人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、アナウンサー歴30年の熊谷章洋さん。今回は、話が格段に面白くなる「相手が聞きたいこと」という切り口での話の作り方について、具体的に教えてくれます。
自分自身の人としての価値を高める話し方
セミナーや講義、講演などのお話をする先生のなかに、話の冒頭で、こんなふうにおっしゃる方がいます。
「このテーマで話を聞きに来られている皆さんが、一番知りたいのは、〇〇が(**であること、を**する方法…など)について、だと思います。その一番ご興味のある〇〇について知るためには、××と△△について理解しておく必要がありますので、まず先にその話から始めますね。 それから、〇〇については、ちょっとしたコツ(裏技、ここだけの話…など)みたいなものがありますから、それもまた後程、ご紹介したいと思います。楽しみにお待ちくださいね。さて…」
こんなふうに言える先生の話は、たいてい、全編、面白いんですよね。この先生の話が、間違いなく面白くなる理由は、既に冒頭のこのひとことの中に、いくつも表れています。
まず、〇〇について、ではなく、〇〇が(**であること、を**する方法・・など)について、と、〇〇というテーマの捉え方を一階層深めて、論点を絞っていること。
また、〇〇について知るためには、××と△△について理解しておく必要がありますので、まず先にその話から始めますね、と、何のためにその話をするのか、その順番で話すのか、その話を聞く意味を理解してもらい、目的意識を持たせていること。
ちょっとしたコツ(裏技、ここだけの話…など)みたいなものがありますから、それもまた後程、ご紹介したいと思います、と、ここでしか聞けない話の用意があることを、前振りできていること。楽しみにお待ちくださいね、と、聞き手の気持ちをくすぐる、彩り、演出の言葉が言えること。
など、なんですが、なんといっても一番のポイントは、この先生の話の考え方が、「相手が聞きたいことからの発想」であること、あるいは、自分の持っている話の中で相手が聞きたいことは何だろうと、きちんと思いを巡らせていること、だと思います。
近々、話をしなくてはいけない時がやってくるとわかっていれば、人は、大なり小なり、話を用意しておくものです。用意しておく形式は、人それぞれ、またケースバイケースであり、話のテーマだけを、箇条書きのように覚えておいたり、この話をメインに聞かせるために、その前に、あの話をしておこう、と、話の演出、構成を中心に考えたりしますよね。
当メルマガでオススメしているのは、話を枠として捉えること。枠が固まると、後はその枠に必要な話を入れるだけ。話を考えるのがとても簡単になります。こういった話の考え方を、私は、横着ファイリング話法と呼んでいます。詳しくは、まぐまぐの過去記事でご覧ください。
このように、話の考え方とその記憶法はいろいろ考えられますが、注意しなくてはいけないのは、話の発想の源が、話し手である「自分の頭の中をまとめることになりがち」だという点です。
簡単な例でいうと、自分の半生を語る機会があるとして、それを、自分の頭の中をまとめる形で話を作ると、いつどこで生まれて、どんな体験をして、人生に大きく影響を与えたのはどういうことで…そこから得た、人生哲学とは…など、全てが時系列的とは言いませんが、人間の頭が自然に思いつく順番というは、だいたいこういう感じになってしまうものです。
いっぽう、発想の源を「相手が聞きたいこと」という切り口で考え始めると、例えば、私の特技、特徴はこれこれ…。具体的には、それについてこんなエピソード…。こんな自分になれたきっかけ、考え方の転換や改善点…。私が得意な〇〇を、誰でも簡単にできるようになるコツ。私のような××タイプの人間を育成するなら、こういう家庭・教育環境…。
などなど、話の様相が、ガラリと変わりますよね。この例文を簡単に理解するために、私=「東大主席卒業」とか「大食いチャンピオン」とか、特徴的な人物を代入してみてください。東大生の勉強法や、大食いのコツ(笑)。聞き手として、聞いてみたくないですか?これが、発想の源を「相手が聞きたいこと」という切り口で考えた話です。
実は、話は切り口を変えれば、例えば、私×数学、とか、私×ビートルズ、とか、いくらでも独創的にすることが可能です。ただ、そういうバリエーションの中でも、「相手が聞きたいこと」という切り口が、もっとも聞き手に受け入れられやすい、相手本位の話題になることは、間違いないと思います。
では、相手が聞きたい話とは、どういう種類の話題が考えられるでしょうか。それは、ごく大まかな括りで言うならば、「聞き手の欲求を満たす話題」です。そしてその欲求も、バリエーションや重要度の違いで、さまざまです。聞き手の欲求として、一番大きいものは、その人にとって緊急性のある事柄だと思います。
以下、順に、生命や健康、美容、金銭、家族、仕事、人間関係、愛情、学業や知能・スキル…などの、心配事・不安、欠点、コンプレックス、問題点について、現状の把握、克服、改善、増進すること、その他、生活に役に立つこと、好奇心で知りたいこと、などが挙げられます。
噂話などは好奇心で知りたいとは思いますが、自分の生命の急迫時には、もっと知りたいことがありますよね。重要度の違いとは、そういうことです。
あなたは、自分の話を作るときに、これらの切り口で考えたことはあるでしょうか?考え始めてみると、意外に、「自分が持っている話、話せる話のなかで、人が聞いて為になるようなことって、少ないなぁ」と思うかもしれません。でも、その気づきが重要なんですよね。人間社会は、人と人の価値の交換で成立しているものです。
その価値とは、生産した物であったり、労働力や時間の提供であったり、あるいはそれが、アイデアや考え方など形のないものを教えることかもしれません。
自分が提供できる価値が、相手にとって大きければ大きいほど、そしてその相手が多ければ多いほど、当然、リターンも大きくなるわけですから、あなたの話すことが、聞き手にとってどのぐらいの価値があるかって、とても大事だと思いませんか?
これに気付くことによって、自分の経験や能力を、人が聞いて価値ある話にまで昇華させるサイクルが始まります。また、自分自身の価値を、商品として考えるのであれば、相手が満足する、つまりニーズのあるところに、能力や労力や価値を提供する、ということでもあります。
自分の話を、相手のニーズからの発想に転換してみる習慣、割と使えると思いませんか?この機会に、自分自身の棚卸し、そして再編集、取り組んでみると良いと思います。
ちなみに私はそれを、メルマガやブログを書くことによって、おこなっています…。
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