MAG2 NEWS MENU

通信社「書き得」記事が示す、ジャーナリズムを成熟させる必要性

6月23日に共同通信が配信した北方領土に関するプーチン大統領の発言を受けた署名記事について、書きっぱなしの「書き得」記事との印象を受けると厳しい目を向けるのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、安倍首相の失敗を強調したいために、言外の意味を汲み取ることなく自説を声高に書き立てるその姿勢に、日本のジャーナリズムの未熟さを感じ憂えています。

プーチンが使った「計画」という言葉

実刑の確定した男が神奈川県内を逃げ回るなど、色んなニュースが大きく取り上げられていますねぇ。私も、そうしたニュースに対してコメントしたいことは山ほどあるのですが、今回は、その中に埋もれている気になるニュースを取り上げてみたいと思います。

6月23日に配信された共同通信・太田清記者の長文の記事は、「北方領土引き渡し拒否「公約」、安倍政権が招いた結末」との見出しを掲げ、安倍首相の対ロ外交の失敗をやり玉に挙げています。 同じプーチン大統領の発言を取り上げた他社が「北方領土「引き渡す計画はない」プーチン大統領、訪日前に表明」(東京新聞)、「プーチン大統領北方領土、「ロシア国旗を降ろす計画はない」国営放送番組で」(毎日新聞)の見出しなのと比べ、別の発言を取り上げた記事ではないかと思われるほど攻撃的です。とりわけ毎日新聞の記事は、ロシア国営のタス通信の記事を使っているもので、共同通信の記事のほうがロシアの通信社の記事ではないかと思ってしまうほど、客観的な印象があります。 以下、共同通信の記事のさわりの部分を紹介しておきましょう。

「ロシアのプーチン大統領は22日放映のロシア国営テレビの番組で、北方領土でロシア国旗を降ろす『計画はない』と断言、日本への引き渡しを拒否する考えを明確にした。プーチン氏が公の場で、これほど明確に『北方領土を渡さない』と明言したのは、少なくとも、昨年11月のシンガポールでの安倍晋三首相との首脳会談で日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意、日本側で領土問題解決への期待が高まってからは初めてだ。交渉担当者のラブロフ外相は強硬姿勢を繰り返してきたが、大統領の発言は重みが違う」

「今回の大統領の発言を受け、いつものようにプーチン氏が『領土問題で日本をけん制』したと報じたメディアもあったが、けん制などという甘いものではない。ロシア国民に対し、金輪際、領土を引き渡すことはないと『公約』したに等しい」

「発言はロシア国営テレビのニュース番組『ベスチ・フ・スボーツ(土曜日のニュース)』でのインタビューで行われた。同番組は日曜日の『べスチ・ニェジェーリ(1週間のニュース)』と並ぶ国営テレビの看板ニュース番組で、著名ジャーナリストのセルゲイ・ブリリョフ氏が司会している。」

「インタビューは政府発行のロシア新聞を含め多くのメディアが報道。一部メディアは北方領土の引き渡しをしないことを『プーチン大統領が公約』(ブズグリャド紙)、『プーチン氏は領土問題を終わらせた』(ニュースサイト『ガゼータ・ルー』)などと、日本との交渉は終わったかのような見出しで報じた。クレムリンがこうした意思決定をし国営テレビで“声明”を出した以上、『交渉は難航が予想される』どころか、G20大阪サミットの場での大筋合意はおろか、安倍首相の任期中の領土問題での大幅な前進はなくなったと考えるのが常識ではないか」

「インタビューで、プーチン氏は『ロシア政府が策定した南クリール諸島(北方領土)を含む極東地域の大規模な開発計画を実現していく』と表明。新しい空港など『インフラも整備していく』とした。ブリリョフ氏がさらに、『ロシア国旗を降ろすことにはならないか』と質問すると、プーチン氏は『そうした計画はない』と否定した」(以上、6月23日付 共同通信)

共同通信の記者は、「クレムリンがこうした意思決定をし国営テレビで“声明”を出した以上、『交渉は難航が予想される』どころか、G20大阪サミットの場での大筋合意はおろか、安倍首相の任期中の領土問題での大幅な前進はなくなったと考えるのが常識ではないか」と決めつけています。 これについて私が言えるのは、そうかもしれないし、そうでないかもしれないということです。書きっぱなしの記事、「書き得」の印象すらあります。

この記事は、安倍首相の失敗を強調したい切り口ですが、外交って、経験のない通信社の記者やデスクの物差しで測れるほど単純なものじゃありません。外交のプロであれば、むしろ、「そうした計画はない」という含みを持たせた表現に注目し、それこそ粘り強くロシアとの協議を続けることになるのです。 この間、カニは自分の甲羅の大きさに合わせて穴を掘るという話を書きましたが、マスコミが自分たちの尺度でしか物事を判断していないことをわかったうえで、それに振り回されることなく、民主主義の要であるジャーナリズムを成熟させていく必要があります。(小川和久)

image by: 敷香 at ja.wikipedia [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け