2万円の大台を割り込む展開も見えてきた日経平均株価。トランプ大統領が仕掛ける米中貿易戦争の影響がいよいよ深刻化してきた観がありますが、この先世界経済はどのような方向に向かうのでしょうか。そして国内に目を転じれば、10月に予定されている消費増税は延期すべきなのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』で著者の津田慶治さんが、国内外のさまざまな要因を鑑みつつ分析しています。
トランプ革命の本番に
米トランプ大統領は、米中通商交渉が暗礁に乗上げ再選運動には間に合わないと、次の攻撃目標を定めたようである。米国への不法移民を止めないメキシコに対して関税を5%UPにして、最終的には関税25%UPにするという。米国は関税を武器に、米国に工場をすべて持ってくるようである。今後を検討しよう。
日米株価
NYダウは、2018年10月3日26,951ドルで過去最高株価であるが、12月26日21,712ドルと暴落。その後は上昇して4月23日26,695ドルになったが、米中貿易戦争激化で5月29日一時24,938ドルまで下落、メキシコとの貿易摩擦も加わり5月31日24,815ドルになっている。
日経平均株価も、同様に2018年10月2日24,448円になり、12月26日18,948円と暴落したが、4月24日22,362円に上昇したが、5月31日20,601円になっている。トランプ大統領が「メキシコへの関税」とツイートしたことで、日本の自動車企業にも影響があり、株価は落ちているし、米国の閉鎖経済化が明確化したことになる。それと、1ドル=108円20銭台の円高に一時なった。株価2万円割れも視野に入ってきた。
バブル相場の終焉になり、株価下落が鮮明になってきた。貿易摩擦解消の楽観から悲観に大きく転換してきた。日本にも影響があるので、株価の下落が起こっている。
トランプ革命の本番に
トランプ大統領は、メキシコの輸入品もすべて関税5%UPにすると発言して、不法移民対策の壁の建設費用をメキシコに出させるのか、貿易赤字国に関税を掛けることなのか関税を武器にして、他国に要求をのませるようである。
メキシコ、カナダと新NAFTAの批准をする段階でのトランプ大統領の発言であり、どうも米国は閉鎖経済化の方向に行くようだ。新NAFTAを取りまとめたライトハイザーUSTR代表もメキシコへの関税は反対を明言している。新NAFTAを台無しにする可能性があるからというが、トランプ大統領は新NAFTAがお気に召さないので、潰しにかかっていると見た方が良い。
中国への関税25%UPだけでも世界経済は縮小するとリスク回避が強まり、米10年国債金利が2.3%割れで、その上にメキシコへの関税で2.1%までなっている。逆イールドが完成しているし、先週からNYダウにヒンデンブルグオーメンのサインが出ている。
そのやり方は強引であるが、トランプ大統領の選挙での公約を忠実に実行している。そして、それが今の米国には必要なことである。製造業の従業員を増やし、給与を上げて中間層を増やす必要がある。
今後、関税引き上げが拡大して金利は下がり、関税で米消費者物価は、上昇すること(インフレ)になる。中国輸入品の代替品を輸出する国にも関税UPを掛けることになる。このため、通商法の改正をしてベトナムに対しても為替操作国と認定し、関税を上げる可能性にも言及している。
景気後退から市場は、FRBの利下げに期待が集まっている。しかし、景気後退時のインフレが起こり、複数回の緩和的な金融政策が打てなくなる。お金を出すとインフレを加速することになるから、FRBも簡単には利下げできない状態になる。このため、金融緩和政策という流動性相場活性策が使えなくなり、世界的な中央銀行バブル相場が終焉すると見る。
米国の全方位的な関税UPにより、世界経済の縮小は避けられなくなってきた。当分、米国に一揃えの工場ができる地産地消経済の枠組みができるまでは、世界的に景気は悪化して株価下落を覚悟するしかない状態になったようだ。米国への貿易で生きてきた国には、日本を含めて大きな試練となる。
その試練を乗り越えるために日本企業は、本格的に米国での生産を拡大して、米国で作り米国で売る体制を確立することである。地産地消経済化である。
しかし、株価下落してもトランプ大統領の支持率は変化がない。労働者の味方という位置づけを今後、強調していくのであろうか?
また、農業従事者の支持獲得は、日本への農産品輸出や関税収入で得た資金を使った補助金のばら撒きなどで行うようである。
まだ選挙まで時間があり、支持率の動向を見てトランプ大統領も、どこかで譲歩して、米中通商交渉後合意になる可能性もまだある。選挙に有利な状況を作る必要があるからだ。
しかし、世界経済の仕組みを根本から変える革命児のやることはすごい。グローバルな経済システムの終焉で、世界的な適地適作という考え方からローカル重視の地産地消という考え方に早くシフトする必要がある。
関税を上げて、国内産業を守るという考え方は、米国の先導で、多くの国で実行されることになり、グローバル企業は、地産地消的な考え方をしないと排除されてしまうことになる。
中央銀行バブル崩壊でどうなるか?
そして、中央銀行バブル相場崩壊になると、一番心配なのが、デリバティブ取引である。世界でのデリバティブ取引量は、3京ドルとも5京ドルとも言われているが、その中で一番警戒が必要なのが、D銀行である。
リーマンショックやその後のデリバティブ取引での損失で簿外債務が膨大にあり、このほとんどを飛ばしていると言われている。欧州の銀行のほとんどが、飛ばしをしているようであるが、マイナス金利で利益が出ず債務返済への資金枯渇からD銀行が倒産すると、その波及範囲が膨大になる。
このD銀行の倒産危機で、コメルツ銀行との合併を模索したが潰れ、UBSへの吸収も潰れて、増資をしてデリバティブの損失を埋めようとしているが、株主が猛反対している。2007年に131ドルしていた株価も7ドル割れしている。
しかし、リーマンショックで分かったことは、デリバティブ取引をする投資銀行の倒産は、連鎖的に他の銀行の倒産を引き起こすことだ。特に欧州の銀行は、飛ばしをして損失を隠している。そこにD銀行の倒産に伴う損失が起きると、耐えられないことになる。欧州でリーマンショック級以上の大恐慌が起きかねない。
しかも、ドイツのメルケル首相は、ギリシャ経済危機時、ギリシャの銀行に公的資金注入を拒否して銀行を倒産させたので、D銀行に公的資金を入れることを、メルケル首相の口から言えない状態になっている。
そして、D銀行は、デリバティブ取引の損失をここまで、隠してきたので、飛ばしを株主に説明できていない事態になっている。山一證券を思い出す展開になっている。
しかし、最後にはドイツは、公的資金の注入をするしかない。そうしないと世界的な広がりで銀行の倒産が多発して、企業倒産も増え、CLOなどの債券市場の流動性もなくなり、債務不履行などの多発にも繋がりかねないからである。
中央銀行バブル崩壊が、世界的な恐慌状態を引き起こしかねないことになる。日本もその影響を受けてしまい、当分金融や産業のマヒが続くことになる。
このため、膨大な経常黒字国のドイツの責任は、重大である。メルケル首相辞任で、次の首相は早く公的資金注入をするべきである。
中国の対抗策
中国は、対米通商交渉の事務方の協議も中止して、米国の要求レベルの引き下げをしない限り、交渉しないとしている。勿論、6月末の米中首脳会談を開く予定もないようである。そして、米国の第4弾全商品への25%関税UPに対しては、レアアースの対米禁輸を行うようである。
日本の都市鉱山からレアアースを再生する技術が有効になるが、米国の機械防衛産業など広い範囲で影響を受けることになる。
反米キャンペーンが開始されて、ロシア・イランなどとの関係強化を行っている。SWIFT経由でのイラン原油の輸入はないが、独自人民元決済でのイラン原油輸入はしている。しかし、米国には見えないようだ。このシステムを欧州やインドにも使って貰い、イラン産原油の輸入を志向してもらうようである。欧州やインドなども味方につける方向で動き始めている。
これに対して、欧州の極右勢力を動かして、反EU運動を指揮しているのが、トランプ政権で上級顧問をしていたバノン氏である。
しかし、英国は、ファーウェイの排除をせずに、米国に離反する可能性が出てきた。中国の資本進出を加速してもらうようであり、EU離脱後、中国経済を取り込む可能性も出てきた。米国の孤立化で、最大の味方が離れる方向である。米国の覇権が無くなる象徴のような出来事で、英国は、次の覇権国と目される中国に寄り添うのであろうか?
このような動きを見て、ASEAN諸国、アフリカ、中南米諸国は、ファーウェイ排除をしないで積極的に利用すると宣言している。ASEAN諸国は米国離れのようである。この件で、世界的に米国に従うのは、英国を除くファイブ・アイズ諸国と日本だけのようである。完全に米国の負けが確定したようである。
中国の景気は、米国との貿易が止まり、鉱工業の景気は良くないが金融緩和と消費経済の活性化が寄与してきて、思ったほどには景気後退になっていないようだ。上海株価もPKOにより安定している。このため、日本の評論家やトランプ大統領が思っているほどには、通商交渉に積極的ではない。米国の譲歩がないと、この状態が続くことになりそうである。
そして、政府が禁止する米国に行けない中国人観光客は、日本に、多数押し寄せている。最近、草津温泉に行ったが、湯畑は中国人観光客であふれているし、地方の有名な観光地にも中国人観光客が押し寄せているようだ。しかし、草津の隣の六合や野反湖には、まだ中国人観光客はいない。そして、買い物の購入金額は減少しているが。
中東情勢
トルコのエルドアン大統領とトランプ大統領が6月末に、大阪で首脳会談を行うことになった。米国は、シリアのクルド人勢力を攻撃するトルコに自制を促したいようだ。F-35を売らないことがカードであるが、非常に弱い。ロシアの安いSU-57を買う可能性もある。
トルコはS400対空ミサイルをロシアから買い、ロシアとの関係を良好にしている。米国が中東から離れるために、米国を頼りにできないからである。クルド人は、トルコ国内にもいるので、自国の安全保障のためにも、シリアのクルド人勢力の拡大は脅威である。しかし、シリアのクルド人勢力地域に米軍は駐留している。このため、米国とトルコの戦闘になる確率もある。
また、トルコは、イランとも良好な関係にある。トランプ大統領はイスラエルに味方するも、イランとの戦争には反対であり、イランと交渉を開始したいようである。日本の安倍首相にもイランとの仲介を期待しているし、トルコにも期待するようである。
トランプ大統領は長老派のプロテスタントであり、黙示録を志向する福音派ではなく、ヨハネの黙示録に出てくる中東最終戦争を望んでいないようである。福音派の支持は必要であるが、核戦争を望まないということであろう。この政治スタンスを維持してほしいものである。
しかし、イラン革命防衛隊などのイランのタカ派は、米国・イスラエルとの戦争を仕掛けてくる可能性もあり、油断はできない状態である。
消費税の延期は必要か?
このような状況でも現時点では、消費税を延期する必要はない。消費税増税などで、リーマン級景気後退を日本だけでは引き起こせない。バブル拡大がほとんどなく、株価でもPER11倍や12倍程度であり、不動産価格も東京や大阪などのインバウンド景気が良い大都市以外は下落が止まらないので、バブル形成がされていない。
起きるなら、リーマン級の世界的な景気後退が起きたときである。このため、D銀行の動向に注意が必要になっている理由でもある。
人手不足であり、働こうをする人には職がある。それと、人手不足であり、非正規社員の時給も上昇している。この状態で、高々2%の消費税を上げたからと言って、日本単独でリーマン級の不景気は、起こせるはずがない。
というより、人手不足から賃金上昇して、付加価値の低い産業は、構造変化させないといけなくなり、日本経済の構造が大きく変化している。
そのため、消費税UPで、リーマンショックが起きるという人の論理はおかしい。しかし、欧州発のリーマン級恐慌は、注意が必要である。
さあ、どうなりますか?