今や老若男女問わず多くの人が利用しているSNSですが、それに伴う様々な問題も増加しているようです。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、休職期間中にもかかわらずレジャーを楽しんだ様子をSNSにアップし解雇された社員が、その処分を不服として起こした裁判の「驚きの結果」を紹介しています。
休職期間中にバイク乗り、馬券売り場やSMクラブ通い。これは懲戒の対象か?
「子供は、ダメだと言ったことをやりたがる」
私は子供がいないので、実体験としては経験がありませんがもし、子供がいらっしゃる方は「わかる!」という人もいるのではないでしょうか。
例えば「口に入れちゃダメというものを口にいれる」「さわっちゃダメというものをさわる」や、だんだんと大きくなっても「(風邪などをひいて)遊びに行っちゃダメといっても行きたがる」「(食事前に)お菓子を食べちゃダメといっても食べたがる」という感じでしょうか。
ただ、これらは法律で禁じられているわけではないので、もしこれを(子供が)やったとしても法律的には問題ないでしょう(ある意味法律より怖い親のお説教があるかも知れませんが)。
ではこれが会社の休職期間であればどうでしょうか。それについて裁判があります。
ある雑誌の編集会社で転勤の拒否や会社への誹謗中傷を行ったとして、ある社員が解雇されました。そこで、その社員が「納得がいかない!」として、会社を訴えたのです。
ではこの裁判はどうなったか。
ここで、今回お話したいのはその解雇の部分ではなく「休職期間」についてです。詳しく時系列にお話するとこのような状況でした。
- 会社がその社員に転勤命令を出した
↓ - その社員が転勤を拒否した上、「うつ病」との診断書を提出し、休職に入った
↓ - 休職期間中にブログを開設し、会社や上司の誹謗中傷を書き込んだ
↓ - 会社が解雇
という流れでした。ここで問題になった1つのポイントが休職期間の過ごし方です。なんとこの社員は休職期間中に
- オートバイで頻繁に外出
- ゲームセンターや場外馬券場に出かける
- 飲み会に参加
- SMクラブにてSMプレイ
などをして、それらをSNSにアップしていたのです。そこで会社は「これらの行為は休職期間中の療養専念義務違反である(病気を直すために療養に専念する義務に違反している)」として、訴えたのです。
さて、これに対して裁判所はどのように判断したか?
なんと、「(療養専念義務には)違反していない」としました。もしかすると(と、いうよりもおそらく)「え?!!!!!」と思われた方も多いかも知れません。
ではなぜ裁判所はそのように判断したのか?その具体的な理由は次の通りです。
- それらの行為が療養に資することもあるということは広く知られている
- それらの行為でうつ病に悪い影響を与えたと考えられる証拠がない
どういうことか。
これはみなさんも聞いたことがあるかも知れませんが、うつ病などの精神病の種類によってはあまり家にこもりすぎるよりも適度に人と会ったり、話をしたりするほうが治りが早かったり、良い影響をあたえることがあるのです(もちろんご本人の状況や、飲み会などの頻度や内容にもよりますが)。よって、裁判所はこのように判断しました。
いかがでしょうか。これは実務上も非常に注意すべき点です。もし、みなさんが休職にはいる社員に、「休職期間中は療養に専念し、飲み会などには絶対に参加しないように」と言ってしまったり(前半部分は問題ありませんが)、休職期間中に飲み会などの様子をSNSにアップしているのをみつけそれを理由に懲戒処分をしてしまったりすると問題になることが考えられます。
ではどうしたら良いか?
誤解の無いようにお話をすると、この裁判で休職期間中に行うすべての行為が認められると断言されたわけではありません。
裁判所は、「休職期間中に療養に専念する行動をすることが望ましいと言うべきであるから、それに反した行為をした場合には就業規則に則した服務規律違反が問われることもやむを得ない」とも判断しているのです。つまり場合によっては休職期間中の行為が懲戒処分の対象にもなりうるということです。
また、行為は認めつつもそれをSNSにアップしないようにと指示を出すことはもちろん可能です。その場合もSNSにアップすることは私生活上の問題になりますので強制はできませんが、「休職期間中にそういった行為をアップすることは他の社員からあまり良く思われない可能性があるから控えたほうが良い」であれば、法律上も問題ありませんしある程度の抑止力にはなるでしょう。
「休職期間中に飲み会なんてとんでもない!」という気持ちはわかりますが、医学的にも法律的にも適正に判断することが大切です。
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