければ、年功序列の正社員エスカレータには乗せないという制度にあります。

どうして「年功序列の正社員エスカレータ」には、それ以外の、例えば30代であった時期、あるいは現在の「氷河期世代」は乗れないのかというと、大企業の組織は年功序列がそのまま給料と職位に結びついているからです。

例えば35歳の新入社員を入れてしまうと、給与は新卒の月額21万円になりますが、同じ年齢で入社13年目の人間はすでに管理職で月収55万とかになっていると、その差は激しい訳で、そのような「不安定な例外を企業は嫌います

また、35歳の新入社員というのは、28歳の主任とか33歳の課長からすると、面倒で扱いにくいわけです。上下関係を体育会的に決めつけたい会社の場合、年齢と職位がここまで離れた例外というのは迷惑以外の何物でもありません。

もっと言えば、これが一番大切なわけですが、35歳までフリーターや非正規をやってきた人間は、「自分が経営者としてコスト管理をしたり、部下を教育する」という経験はしていないばかりか、反対に「経営側を批判したり経営側から切られないように防衛一本の生き方しかしていないそんなイメージで見られています

そうした人材に、正社員として「技術面の機密」であるとか「実はブラックな実態など、経営上の機密事項」へのアクセス権を与えるということは、日本の企業はしたくないのです。まして「この会社の企業風土に染まってほしい」と思っても、「長年にわたって非正規の心構えに染まった人間は斜に構えてしまって無理というように考えます

企業側の考え方としては、こうした辺りを全く疑っていないようなのですが、これは非常におかしな考え方です。とにかく日本の「氷河期世代」あるいは「ロスジェネ」と言われる世代は、世界史上「高学歴人口を全く使いこなせていない巨大な人材のムダ」の事例になっているわけで、これは雇用側も含めて本当に反省し、恥ずかしく思わなくてはなりません。

この問題への答えは簡単です。新卒一括採用と終身雇用制をやめれば良いのです。そして、時代はその方向に向かっています。ようやく経団連も「もう終身雇用は終わり」というようなことを言い始めていますし、その終身雇用をやめるという意味合いの中に、

1.新卒には終身雇用を保障しない
2.競争力のなくなった中高年は以降の雇用を保障しない

というだけでなく

3.「年功序列エスカレータを廃止して、年齢を問わず優秀な人材は採用する

という点を加えるべきであり、そうなればこの2つの問題はつながっていくわけです。

理念的にはそうなのですが、問題は具体策です。

ここで原則を確認しておくのであれば、「年功序列エスカレータ」を廃止するということは、企業として好きなように採用して、好きな時に切れるという一方的なものであってはなりません

かといって、10年契約とか5年契約という「終身雇用ではない」形にしても、組合等が力を持てば、結局は経済全体の生産性は弱くなってしまいます

鍵となるのは、専門職制度です。いわゆるジョブ型というやつで、まず個人がスキルを磨いておいて、そのスキルが労働市場で評価される形で転職を繰り返しながら年収を維持してゆくという制度です。制度というより、欧米とアジアでは当たり前の考え方です。日本でもこうした制度が成立しなくてはなりません。

2つ目の提言はそこです。

氷河期世代、あるいはロスジェネの人々も、とにかく専門職の職業訓練の機会を持つべきです公的助成のカネを入れるならここです。方法論としては、大学や大学院などのコースで、「現在、即戦力となるスキル」を身につけて、堂々と労働市場での競争力を身につけて行くのです。

具体的には次のような可能性があります。

1つは、日本式経営における管理監督ですが、これは本人たちもやりたくないし、企業側もやらせるのはイヤでしょう。それ以前に、そもそもオワコンなのでスルーでいいでしょう。

2つ目は、何といってもプログラミングです。小学生に教えるという話もありますが、コンピュータへの周辺知識はある世代ですし、高学歴や高い地頭(じあたま)の能力を持て余している人もいると思います。3年で一人前になれる世界でもあり、絶対にやるべきです。

3つ目は、英語の事務接客サービスです。とにかく需給関係で、伸びるのは間違いないので、ここに注力することは大事です。

4つ目は、IT化・自動化した職場の運用です。ここでは、使えない中高年の高給取りを追放して、その代わりにロスジェネが仕事を奪うことは十分に可能ですし、成功事例さえできれば伸びるのではと思います。

5つ目は、日本語での接客サービスですが、非正規としてロスジェネが耐えて支えてきた分野であり、ここは「最低賃金アップ」とか「労基法規制のさらなる厳格化」などで、老後資金まで貯められる年収を保障するように制度の網を張って行くべきと思います。インバウンドがもたらす売上増加を、しっかり現場労働者に還元することが肝要です。

6つ目は、起業です。別にコンサルとかIT業界のである必要はありません。街の食料品店、街の定食屋、ちょっとした居酒屋といった業態を、プリントアウトしたビニールの「宣伝のぼり」を立てた全国チェーンの「ヘトヘトなフランチャイズ」ではなく、一軒一軒がしっかり自立した「一国一城の主にするのです。そのような転換により、多くの人々の人生を救済できるだけでなく、経済成長への契機がつかめるのではないでしょうか。

非常に大枠な議論となりましたが、とにかく終身雇用から「専門職制度へ」、大企業の意味不明なヒエラルキーとペーパーワークをぶっ壊して、経済の活力を「現場へ」という2つの変革をしっかり行い、そこにロスジェネ世代の人生の再スタートといいますか、人生の中盤からの逆転劇が可能なようにして行く、これが大きな意味で対策の根幹になると思います。

そのような改革の志のないままに、チョロチョロと補助金をバラまくのは愚策です。それこそ赤木氏の指摘しているように、何も前には進まないでしょう。

image by: nuu_jeed / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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