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シニア世代にこそ古武道、小唄、着物など日本の伝統を勧める訳

日本好きの外国人が日本の伝統工芸などに弟子入りする例が増えているようです。そして、そういった人たちは日本人よりも、日本の伝統的生活をトータルで取り入れようとしていると伝えるのは、メルマガ『j-fashion journal』の著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんです。坂口さんは、特にシニア世代に対し日本の伝統生活をオススメし、その生活のベースとなる衣服として、型に縛られない「きもの」の着用を提案しています。

日本伝統生活の再発見

1.外国人がイメージする伝統生活の体現

日本が好きな外国人は多い。彼らがイメージする日本人像の一つが忍者だ。現在でも忍者は存在していると考え、日本に忍術の修行のために来る外国人も少なくない。既に、現代日本に忍者は存在しないが、忍者も使っていたであろう様々な古武道は現在も伝わっている。日本人の後継者は少ないが、外国人の弟子が増えている。

同様に、日本人後継者のいない伝統工芸の世界にも外国人が押し寄せている。全く縁のない外国人が突然押しかけて来て、弟子入りすることもある。私のクライアントに藍染めの剣道着メーカーがあるが、やはり外国人が突然訪ねて来るという。日本人が安い製品を選ぶ中で、外国人の方が本物を求めているのだ。彼らは、日本の伝統的生活をトータルで評価している。

日本にいると、武道をやっている人が着物に興味があるとは限らない。あくまで、趣味として武道だけに興味があり、日本の生活文化全体については関心が薄い

そこで提案したい。会社を定年して何もやることがなくて、退屈しているみなさん。みなさんが率先して、日本の伝統的生活を体現してはいかがだろうか。そうすれば、日本伝統文化の語り部になれる。外国人観光客とのコミュニケーションも図れる。新たな人生が開けるかもしれない。

2.武道で身体と精神を鍛えよう

日本の伝統的生活の第一歩は武道ではないか。武道と言っても、柔道、剣道、実践空手のようにスポーツ化しているものではない。高齢になってから、格闘技のようなスポーツを行うのは負担が大きい。むしろ、呼吸や身のこなしを大切にする型を重視したものを勧めたい。例えば、合気道、居合道、杖道、その他の古武道である。江戸時代にはスポーツという概念はなかった。

武道は殺人の技術からスタートしたが、江戸の太平な時代には次第にスポーツ化してきた。それでも、西欧のスポーツとは身体の使い方が全く違う。我々のDNAには、千年以上の農耕生活が刻み込まれている。立ち方、座り方、歩き方等にその影響が見られ、これはすべての日本文化の所作に通じている。

現代人は、洋服を着るようになり、西欧式の運動を習い、日本古来の身体の動かし方を忘れてしまった。古武道には日本文化と共に育んできた身体の動かし方が伝わっている。別に強くならなくても、段位を取得できなくてもいい。昔の日本人の身体感覚を実感することが重要なのだ。

3.伝統的な芸術に触れよう

落語には、しばしば常磐津のお師匠さんが登場する。熊さんや八っつあんも下心丸出しで稽古に行ったりしている。昔は、遊びと言えば歌舞音曲。遊廓や料亭でも芸妓の歌、三味線、踊りを鑑賞する。もちろん、そこで自分も心得があるってことになれば、話も弾むし、モテる

自分の商売以外に芸事を習うというのは良いもので、現在でも余裕のある社長さんは小唄を習ったりしている。社長になると、自分を叱ってくれる人もいなくなる。芸事を習うというのは、お師匠さんから叱ってもらう楽しさかもしれない。

日本の芸事にはゴールがない。お師匠さんと呼ばれる人達は6歳頃から芸事を始めているので、還暦過ぎてから始めても追いつけないし、芸を究められるわけもない。習うのは、長唄、常磐津、清元、小唄、新内など何でも良い。歌だけを習うこともできるし、歌と三味線を習うこともできる。

自分が芸事を始めると、プロの演奏が気になる。そこで、歌舞伎座や国立劇場に行くことになる。邦楽は洋楽とは全く異なる音楽だ。リズムも違うし、メロディも違う。三味線の音も西欧の楽器にはない倍音を重視している。

邦楽を習う時に面倒なのが、流派や家元制度だ。月謝の他に何かと費用も掛かる。そういう場合は、カルチャーセンターに通うのが良いだろう。少しかじってみて、本気でやりたければ、正式な弟子になればいい。まずは、体験だ。

4.きものを着て生活しよう

武道をやる人は武道だけ、邦楽を習う人は邦楽だけというのが、これまでの常識だった。道楽をいくつも行えば、贅沢と思われてしまう。しかし、日本生活を体験するならば、いくつかの習い事を行うのが良いと思う。それぞれに共通する美意識や精神性が理解できるからだ。

ここまで来ると、普段の生活できものを着てほしいものだ。本来ならば、武道の稽古にも、きもので行って欲しい。きものを着て歩くだけで、所作が身につく。

ここで問題になるのが、現在のきものである。ほとんどが正絹で、手入れも畳み方も大変で。しかも高額だ。現在の男物のきものは商家の旦那のイメージ。女物は、武家の奥方をイメージしている。どちらも庶民の服装ではない。

私はできれば、身の丈にあった藍染め木綿の着物が良いと思う。汚れれば、ジャブジャブと水洗いして干しておく。破れたり、すり切れれば、継ぎを当てる。そんな生活こそ、サスティナブルな江戸の暮らしだ。

藍染め木綿で入手できなければ、デニムの着物でも良い。但し、ジーンズのような固いものではなく、柔らかい生地を選んだ方が良いと思う。畳むのが面倒ならば、着終わったら、着物用のハンガーに掛けておけばいいだろう。着物の履物は草履か下駄だが、私はサンダルやスニーカーでも良いと思う。地下足袋や地下足袋型の靴もある。

冬はヒートテックのシャツとタイツを下に履けばいいし、書生のように台襟シャツを着物の下に着ても良い。ショールやストールをグルグルと首や身体に巻き付ければ寒さにも耐えられる。それでも寒かったら、綿入れのイメージで、ダウンベストを着てしまう。

きものの良さは、着易く疲れないこと。きものが疲れるのは、固く着付けるからであり、昔の人がそんなにきちっとしていたわけがない。それでも、帯を締めれば、腰も伸びる。これもまた、日本文化の知恵だと思う。

image by: Shutterstock.com
[
touroku]

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