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Tポイントの離脱が止まらない。崖っぷちTSUTAYAの生き残る術

書籍の買い取り制や異業種とのコラボレーションなどを積極的に仕掛け、「書店」のあり方を根本から変えるかのような発想を次々と形にし続けている、ツタヤ等を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。しかし、昨今は「Tポイント」カードの提携企業が相次いで離脱するなど、前途多難なようです。今回、フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは、CCCが生き残りを賭けて展開するユニークな店舗などを紹介するとともに、同社が克服すべき点などについても考察しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

どう響く? 離脱相次ぐ「T-POINT」

業種の小売や飲食のトップ企業と次々に提携し、最も成功した共通ポイントカードと言われてきた、「T-POINTカードからの離脱が続出している。NTTドコモの「dポイント」や楽天の「楽天ポイントカード」に押されつつある。

ドトールコーヒーは、4月19日に「T-POINT」の取り扱いを終了。6月3日からは「dポイント」を導入しており、ポイントサービスを乗り替えた。アルペンも、3月31日に「T-POINT」の取り扱いを終了。4月1日から、「楽天ポイントカード」へと移行した。ファミリーマートは、7月1日より新規導入の決済機能付きスマホアプリ「ファミペイ」を軸とする体制に変わった。

セブン-イレブン・ジャパンのスマートホン決済アプリ「セブンペイ」に対抗している。「T-POINT」のポイント付与は継続しているが、11月には「dポイント」と「楽天ポイントカード」の取り扱いも始める。三越伊勢丹は、買物の際のポイント付与で、「T-POINT」と自社の「エムアイカード」を併用していたが、昨年3月以降は「エムアイカード」のみ使えるようになった。現在も、吉野家、すかいらーくグループ、ウエルシア、洋服の青山、ソフトバンク、ヤフーなど、各界のトップ企業が「T-POINT」で提携しているが、「T-POINT」を貯められる、使えるお店が多いからという来店動機が薄れて相互送客が弱まるとより一層の離脱が進む恐れがある。

7月1日に導入したばかりの「セブンペイ」が、IDやパスワードが盗まれる不正アクセスにより、4日午前6時までに約900人から約5,500万円もの不正使用が疑われる事態が起こってしまった。中国のSNS「微信」に書き込まれた、買物をすれば報酬が得られるというメッセージを見て、「セブンペイ」の不正使用を行った中国人の男が逮捕されたが、今年になって、「T-POINTカード」をはじめとするポイントカードでも、ポイントが知らないうちに抜き取られて勝手に使用される被害が続出している。多くは中国をはじめとする、国際犯罪組織が関与している。

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こうした事態もあり、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(略称:CCC、本社・東京都渋谷区、増田宗昭社長)では「T-POINTカード」利用者の会員情報利用履歴を令状なしに警察に一部提供していたが、今年1月にこの事実が発覚。2012年以前は令状のある場合にのみ、必要最小限の情報を提供していたが、現状は「捜査関係事項照会書」があった場合にも、情報提供していた。個人情報保護法上は問題ないが、方針の変更を明記していなかったため、個人情報の取り扱いにデリカシーが欠ける企業とのイメージが広がってしまった。「T-POINTカード」からの相次ぐ離脱が、主にこの報道以降に起こったことは重要である。

そのうえ、同社が展開するメディアショップ「TSUTAYA(ツタヤ)」の売上は増えていても、ショップが減って、だんだんと消費者にとって身近でなくなっているのも、「T-POINTの勢力の衰えに影響している感がある。

ツタヤも通販を行っているが、ネットの発達によって、アマゾンのような通販や、アップルの「iTunes」のようなダウンロード配信がどんどん進んでくると、予め購入する本や音楽が決まっている場合には、消費者はどうしてもネット上のサービスを選びがちだ。

そうではなくて、旅行なり、料理なり、経営なり、国際情勢なり、ミステリー小説なり、どういった分野でもいいのだが、1つのテーマを深く知りたい時に、やはりリアルな書店、CDショップ、映画DVDレンタルが融合した、ツタヤのようなメディアショップの存在は貴重だ。ネットは一覧で見せることには向いていないからだ。

集客のためには、カフェ、レストラン、アパレル、雑貨、イベント会場、場合によっては食品スーパーとの複合もありだろう。本を中心に多品目の商材を絡めて陳列する近年のツタヤの店づくりは、「遊べる本屋」をコンセプトとしたヴィレッジバンガードをベンチマークした感が強い。しかし、街から書店やCDショップが消えるに従って、本を読む人が減少し、流行歌が生まれにくくなっている現状の流れを変えるチャレンジと言えるだろう。

ツタヤの再構築を急ぐカルチュア・コンビニエンス・クラブの明日

同社は今、メディアショップ「ツタヤ」の再構築を急いでいる。本の買い切りを導入し、出版社各社と交渉。これまでの出版流通で行われてきた返品を前提とした委託販売を取り止める方向に舵を切った。売場に関しては大型化。採算の合わない小型店は閉めて、カフェやアパレルなどと融合した複合化を進め、活性化を推し進める。

ツタヤでは、2018年1月~12月の書籍・雑誌の販売額が1,330億円となり過去最高を更新した。新規オープンの平均坪数は約700坪で、広々とした空間でコーヒーを片手に本を座り読みできる、「BOOK&CAFE」スタイルを推進。店頭では、データベースを活用した消費動向分析をもとに、売場展開や作品選定を実施したことが、功を奏したとのことだ。

ツタヤの店舗数は、18年12月末現在で約1,300店。5年ほど前には1,500店に迫るほどあったので、減少している。その代わり、店舗面積が増え居心地の良い空間を充実させている。

CCCが踏み込んだ本の買い切りは、今まで出版流通を支配してきた卸売業者である取次の機能を弱め、小売である書店が主導権を握る方向に変わる可能性がある。アマゾンジャパンも、今年1月に年内に試験的に本の買い切りを始めると表明していたが、鉄壁であった取次の流通網にほころびが見えてきた

CCCが本の買い切りを始める理由は、40%とも言われる返品率の異常なまでの高さがある。返品のための配送費負担の重さが、流通上問題になっていた。それを改善し、生じた利益を書店と出版社で適正に配分する仕組みをつくり出し、拡大することを狙っている。

「出版社様、取次様の抵抗が大きいとは、われわれは感じていません。むしろ今後も日本の出版文化を守っていく仲間として、一緒に構造を改善していく、大切なパートナーだと考えています」(ツタヤ広報・多田大介氏)

要は、取次も高過ぎる返品率に苦しんでいるのが実情である、とのことだ。ただし、返品しない買い切りは書店のみがリスクを負うため、不良在庫を持たないようにするあまり、売れ筋のみが書店に並ぶことになりかねない。そうなると、本の持つ多様性が失われてしまう。この危険性をCCCは強く認識しており、一部返品枠を設けた買い切り施策になる。近年の店舗は、面積を広く取っており、多くの本が置ける書棚を確保することで、品揃えの多様性を担保している。

なお、雑誌に関しては既に月刊誌の約20%を買い切りにしており、値引きを行っている。それに対して、書籍に関しては値引きの予定はない

同社では、主婦の友社、徳間書店、ネコ・パブリッシング、美術出版社などの出版社を次々と傘下の連結グループ会社としており、取次大手の日本出版販売とも合弁の取次会社MPDをつくっている。このように、川上から川下まで出版流通を押さえる戦略を取ってきたこともあって、買い切りができるようになった。

「T-SITE」の多彩な売り場展開

ツタヤというと、近年は本・映画・音楽といったコンテンツを中心に、豊かな生活を提案する「ライフスタイル型商業施設であるT-SITE」を中心に店舗開発を行ってきたが、CCC広報によれば、代官山(東京都渋谷区)、湘南(神奈川県藤沢市)、柏の葉(千葉県柏市)、枚方(大阪府枚方市)とオープンしてきて、2017年4月に、新しい商業施設「LECT」内に出店した広島(広島市西区)で打ち止めとなった。

立地によって、内容は異なるものの、食なら食をテーマに、本を中心とした売場が構成され、場合によってはテーマに関連した雑貨、アパレルなど多種多様なものを組み合わせて販売している。いずれも、店内にスターバックスコーヒーが出店。購入前の本を、コーヒーを飲みながら座り読みできる、「BOOK&CAFE」スタイルの実践である。本が好きな人にとっては、非常にありがたい店で、集客はどの店も好調と見受けられる。

16年5月にオープンした枚方T-SITEは、枚方市中心部の京阪・枚方市駅前にあり、近鉄百貨店枚方店跡に入居。9層の大型商業施設となっている。

枚方市駅前は、CCCにとっても1983年3月にオープンした、ツタヤ1号店があった創業の場所でもあり、本店として位置づけられてきた。枚方市駅前店は、枚方T-SITEオープンにより移転したことになる。百貨店の跡地ということもあり、ファミリーを意識し、あらゆる世代が楽しめる店づくりを行っている。主な売場の配置は次のとおり。

地下1階には、食品スーパーの「北野エース」を中心としたフーズマーケットを配置。総菜・弁当の「イーズマート」、イートインスペースの他、青果、鮮魚、精肉の専門店も出店し、デパ地下までの高級感はないが、全般に日常の食を豊かにする品ぞろえとなっている。

1階は食マルシェと称して、飲食店テナントを配置。スターバックスコーヒーはもちろん、タピオカが女学生に人気の行列店「台湾甜商店」、自家醸造ワインとイタリアンのワイン食堂「フジマル食堂」、農園のパン工場をイメージしたベーカリー「ザ・グラウンズベイカー」などトレンドに沿った尖った店があり、蔦屋書店の料理本販売コーナーもこの階にある。2階は音楽CD、映画DVDを中心とした、TSUTAYAのレンタル・販売ショップを配置。3階は蔦屋書店の本、文具の販売が中心。この階にもスターバックスコーヒーがある。

4階は暮らしと美容がテーマ。アパレルと雑貨の「LEAF」、地場の鞄店「交野カバン」、地元の創業68年の老舗「向井化粧品店」などが入居する。5階は子どもと学びがテーマ。蔦屋書店の児童書コーナーがメインで、子供が潜って遊べるアーチをつくるなど、空間づくりに特筆するものがある

その他、子供服「音」、写真館「サラハウス」、英会話の「イーオン」などが入居している。6階は三菱東京UFJ銀行、7階はりそな銀行が入居。8階はレストランフロアーで、和食「食のつむぎ 梅の花」、中華「京鼎樓」、イタリアン「ミール・トゥゲザー・ルーフ・テラス」、カフェ&バー「AuRA」と、お出かけ用の飲食店が並んでいる。

全般に食が重視され、大都市郊外の主婦、小さい子どものいるファミリー、食にこだわりのある中高年・シニア、学生にも、施設に来る動機になるショップがそつなく配置されている。大手銀行が2つも入っていて、お金を引き出す目的で来る機会をつくっているのも大きなポイントだ。

周囲の住民層に合わせた、全く違った店づくり

また、11年12月にオープンした代官山T-SITEは、蔦屋書店を核とした低層3階建の商業施設で、1階に本の売場や、スターバックスコーヒー、ファミリーマートを配置。2階に音楽CD販売、映画DVDレンタル、高級感あるカフェレストランが配置されている。

本は、世界の雑誌を並べた「マガジンストリート」をメインとし、人文・文学、アート、建築、クルマ、料理、旅行といった6つの専門書店が並ぶような構成となっている。専門性が全般に高い

別棟にペットショップ「グリーン・ドッグ代官山」、多目的スペース「ガーデンギャラリー」、大人向けのおしゃれなレストラン・バーでパンケーキが名物の「アイビー・プレイス」がある。

こちらの代官山は枚方とは違って、最新の情報に触れたいクリエータービジネスパーソン研究者のニーズをくみ取ると共に、渋谷区・港区あたりの都心部タワーマンションに住むような人のライフスタイルを意識している。

このように、「T-SITE」では周囲の住民層に合わせて全く違った店づくりになっており、従来の基本的に金太郎飴のようなどの店も似通った(商品構成こそ微妙に変えていたが)、TSUTAYAチェーンとは一線を画している。「T-SITE」の出店を打ち止めにして今後、どのような店をつくっていくのかは気になるところ。

16年11月オープンの「中目黒高架下」に入居した蔦屋書店は、スターバックスコーヒーが入居し、本とアパレル、雑貨を融合させてテーマ毎に売る編集を行っており、ライフスタイル、ビジネス、アート、文具の4シーンに店舗を分割。「T-SITEのミニ版のような雰囲気となっている。もっともすぐ近くに、TSUTAYAのショップがあるので、店のコンセプトを変えてきた面もある。

これからの出店戦略をCCCは明らかにしていないが、ライフスタイル提案型でしばらく出店して、地域住民からの反響を見ていくのかもしれない。

他業種企業とのコラボレーションも進めており一例として、ホームズ新山下店(横浜市中区)では島忠とホームリビングを、APIT東雲店(東京都江東区)ではオートバックスセブンとカーライフをテーマに、書籍や雑誌から広がるライフスタイルを提案している。

ツタヤのチャレンジは、出版、音楽、映像の文化を守っていくことにつながるのか。「T-POINT」カードの勢力拡大をもたらすのか。90年代後半には2万店を超えていた書店の数は、現在は1万2,000店ほどにまで減少している。書店ビジネスが苦境から脱する術として、一石を投じられるのか。今後の動向を注視していきたい。

Photo by: 長浜淳之介

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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