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N国党が本当に「ぶっ壊す」べき、政府広報に成り下がったNHK

参院選で立花党首が当選を果たし国政に進出した、NHKから国民を守る党(N国党)。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、NHK報道が政府広報に成り下がったと言っても差し支えない今、N国党が目標とする「NHKのスクランブル化」はそれなりに合理性があるとしつつ、ここに来て同党が口にし始めた「政権交代をめざす」という主張については疑問を呈しています。

N国党はNHKの何をぶっ壊したいのか

めでたく参議院議員になった立花孝志氏のスローガンといえば、もはや永田町界隈で知らぬ者はない。「NHKをぶっ壊す」である。

ご本人いわく、職業は「国会議員ユーチューバ─」。話の折々にこのスローガンをはさみ、愛嬌たっぷりのポーズをとる。

8月18日に立花氏が投稿したユーチューブ。「明日東京MXテレビに行くべき?」とネットアンケートを実施。行くに「賛成」が多ければ「行く」し、少なければ「行かない」。これが「NHKから国民を守る党がやりたい直接民主主義」というのである。

なぜ東京MXテレビかというと、タレントのマツコ・デラックス氏が同局の番組で立花氏の当選をめぐり、コメントした以下の内容が気にくわぬからだ。

「今のままじゃ、ただ気持ち悪い人たち」「ふざけて入れている人も相当数いるんだろうな」。

娯楽番組の井戸端談義で毒舌キャラのタレントが思うがまま喋ったことに、それほど反応しなくても。と思うが、本人としてはこれをチャンスに暴れまわって耳目を集めたいということか。すでに今月12日にも同局に抗議に押しかけ、大勢の報道陣を集めて、首尾よくメディアの話題にしたはずだったが、それだけでは飽き足らぬようだ。

どうやら、売れっ子タレント相手の喧嘩はよほど美味しいのだろう。利用されたマツコ氏の心中はお察しするが、“お連れ”もある。

立花氏ならびに、同党幹事長になったジャーナリスト、上杉隆氏のさらなるターゲットになったのが番組スポンサーのひとつ「崎陽軒」だ。

崎陽軒といえばシウマイ弁当。ダルビッシュ投手が「崎陽軒に罪はない気がする笑」「てか良く新幹線乗るとき買ってたなー。また食べたい」などと気軽にツイートすると、さっそくこれを問題視。上杉幹事長が「崎陽軒に罪はないのならば誰に罪があるのでしょうか?」と文句をつけた。

こういう一連の言動に対し、ネット上で批判コメントが殺到するのは当然のことで、立花氏自身も“炎上狙い”のふしがあるが、さすがにN国のイメージを守る意識も働いたらしく、ネット投票の結果に従って次の行動を決めるN国流の直接民主主義」をひねり出したわけである。

なにかと話題を振りまくN国党だが、もともとは「NHKのスクランブル化というワンイシュー政党として、立花氏が議席を得たはずである。ところが、議席数を増やすため見境なくいわくつきの無所属議員に入党を呼びかけ、幹事長など役員をそろえる過程で、なにやら枝葉が多く出てきて、ワンイシューの信念が揺らいで見えるようになってきた。

あの「北方領土を戦争で奪い返す」発言をした丸山穂高議員を入党させたかと思うと、渡辺喜美参院議員と新たな会派「みんなの党」を結成し、NHK問題など考えたことがないという渡辺氏に配慮して、他の政策を付け加えることもにおわせた。

さらに上杉隆氏を幹事長に据えるや、政権交代をめざすと言い出した。それなら、国政全般にわたる政策を考えねばならず、崎陽軒不買運動なんぞやっているヒマはないだろうに。

ただ、齢50をこえたとはいえ、ユーチューブ放送で観察する限り、立花氏はおそろしく元気である。思うにあのエネルギーは、2005年4月の決起”に源泉があるのだろう。

週刊文春への内部告発NHKの不正経理についてだ。記事のタイトルは「NHK現役経理職員、立花孝志氏懺悔実名告白、私が手を染めた裏金作りを全てお話しします」。当時、立花氏はNHKの経理担当職員だったが、本人がジャーナリスト、若林亜紀氏に語ったところによると「不正経理をやらされてうつ病になった」という。

NHKを辞めた立花氏はパチンコ指南を手始めにユーチューバーとしての才能を開花させた。いつパチンコの腕を磨き、話術を鍛えたのかは定かではない。やがて、NHK視聴料の支払い拒否を勧め集金人を追い返す方法を伝授するようになり、どんどん再生回数が増えて、ユーチューブの広告料収入が1,000万円をこえるほどに。

誰だって、NHKの視聴料を払わなくて済むのなら、そうしたい。とくに、報道部門で公共放送の役割を果たしていない昨今のNHKには、絶望感さえ覚える。たとえば、政治部、岩田明子記者の安倍政権べったりな報道にはは辟易するばかりだ。

モリカケ問題でも、NHKの安倍忖度はひどかった。

加計学園の獣医学部新設をめぐる文科省のメモ文書について、最初に前文科省事務次官、前川喜平氏にインタビューしたのはNHKの社会部だったのに、その映像は放送されなかった。文書を入手したのもNHK社会部が一番手だったが、「官邸の最高レベルが言っていることの部分が消されて放送された

NHK報道局長、小池英夫氏の指示だという見方もあれば、NHK会長賞を受賞し、局内で影響力を増している岩田氏が安倍官邸の怒りを避けるため、そのネタを握りつぶすよう小池局長に働きかけたのでは、と推測する向きもあった。

マスメディアは戦前のように国家権力が暴走することのないよう、市民の側から監視し、そういう意味において中立公正な情報を提供するのが仕事である。

国民から受信料を徴収して経営するNHKは、まさしく市民社会の「公共」を守るために存在するのであり、国家権力に対してつねに批判精神を持っていなくてはならない

戦後のNHKは公共放送として政府から自立するために1950年、アメリカにならって、民間人で構成する独立行政委員会「電波監理委員会」を創設した。にもかかわらず、サンフランシスコ条約が発効すると同時に郵政省に統合されてしまった。つまり再びNHKは政府の管理下に置かれることになった。

こうした制度改悪が今のNHKの姿につながっているのだ。政府から独立した公共放送をいま一度めざすために、国家との関係をきちんと見直すべきなのにそれをせず、報道部門は安倍政権への忖度のかたまりになってしまった。

視聴料など払いたくはない。だけど他の人が支払っているのに、自分だけが拒否するのはアンフェアではないか。だから、今のようなNHKなら要らないと思いつつも、払っているのである。

NHKのテレビ放送をスクランブル化して、契約世帯だけが視聴できるシステムには、それなりの合理性があるのだから立花氏にはひたすら実現に邁進してもらいたいものだが、もともと彼のNHK批判には、反韓極右的な思想が根を張っている。ユーチューブで、NHKが電通に乗っ取られているゆえに反日放送をしているなどと、意味不明のことを言うのだから、あきれるばかりだ。

NHKは左傾化しているという理屈で、経営委員の顔ぶれを入れ替え、籾井勝人氏のような人物を会長に据えたのが安倍政権である。その後は、ときおり秀逸なドキュメンタリー番組が登場する以外、報道とは名ばかり政府広報と言って差し支えない異常事態が続いている。

リベラルからみればあきらかにNHKは右傾化しているが、立花氏や安倍首相の目には左傾化に映るらしいのである。

両者のそうした思想的親和性を見ても、N国が議席数を増やして安倍政権にすり寄り、憲法改正発議に向けたの協力をするかわりにNHKのスクランブル化を実現させようという魂胆がありありなのだ。

N国は30人近い地方議員を擁していると聞く。そのなかには、ネトウヨ、レイシストが複数いるとネットメディアでいわれているが、NHK問題のワンイシューで集まった人々だから、その点はあまり深追いしようと思わない。ごった煮の集団になるのは決まりきっているからだ。

しかし、NHKスクランブル化のワンイシューで有権者をひきつけ、選挙の勝利に結びつけた政党が、政権交代をめざすというのである。全般の政策なしにどうやって政権を運営しようというのか、筆者の頭では理解不能だ。

たしか立花氏はNHKのスクランブル化を実現させたら政治家を辞めると言っていたはずだ。地位とカネに恋々としない潔き姿勢と、どう折り合いをつけるのか、けだし見ものである。もっとも、そんな立花氏の発言を本気にする人は少ないかもしれないが…。

image by: MAG2 NEWS

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