以前掲載の「台湾の総統選に鴻海の郭台銘会長が出馬表明『女神が促した』」でもお伝えしたとおり、2020年に行われる台湾の総統選への出馬を宣言し話題となった、鴻海(ホンハイ)の会長・郭台銘氏。日本ではシャープの買収などで知られる郭氏、台湾では「親中派」「中国寄り」ということが一般的に知られていますが、総統に選ばれる可能性はあるのでしょうか。台湾出身の評論家・黄文雄さんがメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の中で、郭氏を巡る報道や発言などを紹介しつつ彼の人となりを明らかにするとともに、台湾の「命運」を占っています。
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年5月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【台湾】台湾を「中国の一部」と発言したホンハイ会長・郭台銘の正体
●<台湾>トランプ大統領と会談した郭台銘・次期台湾総統候補の狙い
総統選挙への立候補を表明した鴻海会長の郭台銘(テリー・ゴウ)氏ですが、現状ではあまり人気がありません。やはり親中的なイメージが強くあるために、多くの台湾人が警戒しているのです。
しかし、出馬したからには何らかの勝算があるはずです。彼の場合、政治の世界に自身のビジネスを巧みに利用して、米中の仲介役を演じることが勝利のカギと想定しているのかもしれません。というのも、5月1日、郭氏はホワイトハウスまで出向いてトランプ大統領に会ってきました。その際、中国が認めていない台湾の国旗とアメリカの国旗が描かれた帽子をかぶっていました。
会談を終え、記者たちとの談話で郭氏は、「私は会談の最中ずっとこの帽子をかぶっていた」と言って、台湾人に向けて、自分は「台湾」の代表だということをアピールしていました。
しかし、会談後の飛行機内の談話で、「台湾は中国の絶対不可分の一部であり、中華民族に属する」と発言したのです。
中国メディアも、この発言を喜んで報じています。
この発言を受けて、行政院大陸委員会の主任委員である陳明通氏は、「中華民国は独立した主権国家であり、中国の一部であったことはありません。郭氏は国際社会に対して誤解を招くような発言はしないで頂きたい」との苦言を呈しました。これに対して郭氏は、「私が言った『中国』とは、中華民国のことで、中華人民共和国のことではありません」と反論しています。
話がトランプ大統領との会談に戻りますが、郭氏はトランプ氏が大統領に当選した直後から、アメリカに対してというよりもトランプ氏に対して巨額の投資を申し出ています。ウィスコンシン州に液晶パネル工場の建設を申し出たほか、トランプ氏の支持基盤であるミシガン州への大型投資も申し出ています。こうしてビジネスを利用してアメリカとのパイプを強くする一方で、中国での基盤も維持しつつ、台湾での総統選挙に出馬するという、なんとも素晴らしいスーパープレイヤーぶりです。
上記の失言(?)の後、郭氏はさらにこう付け加えました。「習近平との会談の予定はありません。私の服は青色です。赤ではない」
郭氏は、トランプ大統領との会談を利用して中国寄りとのイメージを払拭しようとしたわけです。台湾の報道によれば、現段階で若者に最も人気があるのは柯文哲台北市長だとのことですが、総統選はこれからです。それぞれの候補がどんな奥の手を出してくるのか、お手並み拝見といきましょう。
2020年の台湾総統選挙をめぐって、国民党の候補者はほぼ決定したようです。今のところ国民党からは、朱立倫、王金平、呉敦義の三名が出馬を表明しています。馬英九がサプライズで出馬表明する可能性もありますが、今のところないですね。そのかわりに登場したのが、鴻海の郭台銘でした。一方で、高雄市長の韓国瑜は就任したばかりの市長職を辞するわけにはいかないと、一度は不出馬を表明しましたが、国民党はまだ諦めていないようです。
民進党も候補者を調整中ですが、今回の選挙については、国民党も民進党も誰が出るかではなく、「当選可能」かどうかが最重要です。つまり、投票する側にとっては中国統一VS現状維持の選択というわけです。
私は民進党候補が頼でも蔡でも、どちらでも民進党を支持します。柯文哲台北市長もなかなかの人気を誇っていますが、以前、彼が東京に来たときに私も駆けつけましたがニアミスで会うことができなかったことがありました。その際、彼と会った日本の国会議員が、「彼は日本に来たのに日本のことには一言も触れなかった。彼には礼儀がないのか」と少しお怒りでした。確かに柯は学者肌なので、周囲への気遣いには欠ける部分があるのかもしれません。
郭台銘については、これまでアップルの下請けとして成功してきましたが、彼のビジネスの手法はあまり評判がよくありません。彼の持つ潤沢な資金が一体どこから来ているのかも疑問です。そのカギはやはり中国との関係にあると見たほうが無難でしょう。彼は今回の訪問でトランプ大統領との親密ぶりをアピールしていましたが、主導権はあくまでもアメリカにあると思います。
韓国瑜は軍人出身、しかも反共の専門家(匪情専家)の出身です。高雄市長に立候補して以来の「韓流」ブームですが、それもそろそろ下火になりつつあります。
2020年の総統選挙は、台湾の国政選挙であると同時に、日米中の動向や介入が懸念される国際色の強い選挙となるでしょう。そこで、私の読みとしては、米中の経済貿易戦争の動向が大きく影響すると思います。
台湾は、70年に及ぶ国民党の統治下で、教育、メディア、司法、特務、軍、警察、公務員などのすべてが国民党の勢力下にはいっていますので、国民党の残存勢力はいまだに強い力を持っています。
国民党にとっては、最後のあがきのチャンスであり、中国と組む最後のチャンスでもあるでしょう。また、日米やEUからの影響もあると思われ、今のところ結果の行方はまだ見えません。
image by: 郭台銘 - Home | Facebook
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