雨の季節が続く日本。長く付き合ってきたからこそたくさんある雨に関する日本語。そのニュアンスを英語で説明するのはかなり難しいと、『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者でNY在住のりばてぃさんは言います。一方、日本語では説明しにくいくらいさまざまなニュアンスの「考える」や「思う」を表す英単語があるそうで、英語圏の人間が考えることを大切にしてきた証左だと指摘。アメリカから新たなビジョンが生まれる秘密もそこにあるのではないかと「考えて」います。
(1)日本語には「雨」の言葉がいっぱい
昔から「言葉は文化」なんて言われている。つまり、ある国や地域では、その国や土地ならではの文化背景に基づいて言葉が生まれ、使用される傾向がある、という意味だ。 また、四季折々の自然の変化が豊かな日本には、自然を表現する言葉も多い。例えば、「雨」という言葉ひとつ取り上げても、日本語には様々な言葉がある。 以下、その一例。皆さんは、これらの言葉をご存知だろうか?
■降雨量や降り方に関するもの
- 霧雨:きりさめ、霧のように細かい雨
- 通り雨:ひとしきり降ってすぐ晴れる雨、「にわか雨」や「小雨」(こさめ)とも
- 小糠雨:こぬかあめ、霧のように細かく、音もなく静かに降る雨。「雨の御堂筋」というヒット曲に「小糠雨降る御堂筋…」という一節も
- 氷雨:ひさめ、または、みぞれのこと
- 狐の嫁入り雨:太陽が照っているのに降る雨
- 日照雨:そばえ、他は晴れているのにある所だけに降る雨。「ひでりあめ」とも
- 篠突く雨:しのつくあめ、篠竹(しのだけ)を束にして地面に突きおろすように激しく降る大雨、豪雨
■時期に関するもの
- 時雨:しぐれ、秋から冬に断続的に降る雨や雪雨
- 小夜時雨:さよしぐれ、夜に降る時雨
- 春雨:はるさめ、春、しとしと静かに降るこまかな雨
- 五月雨:「さみだれ」の「さ」は田植えの古語で古来の田植えの時期の雨
- 梅雨:つゆ、6月頃降り続く長雨
- 夕立:ゆうだち、夏の午後から夕方にかけ、にわかに降り出すどしゃぶり雨
- 秋霖:しゅうりん、秋の長雨
- 村雨:むらさめ、秋から冬に断続的に激しく降る雨。むら気な雨の意で「群雨」とも
■その他、雨に関連するもの
「雨あがり」「雨足(あまあし)」「雨模様」「雨宿り」…等など多数。 変わったところでは、『源氏物語』帚木(ははきぎ)の巻で五月雨の夜に光源氏や頭中将らが集まって語った女性についての話から、「雨夜の品定め」といった言葉もある。意味は「女性論」。女性についての論評をすること。 男性ばかりの飲み会に彼氏が参加するというので、一緒に行きたいと言ったらダメだと言われた彼女の女の子に、「どう思います?」などと聞かれた際に「大丈夫よ、どうせ雨夜の品定めでしょ?」などと答えたりするらしい。聞いたことないけど(笑)
とにかく、この他にも日本語には「雨」に関連した言葉はいっぱいあって、その微妙なニュアンスの違いを英語にしようと思っても、マッチする英単語はなく、英語で説明するのはかなり難しくなる。
(2)英単語には「考える」がいっぱい
アメリカ人には日本人よりも「考える」ことを重視してる人が結構多い。 そうそう、英語には「考える」を意味する単語がいっぱいある。あまりにその数が多すぎてビックリだ。日本語に「雨」に関連する単語が多いように、日本人の感覚では理解できないほど英語には「考える」に関連する単語がいっぱいある。 それだけ、アメリカ人にとって、「考える」ことが身近という意味だろう。まさに、文化の違いを知る好例。ちょっとビックリするほど多いけれど、せっかくの機会なので、以下、「考える」を意味する英単語をざっとご紹介してみたい。
■「考える」や「思う」の基本単語
- think:考える、思う、みなす、誰でも知ってる基本単語。日本のクイズ番組などで「シンキングタイム」ということも
- consider:よく考える(≒regard)considerは十分な考慮と経験の結果の判断を示す、regardは外見上または視覚による判断を表わす
- assume:事実や当然のことと考える、思いこむ、決めつける
- presume:推定する、思う、でしゃばる、つけこむ
- expect:これから起こると考える、予期する、確信と理由がある時に用いる和訳では、良いことの場合には「期待する」、悪い場合は「予想する」などと使い分ける
- suspect:感づく、思う、疑う(≒doubt)、doubtは確信またははっきりした証拠がないために「…ではない」という疑いを抱くsuspectは疑いを抱かせるような点があるために「…であるらしい」という疑いをもつ
- guess:(当て推量で)考える、思う
- imagine:思う、想像する
- suppose:推測して思う、imagineはある状況や考えを心に思い浮かべる、supposeは推測して思う、guessはsupposeとだいたい同じ意味だがより口語的な語
- feel:〔+as if〕感じる、考える、思う。もともと五感の触れるの意から
- see:わかる、理解する、気づく。もともと五感の見るの意から
- sense:感づく、気づく。もともと五感で感づくの意から
- visualize:心に描く、思い浮かべる
- conceive:想像する、考える、思う
- deem:思う、古期英語で「判断する」の意
- estimate:価値数量などを個人的判断で見積もる、熟慮した結果でも思いつきの場合も含まれる
- reckon:計算する、思う、推測する
■「理解する」の意味合いが強め
- understand:わかる、理解する、考える(≒comprehend、appreciate)、understandは理解した結果の知識を強調する、comprehendはその理解に達するまでの心的過程を強調する、appreciateはあるものの真の価値を正しく理解・評価する
- realize:はっきり理解する、悟る、実行する
- take:思う、みなす、理解する[しばしば well、ill、seriouslyなどの副詞を伴う]
- judge:判断する、思う、考える、(人を)批判する、非難する
- be convinced:納得する、感服する
■「判断する」の意味合いが強め
- decide:よく考えた末に決心する。名詞形のdecisionは、決定、決断の意
- determine:固い決意をする、名詞形のdeterminationは、決心、決意、決断力を意味する頻出単語、decisionよりも重い決断、決意
- resolve:決意する、決心する、decideより形式ばった語で、最後までやり抜くと決意する意味。名詞形のresolutionは、決意のほかに議会の決議案という意味でも頻出
- conclude:結論を下す、断定する名詞形のconclusionは、結論、終局、まとめの意
以上、ざっと一部ではあるが、「think」(考える、思う、みなす)の類義語を挙げてみた。 この他に「believe」(思う、信じる)や、「dream」(思う、夢見る)なども特に口語表現では、「think」と同じように用いられるが、そうなると類義語がさらに2倍、3倍になってしまうので割愛した。
いずれにしても、日本語に「雨」に関連する言葉が多いのと同じく、英語には「考える」に関連した言葉がやたらに多い。「考える」という動作の度合いや程度、その背景などの細かいニュアンスの違いを表現できるように言葉が発展してきたというワケだ。
通常、英語表現は、日本語と比べるとかなりざっくりしていて言葉の数も種類も少ない。さっきの「雨」が良い例だろう。「雨」に限らず、大半の名詞や形容詞や副詞は、日本語の方が圧倒的に桁違いに多く、表現に幅がある。 しかし、「考える」という動詞については、極めて異例の例外になってるのだ。これはすなわち、それだけ英語(=欧米文化)では、「考える」ことが身近で、重視されているということを意味する。
長年、英語を勉強してきた方々なら、そんなのとっくに気づいてるよ…と言うかもしれないが、たぶん、大多数の日本人は、この事実を知らないだろう。 また、とっくに気づいている方々でも、上述のように改めてリストアップしてみると、案外、想像していた以上にその数が多くて驚かれたという方もいるのではないか?
(3)アメリカ人が新しいビジョンを描ける理由
古くは、ギリシャやローマの哲学者の頃から、欧米文化圏では、「考える」ことは重視されてきた。「人間は考える葦である」という有名なフレーズもある。 これは、パスカルの定理やパスカルの三角形などで知られるフランスの哲学者、思想家、数学者、自然哲学者であるブレーズ・パスカル(Blaise Pascal)が17世紀に随想録『パンセ』に書き残した一節だ。
現在、アメリカには、あらゆるジャンルの学問の世界を代表する研究機関や専門家が集まっている。また、故スティーブ・ジョブズさんやビル・ゲイツさん、現在、元ニューヨーク市長だったマイケル・ブルームバーグさんのような天才的な起業家も続々と登場してくる。 規模の大小は別にしても、アメリカ人は、これまでになかった新しいビジョンを描くことが得意な気がする。日本も含め、中国や韓国では、より良いものを国外から取り入れるのは得意だが、なかなか国内で新しいビジョンを具現化したものを生み出せない。
それに対して、欧米、特にアメリカでは、様々な場面でこれまでなかった新しい何かが登場し、その価値や魅力を多くの人々から支持されると一気に広まる傾向があるような気がする。 これまでなんとなく、このアメリカならではの特徴は、フロンティア精神などに象徴される文化的な背景に基づくものかと思ってきたけど、実は、ひょっとすると、「考える」ことを重視する英語という言葉の特徴による影響なのかもしれない。
これだけ「考える」ことに関する言葉が豊富で、「考える」という動作の度合いや程度、その背景などの細かいニュアンスの違いを表現できるように言葉が発展してきた結果、これまでになかった新しいビジョンがポーンと提示されたとき、有識者層はもちろんのこと、一般人の方々も、その意義や意味合いについて極めて深く正確に考えることができたりするのではないだろうか?
その結果、見たことも聞いたこともない、新しくて珍しいアイデアが出てきても、他の言語(例えば、「考える」関連の言葉が少ない日本語)を使っている他国の人々と比べると、思考停止状態になりにくいとか?もちろん、これはあくまで1つの仮説。
でもしかし、よーく考えてみると、日本国内でも、近年、何かしら新しいアイデアやビジョンをボンボン生み出して、実現していく人々ってのは、なぜかたいていみんな海外留学経験があったり、ある程度の英語力のある方々だったりする。例えば、ソフトバンクの孫正義さんとか、楽天の三木谷浩史さんとかね。
その一方、日本国内で生まれ育ち、海外留学経験や英語力がさほどない方々は、新しいアイデアやビジョンを描いたりすることよりも、既存のアイデアやビジョンをさらに優れたものに改善、改良することで知られていたりする傾向があるだろう。大半の日本の企業経営者やリーダーが、こちらに当てはまる。
つまり、英語をちゃんと勉強すると、英語が上達するだけでなく、新しいアイデアやビジョンを描けたり、理解する能力を持つ、ビジョナリーな人物になれるかもしれないってことかも?
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