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【書評】夢に出てくる。事故物件に住んだ男に起きた深刻な事態

相場よりもかなり安価で借りることができる、住人が不幸な死を遂げるなどした「事故物件」と呼ばれる不動産。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、 そんな事故物件に住んでみることにした著者に起こった「不思議な話」等が記された一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:森 史之助『事故物件に住んでみた!』

事故物件に住んでみた!
森 史之助 著/彩図社

内閣府の「平成23年版自殺対策白書」によれば、年間3万人を超える自殺者の最期の場所は半数以上の55.3%が自宅。総務省の「2010年国勢調査」ではひとり暮らしの「単独世帯」は全世帯の3割を越えた。大雑把にいうと、年間に約5,000人の単身者が自宅で自殺し、そこは住む人のいない「事故物件」になる。この本で用いた当時のデータは、もはや古過ぎる。現在はもっと数字が大きいと思う。

著者は2011年夏、先住者のいなくなった「事故物件」に入居を決めた。家賃が考えられないほど安いことが、最大かつほぼ唯一の理由だ。周囲からは反対され、入居後も気味悪がられている。本人はまったく気にしていない、はずがない。幽霊が出るのか出ないのか、周辺の治安はどうなのか、近隣から厳しい視線が投げかけられるのか、自らを実験台にして詳細に調べ上げる決意だ。

著者が赤貧の中で引越が必要になった経緯から、事故物件を狙った部屋探し、契約、入居後の信じられないような出来事などをレポートする。不動産屋で知らぬふりして担当者に聞くと「相場より極端に安いところはたいてい事故物件です」と断言し、業界内イントラネットにアクセスして「ほら、ここにもある」と見せてくれた。どうやら、業界内では事故物件はタブーではないようだ

彼は独身なので1DK25平米程度の部屋を捜していた。民間の不動産会社よりも、URのほうが使い勝手がいい。ある事故物件を見に行くのも担当者が同行しないから、鍵を借りて中に入り、じっくり観察できる。室内はたいていきれいにリフォームされている。どこでどう死んだかの情報はない。近所を取材するが曖昧で、高齢者の孤独死、死後しばらくたってからの発見、という想像をする。

民間の賃貸住宅では、病死に比べ自殺や刑事事件による事故物件は、価格を大幅にダウンするようだが、URは大雑把で事故の内容にかかわらずすべて家賃半額割引である。ある日、横浜市内の元公団、1K35平米、50代男性の自殺(浴室で首吊り)の現場に行く。家賃は2年間26,000円/月。彼はここに住むことに決めた。誰かが生きることをやめた場所で生きていく。心理的負担は覚悟の上だ。

「わたしは、上記住宅が特別募集住宅であることを承知し、入居後事故原因に起因して機構に対し住宅の斡旋替え等一切異議は申しません」と印字された専用の入居同意書にも判をついた。ところが入居前に、深刻な事態が発生。夢に出てくるのだ。その部屋で亡くなったという男性が。頻繁に現れた夢の主の姿かたちはよく分からない。自称50代の彼は「あの部屋でいいのか?」と問いかけてくる。

彼の体は何かの力でずるずると引っぱられて、どこかへ連れて行かれる。引越日が近づくにつれて、先住者が登場する夢を見る頻度が高まる。「いいんだな?あの部屋で本当にいいんだな」と念を押され、「だってしょうがないだろ、もう契約しちゃったんだし」とあえて声に出して言う。この現象は先住者のお化けではなく、自分の深層心理を表しているに過ぎないと彼は考える

彼は幽霊の出現や、自らの死はこわくないらしい。人生21回目の引越しをしてからも、深層心理はしばらく夢に表出したそうだ。フィクションっぽいが。前代未聞のこのレポートは、入居後半年の2012年1月に書かれた。元新聞記者だったという著者の、近隣やゲストへの取材は、思い込みが強いのが鼻につく。問題の住宅に住んでから後の話は、核心から外れていて物足りない。当時はまだ有名ではなかった、「大島てるへの突撃取材は評価できる

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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