MAG2 NEWS MENU

軍事アナリストが嘆く、普天間の移設を阻む「司(つかさ)任せ」

辺野古埋め立ての反対運動などにより足踏みが続く普天間基地の移設問題について、最優先すべきは危険な状態の普天間基地の移設を実現することだと一貫して主張を続けるのは、軍事アナリストの小川和久さんです。主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、自身が提案してきた普天間移設までのロードマップを改めて示し、それらの案が採用されない米軍や日本側の「小さな」事情に嘆息しています。

「司(つかさ)司(つかさ)に任せる」と…

いま、沖縄の米海兵隊普天間基地の移設問題について、1996年4月16日の返還合意から最近までの私の関わりについて、単行本をまとめているところです。原稿用紙400枚ほどの分量ですし、基本的にクロニクル(年表)として起きたことを厳密に記述したのですが、それからが大変でした。

資料として記録を残すのではなく、それをノンフィクションの作品に仕上げなければなりません。登場人物の発言についても、いつ、どこでのものなのか、24年分の手帳を丹念に調べていきました。

いまは、そうした作業の大部分を終え、日本語としての読みやすさ、面白さの角度から手を入れているところです。

発見も色々ありました。どんな発見があったかは、単行本が秋頃までに出版されたときのお楽しみとして、今回は教訓のひとつを皆さんと共有したいと思います。

私は普天間基地の移設先として、一貫して米海兵隊のキャンプ・ハンセンを挙げてきました。沖縄県金武町にある基地で、キャンプ・ハンセン陸上案です。

キャンプ・ハンセンは普天間基地が10個あまり入る広さがあり、いちばん南側の海兵隊の隊舎が建っているエリアの地下には、米海軍が沖縄戦の最初の頃に10日間で作った長さ1600メートルの滑走路が埋まっています。米軍はチム飛行場と呼んでいました。

私は、海兵隊の隊舎を移築するのは難しくありませんから、それを適切な場所に移し、旧チム飛行場があった場所に普天間の代替施設を建設するのが最も望ましいと提案してきました。

しかし、普天間飛行場の危険性を速やかに除去しないことには、返還合意の目的を達成したことになりません。そこで私は、本格的な移設先を決める作業と同時に、キャンプ・ハンセンの東隣のキャンプ・シュワブの一画に、戦場でやるのと同じように2日間ほどで仮の移駐先を造成するよう提案してきました。そこに普天間の回転翼機の部隊を収容すれば、その段階で普天間基地を閉鎖できます。仮の移駐先は当初、戦場同様に更地ですが、これで普天間の危険性を除去することができます。キャンプ・シュワブもまた、普天間の4倍以上の広さがあるのです。

このように、私はハンセンとシュワブの二つの海兵隊基地を有効に使いながら、危険性の除去と本格的な移設先の建設を進めるべきだと主張してきたのです。しかし、防衛省から「二つの海兵隊基地の間の調整がつかないので無理」という声が出て、この提案はお蔵入りとなったのです。

反対運動などの前に足踏みが続く現在の辺野古の埋め立て案は、そうしたプロセスの中で出てきた面もあるのですが、私は「基地の間の調整」という言葉を聞いて、首をかしげざるを得ませんでした。防衛省に聞くと、ハンセンとシュワブの基地司令官や駐屯している部隊の指揮官が、お互いに縄張りを侵されることに抵抗しているというのです。

日本であろうと米国であろうと、組織の間にはそんなこともあるでしょう。しかし、ことは国家レベルの問題です。基地司令官や部隊指揮官といった、海兵隊の大佐や中佐の問題ではないのです。沖縄の海兵隊のトップである第3海兵遠征軍司令官の中将と話せば済む問題ですし、このレベルでもラチがあかないなら、国防総省を引っ張り出せばよいのです。しかし、日本政府はそんなことを考えることもなく、大佐や中佐の主張にブロックされてしまったのです。

蟹は自分の甲羅に似せて穴を掘る、という格言があります。蟹が自分の身体に合った大きさの穴を掘って住処とすることから、人間も自分の身分や力量に応じた言動をする、というたとえです。

そう考えると、ハンセンとシュワブでも、大佐は大佐の、中佐は中佐の甲羅に合わせて、基地という縄張りの議論をしていることがわかります。日本政府の側も、大佐や中佐に釣り合うレベルの担当者が前に出て、ハンセンはハンセン、シュワブはシュワブのことだけと向き合い、もっと大きな穴を掘ること、つまり日米同盟における普天間問題を解決することなど、考えもしなかったのです。

日本政府としては、この現実に気がついて、自分の基地を侵されまいとする大佐や中佐の主張を退け、二つの海兵隊基地全体を使うようグランドデザインを描くことが求められます。そこまで行って初めて、戦略的な思考と言えるのだと思います。

そのように戦略的に考えるかどうかは、優れて政治の判断となるのですが、日本の政治の現状ではそれができていません。よく「司(つかさ)司(つかさ)に任せる」という言い方を聞きます。これは、上から余計な口出しをしないで、担当の組織、担当者に任せておけば、ことはスムーズに進むという意味ですが、はたしてそうでしょうか。「司(つかさ)司(つかさ)に任せよう」という言葉をよいことに、官僚丸投げにしてきた日本の現実ではないでしょうか。

そのあげく、ハンセンとシュワブのようなことになってしまう。同じようなケースは、日本の随所に見られると思うのですが、さて、皆さんの周りでは?(小川和久)

image by: Corporal Aaron Patterson, U.S. Marine Corps (VIRIN: 170614-M-QH615-049) [Public domain], via Wikimedia Commons

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け