都内や都下、郊外でよく見かける青い看板の「ゆで太郎」ですが、実はこの15年で一気に200を超える多店舗化を実現したのだそうです。何がここまでスピーディーな出店を可能にしているのでしょうか。MBAホルダーの青山烈士さんが自身の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』で、同社の戦略と戦術を詳細に分析しています。
多店舗化のカギ
今号は、日本一の店舗数を誇る「そばチェーン店」を分析します。
● ゆで太郎(安くておいしい日本そばチェーン)
戦略ショートストーリー
そば好きな方をターゲットに「挽きたて、打ちたて、茹でたてへのこだわり」に支えられた「美味しい」、「安い」、「ゆっくり座って食べられる」等の強みで差別化しています。
日替わりや期間限定など、毎日通ったとしても飽きさせないメニューが顧客からの支持を得ています。
■分析のポイント
そばチェーン店としては、メジャーな存在である「名代富士そば」、「小諸そば」は、ともに1970年代に開店していて、現在は、両社ともに100店舗前後まで拡大しています。
一方で「ゆで太郎」の1号店が開店したのが1994年ですが、現在の店舗数は200店舗を超えています。フランチャイズチェーンを企図して設立された「株式会社ゆで太郎システム」が2019年に創業15周年ですから実質この15年で多店舗化を実現したと言えます。
先行企業と約20年間の差がある中で、FC化を進めた15年程度で日本一の店舗数を誇る「そばチェーン店」になったということになります。すごいですね。今号ではその要因について考えてみようと思います。
「名代富士そば」、「小諸そば」は、ともに東京都区内の駅近くに出店し、基本は立ち食いそばの形態をとっていますが、「ゆで太郎」は、郊外店を中心に出店し、ゆっくり座って食べられる店舗形態をとっています。これらの差が出店数の差につながっている要因と言えます。
「名代富士そば」、「小諸そば」の出店エリアである東京都区内は非常に競争が激しく、競争を優位にするうえで、良い立地を押さえることが重要な要素となります。しかし、好立地を押さえることは容易ではありませんので店舗数を増やすことも難しいと言えます。
さらに、年間二桁店舗出店や多店舗化を実現するには、ノウハウが欠かせません。年間に数店舗ずつ地道に店舗数を増やしてきたチェーン店舗がいままでのペースを変えて、年間20店舗出店など、急激に店舗数を増やそうとしても現場がついていけません。
これらの理由から、「名代富士そば」、「小諸そば」両社にとって年間二桁店舗出店は、戦略的に選択することが難しい打ち手であると言えます。
「ゆで太郎」の場合、郊外中心の出店ですから、東京都区内よりは、出店場所を押さえることは容易でしょうし、多店舗化については、3,000を超える店舗数を展開していた「ほっかほっか亭」のFCオーナーから本部取締役まで務めた「株式会社ゆで太郎システム」の代表取締役社長池田氏の持つノウハウを活用できることが大きいです。
上記のような、出店エリアの選定やノウハウが多店舗化実現に大きく貢献しています。
また、郊外を選んだことの効果としてあげられるのが「町のそば屋」のような存在になっていることです。現在、個人で経営されている「町のそば屋さん」は減少傾向にありますが、市場規模が縮小しているわけではないので、そば好きな方が減っているということでもなさそうです。
つまり、郊外においては、「町のそば屋さん」の減少により美味しいお蕎麦を食べたい方のニーズを埋める存在が減っていたのではないかと考えられます。そして、国内では、高齢化が進んでいますが、郊外ではより顕著ですから、健康志向の高いシニアの集客が期待できそうです。
そこで登場したのが「町のそば屋」の代わりになる存在、「ゆで太郎」ですね。既存の「町のそば屋」よりもリーズナブルな価格ですから、顧客にとっては通いやすい存在となりますし、
その他の外食チェーン店との比較では専門店の「そば」が手軽に食べられることや健康的であることを強みに差別化できそうです。
ちなみに、トリドールが運営するうどん専門店「丸亀製麺」は1,000店舗を超えていますので、そば専門店の「ゆで太郎」がどこまで店舗数を増やしていくのか、「うどん」対「そば」の戦いがみられるのか、注目していきたいです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):そばチェーン店
- 競合(お客様の選択肢):「名代富士そば」や「小諸そば」などのそばチェーン店、町のそば屋、その他、外食チェーン店など
- 状況:国内のそば・うどん店の市場規模は横ばいのようです。また、個人店経営の店舗が減少傾向のようです
■強み
1.美味しい
- 毎日食べて飽きない味
- 無添加でヘルシー
2.安い
- 財布にやさしい
- お腹がいっぱいになる
3.ゆっくり座って食べられる(郊外店)
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
- 挽きたて、打ちたて、茹でたてへのこだわり
- 安く提供したいという強い思い
- そばチェーンで最大の店舗数
→200店舗(仕入れ価格の低減が期待できる) - ほっかほっか亭で培ったチェーン店運営ノウハウ
→株式会社ゆで太郎システムの代表取締役社長池田氏は「ほっかほっか亭」で取締役を務めた人物
上記のような、こだわり、ノウハウなどが強みを支えています。
■顧客ターゲット
- そば好きな方、健康志向な方
- コスパを重視する方、ゆっくり食べたい方
◆戦術分析
■売り物、売り値
「粉から自家製麺 江戸切りそば」
<主なラインナップ>
- 日替わりマル特セット 570円
→月曜日:ミニとり舞茸天丼セット、火曜日:ミニかつ丼セット、水曜日:ミニえび天丼セット、他 - ワンコインセット 500円
→ミニ明太高菜ごはんセット(コロッケ付き)、ミニかき揚げ丼セット、ミニカレーセット - 満腹セット 880円
→満腹かつ丼セット、満腹カツカレーセット - 朝食メニュー
→朝そば 330円(玉子 or 鬼おろし) セット 360円(高菜ごはん or カレー丼 or 納豆)
「そばつゆ」や「薬味」の追加は無料
■売り方
- ゆで太郎ファンクラブ会員を募集
- 無料クーポン券の配布
■売り場
- 全国に約200店舗
→郊外を中心に出店を増やしています
※ 売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: MAG2 NEWS