6月13日に発生したホルムズ海峡石油タンカー砲撃事件は、米国が早い段階で「イランの仕業」とする証拠動画を公開しましたが、英国を除く主要国からは疑問の声も上がっています。これを受け、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、米国が過去に捏造した「2つの罪」で国際社会から失った信頼は大きなものであり、同盟国日本も認識すべきであると論じています。
タンカー攻撃、信じてもらえないアメリカ
皆さんご存知だと思います。
6月13日、ホルムズ海峡付近を航行するタンカー2隻が攻撃されました。この事件、それだけでも衝撃ですが。
- 安倍総理のイラン訪問中に起きた
- タンカーは日本の海運会社が運航していた
ということで、衝撃度が増しました。いったい、誰がやったのでしょうか?トランプさんは、即座に「イランがやった!」と断定しました。
日本の海運会社が運航するタンカーなど2隻が原油輸送の要衝、中東ホルムズ海峡付近のオマーン湾で攻撃された事件で、トランプ米大統領は14日、「イランがやった」と述べた。
(朝日新聞DIGITAL 2019年6月14日)
ポンペオさんも、「イランがやった」としています。
ポンペオ米国務長官も13日の会見で、収集した情報や使用された武器などを総合的に分析した結果、「イランに攻撃の責任がある」と断言。「この地域にイランの他にこれだけ高度に洗練された攻撃を実行できる勢力はいない」とし、5月12日にホルムズ海峡付近でサウジアラビアなどの石油タンカーが攻撃された事件などにも触れて、「イランや傘下の武装勢力による米国や同盟国への一連の攻撃の最新事例」と語った。
しかも、アメリカは、「証拠」を出してきました。
タンカー攻撃、「機雷除去するイラン軍」の映像 米が公開
6/15(土)6:04配信
【AFP=時事】中東のオマーン湾(Gulf of Oman)でタンカー2隻が攻撃を受けた問題で、米政府は、イラン革命防衛隊(IRGC)がうち1隻の攻撃に関与したことを示すとする低画質の映像を公開した。米中央軍(US Central Command)のウェブサイトで13日に公開された映像は、イラン巡視船の乗組員が不発の吸着型機雷を船腹から除去する様子を捉えたものとされる。船体についているマークは、攻撃を受けた日本のタンカー「コクカ・カレイジャス(Kokuka Courageous)」を撮影した過去の映像や写真と一致しているように見える。
公開された映像、↓から見ることができます。
● イラン艦艇、船体の機雷除去=日本タンカーに接舷-米軍が動画
この映像なんですが、「違うんじゃないか?」という声がアメリカでも出ています。
米国はイラン革命防衛隊がタンカーから不発の機雷を除去した様子が映像に示されていると主張。しかし、同タンカーを所有する日本の国華産業の社長は、タンカーに向かってきた「飛来物」が海面よりの部分にダメージを与えたため、魚雷による攻撃との見方は考えられないと述べている。
(ブルームバーグ 6月15日)
一方、イランは、「やってない!」と完全否定。
イランは、タンカー2隻を攻撃したのは同国だとする米国の主張を「根拠がない」と一蹴。
(同上)
では、国際社会はどうなのでしょうか?「イランがやった!」とアメリカに同調しているのは、現状イギリスです。
タンカー攻撃、イランの責任は「ほぼ確実」 英外相
6/15(土)11:47配信
【AFP=時事】ジェレミー・ハント(Jeremy Hunt)英外相は14日、中東のオマーン湾(Gulf of Oman)で13日発生したタンカー攻撃について、英国独自の情報評価により、「ほぼ確実」にイランの責任であるとの結論に達したと述べた。
しかし、全体的には、「誰がやったのかようわからん」という感じ。グテレス国連事務総長は、「独立調査」を要求しています。
タンカー攻撃、独立調査を=「責任明確に」-国連総長
6/15(土)6:25配信
【ニューヨーク時事】グテレス国連事務総長は14日、日本の海運会社が運航するタンカーなど2隻に対する攻撃に関し、独立調査を要求した。国連本部で記者団に語った。タンカー攻撃をめぐっては米国がイランの関与を主張する一方、イランは否定し、双方の対立が深まっている。グテレス氏は「真実を知ることや責任を明確にすることが非常に重要だ。それには独立した団体が事実関係を検証するしかないのは明白だ」と指摘。
「独立調査」、とてもいいアイディアですね。私も実現を望みます。
なぜ、すっきりしないのか????
それにしても、なぜ「証拠を提示した」にも関わらず、アメリカの主張は、信じてもらえないのでしょうか?一番の理由は、「イランの動機がわからん」ということでしょう。
日本とイランの関係は悪くない。日本の首相が、険悪になっているアメリカ―イラン関係を修復するために来ている。なぜその時に、「日本企業が所有するタンカー」を攻撃する??????????????意味わかりませんね。
もう一つは、「アメリカが提示した証拠、説得力がイマイチ」ということでしょう。このこと、指摘している人もいます。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで中東政治を専門とするファワズ・ゲルゲス教授は「まだ明確な証拠はない。指紋もない。米軍が不確かな証拠を提示しているにもかかわらずだ」とコメント。「イランの指導者がトランプ政権内の強硬派をあおるほど向こう見ずだろうか?あるいはペルシャ湾岸の米国の同盟国に対して計算ずくの危険な動きに関与しているのだろうか」と語った。
(ブルームバーグ 6月15日)
アメリカは、ウソつきすぎで信じてもらえない
もう一つ、「アメリカの話に説得力がない理由」。それは、アメリカが「ウソを多用しすぎ」ということ。なんというか、国際社会から「オオカミ少年」のように見られている。いろいろいろいろあるのですが、代表的な例を二つあげておきます。
一つは、イラク戦争。開戦理由は二つでした。すなわち、「フセインは、9.11を起こしたアルカイダを支援している」「フセインは、大量破壊兵器を保有している」でした。新しい読者さん、これ二つとも「大うそ」だって知ってました???????????
一応証拠を示しておきましょう。超熟読してください。
米上院報告書、イラク開戦前の機密情報を全面否定
【ワシントン=貞広貴志】米上院情報特別委員会は8日、イラク戦争の開戦前に米政府が持っていたフセイン政権の大量破壊兵器計画や、国際テロ組織アル・カーイダとの関係についての情報を検証した報告書を発表した。
(読売新聞06年9月9日)>
報告書は『フセイン政権が(アル・カーイダ指導者)ウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はない』と断定、大量破壊兵器計画についても、少なくとも1996年以降、存在しなかったと結論付けた。
(同前)>
もう一つ。2013年8月、オバマさんは、「シリアを攻撃する!」と宣言しました。理由は、「アサド軍が化学兵器を使った」から。これもウソだった可能性が高いのです。なぜ?2013年5月、国連は、こんな報告書を出していた。一文字一文字丁寧に読んでください。
シリア反体制派がサリン使用か、国連調査官
AFP=時事2013年5月6日(月)17時37分配信
【AFP=時事】シリア問題に関する国連(UN)調査委員会のカーラ・デルポンテ(Carla Del Ponte)調査官は5日夜、シリアの反体制派が致死性の神経ガス「サリン」を使った可能性があると述べた。スイスのラジオ番組のインタビューでデルポンテ氏は、「われわれが収集した証言によると、反体制派が化学兵器を、サリンガスを使用した」とし、「新たな目撃証言を通じて調査をさらに掘り下げ、検証し、確証を得る必要があるが、これまでに確立されたところによれば、サリンガスを使っているのは反体制派だ」と述べた。
国連は、「アサド軍」ではなく、欧米が支援する「反体制派」(=反アサド派)が化学器サリンを使っていると報告していた!!!!!!それなら、アメリカ軍は、自分たちが支援している「反アサド派」を空爆しなけりゃなりませんね~~。
二つ例をあげましたが、同じような例は、たくさんあります。最近のアメリカの情報戦は非常に稚拙。日本は「米英情報ピラミッド」に組み込まれているので、こんな重要情報も拡散されないのですね。
アメリカはこんな感じ。それで、この国が「イランがやった!!!」と主張しても、「ほんとですか~~??」というリアクションになってしまうのです。