しばしば「国民の知らないところで決められる」と否定的なニュアンスで語られることの多い政治の世界ですが、国益のため命懸けで政に取り組んだ政治家たちの「努力の結果」もまた、国民の知るところにならないことが多いようです。AJCN Inc.代表で公益財団法人モラロジー研究所研究員の山岡鉄秀さんは今回、無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』で、知られざる憲法改正議論や元号制度が、過去の大転換点をどう乗り越えてきたかを記しています。
歴史は国民が知らないうちに作られる?- While you are sleeping.
全世界のアメ通読者の皆様、山岡鉄秀です。
先日、衛藤晟一内閣総理大臣補佐官とゆっくりお話する機会を得ました。実は、私がかつて豪州で慰安婦像阻止活動に取り組んでいた際に最初に親身に話を聞いて下さった政府高官が衛藤補佐官でした。
今回久々にゆっくりお話を伺いながら、思ったことがありました。歴史は国民が知らない間に動いてしまう、ということです。
私たちは日々、様々な媒体を通じて政治の動きを見ているつもりでいます。ネットの発達で、自由闊達に議論する場も生まれました。しかし、歴史を左右するような極めて重要な局面に国民が全く気付かないことも少なくありません。
たとえば、憲法改正。平成5年に自民党が政権を失って下野したことがありました。衝撃を受けた自民党は党の綱領を見直すことを決め、後藤田正晴氏が委員長になって、「綱領から憲法改正の旗を降ろす」ということを提案したそうです。もともと、自主憲法制定が自民党の党是だったはずなのに。
この時、烈火のごとく反対したのはまだ新人だった3人の議員でした。
安倍晋三議員、故中川昭一議員、そして、衛藤晟一議員です。
後藤田正晴といえば、当時カミソリと恐れられた人。しかし、この3人は「憲法改正を降ろしたらもう自民党ではありません!」と食い下がり、大激論の末に「最終的にはこれからの時代にふさわしい憲法をつくる」ということで折り合いをつけることに成功しました。
四半世紀前に、こんな局面があったことを知る国民は少ないでしょう。
拙書『新・失敗の本質』で言及したのですが、日本人は一度はめられた枠を自発的に破ることがとても苦手です。憲法も、お上に授けられたものなのです。もっとも、日本国憲法を授けたお上は占領軍だったわけですが。
戦後、日本の国力が右肩上がりに上昇している間は憲法の矛盾も看過できたかもしれませんが、平成の30年を経て弱体化した日本は虎視眈々と狙われています。これ以上、国防から目をそらすことはできません。
それで安倍政権で憲法改正を目指しているわけですが、もし、四半世紀前のあのとき、自民党が憲法改正を綱領から外していたら、今日の議論さえできなかったかもしれないと思うとぞっとします。あの時の3人の知られざる戦いが今日に繋がっているのです。
もうひとつ。
私は平成という時代は日本にとって、「平和な衰退」の時代であったと思いますが、思いがけず早く、新しい時代「令和」がやってきました。かつて小渕官房長官が「平成」と書いた色紙を掲げ、今度は菅官房長官が「令和」を掲げると、日本中が祝福ムードで盛り上がりました。
この日本古来の伝統である「元号」が引き継がれていくことを、我々は「自然なこと」と受け止めています。ところが、これもまた当たり前ではなかったのです。
実は、元号に関する取り決めは皇室典範に含まれていたのですが、敗戦後、GHQによってその部分が削除されてしまいました。元号を規定する法律が無くなってしまったので、「昭和」は習慣的に使われていただけで、昭和天皇が崩御された後は、西暦だけになってしまう運命だったのです。
この時も、まだ市議会議員から県議会議員になったばかりの衛藤晟一議員が旗を振り、昭和52年に元号法制化を求める地方議会決議運動が始まりました。地方から中央へという流れを作り出して、46都道府県、1,632市町村で議会決議を達成。
それを背景に、昭和54年6月、ついに元号法が成立したのです。
もしこの運動が起こらず、元号法が無かったら、平成も令和も無かったわけです。私たちが当たり前と思っていることが、全然当たり前ではなかった、という例ですね。
「歴史は夜作られる」というフレーズがありますが、このように、日本という国にとって決定的に重要なことが、実はほとんどの国民が知らないところで決まっていたりするわけなのです。
選挙では、どうしてもマスコミなどで露出度の高い有名議員が有利になりますが、私たちが本当に選ぶべきなのは、たとえ地味で目立たなくても、愚直に国益の為に命がけで頑張ってくれる人物だと思います。そういう議員が増えることが、日本を存続発展させるために絶対に必要なことですから。
山岡鉄秀 Twitter:https://twitter.com/jcn92977110
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