長期休み明け前後に集中する、子供の自殺。とくに夏休み明けにその数は突出しています。そんな状況を憂慮し、2016年に「いじめ自殺防止のための共同宣言」を発表したのが、これまで数多のいじめ字問題を解決に導いてきた現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんです。阿部さんは自身のメルマガ『伝説の探偵』で、今年から共同団体に加わった力強い新たな「仲間たち」を紹介。さらにこの宣言に異を唱えた「反対勢力」の存在も明らかにしています。
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子ども自殺問題について
共同宣言をする意味
ここのところ「新学期に向けて」子どもの自殺防止についての活動がよく取り上げられている。私が代表理事を務める「NPO法人ユース・ガーディアン」では、同志と言えるNPO法人を中心に様々な団体を集め、「いじめ自殺防止のための共同宣言」を行い、今年で4年目を迎えた。
自社・自団体のみで宣言文を出すことは容易だ。出せばよいのだ。
しかし、いじめで悩む多くの子に、本気を見せていく必要があると考えた。だからこそ、様々な団体が共同して行う方が、いろいろな大人たちが自分たちの声を聞こうとしているのだという事を子供達に行動として示すことができる。
いじめ問題に取り組む各団体の主義や主張、垣根を飛び越え、私とユース・ガーディアンの理事たちは、様々な団体と手を取り合い、共同宣言を続けている。
共同宣言に新たな仲間
2019年は新たな仲間が加わった。
まずは、大田区立小学校PTA連絡協議会。つまり、大田区の公立小学校全てのPTAがこの共同宣言に賛同し共に宣言することになったのだ。これは画期的なことであった。
そもそも、共同宣言には「学校に行かなくてよい」というのが冒頭にあり、学校の自治権信者が集まる校長会などからは反対意見が多い。PTAの「P」は親「T」は先生の意味であり、つまりは教員もその中に入る。その団体が、この宣言に加わったことは、学校に行くことよりも命の方が大事なんだという宣言をするとともに、いじめを撲滅していこうという積極的な行動をする事を大人たちが約束した事を意味する。この一歩は大きい意味を持つ。
次に東京都足立区の辰沼小学校元校長、仲野繁さんが共同代表をする一般社団法人ヒューマンラブエイド。辰沼小学校は文科省が推奨するいじめ予防対策に紹介され、最も実践的で最もいじめ予防の効果があった対策を実践した小学校であり、この対策を作り上げたのが、仲野先生だ。
同代表の刀根さんも画期的なアプローチを続けている人物だ。
共同宣言に加わっている各団体は1団体でも十分宣言をできるだけの力を持っている。その団体が集まって共同宣言するという行動は、子供達へ強いメッセージを送りたいという意志の塊だと言えよう。
日別自殺統計
多くは大型休暇明けに自殺者が集中していることがわかる。
特に今は、各地域によって夏休みの期間はバラバラであり、8月末は子供の自殺が集中してしまうことがデータからも明らかなのだ。
いじめをなくすことはできないと多くの識者はいう。確かにいじめは大人社会でも頻繁に起きていることであり、これ自体をなくすというのは理想にすぎないのかもしれない。
しかし、自殺はどうだろう。ゼロを目指していいのではないか。
いじめ法改正での問題
共同宣言文は、私が全て書き上げた。それも思うがままに書いたものだ。
日々数が増えすぎて、もはや数えることよりも対応する事を重視した為に、本当の数字は私もわからないのだが、数えられるだけで、2018年末ごろには6,000人のいじめ相談を受けていた。
その私が、率直にそのまま言葉にしてみたのが、共同宣言文だ。
ただこれにも反対勢力はあった。それは、学校のみの自治権を主張する団体である。例えば、変な校則で児童生徒を縛ることも学校の自治であり、いじめ被害がもはや犯罪であるとなっても、警察との連携を拒み、問題自体をなかったことにしようとする人物らである。
彼らは、いじめ防止対策推進法の改正でもその改正案の座長であった馳浩参議院議員に圧力をかけて、この法を後退させようとした。結果、改正勢力と自死遺族の会などが反発し、この改正案は頓挫したのだ。
ニュース報道では、教員処罰が問題となっているとするが、その実、これを問題としたのは、この反対勢力と各社報道機関のみであった。問題はそれ以外にも大いにあるのだ。
このいじめ防止対策推進法改正は、超党派の議員によって行われようとしていたのであり、2018年末には協議案が出来上がっていた。あとは、立法府としての国会で、議員立法(議員立法は最後の審議となる)として採決を待つというところであった。
この中では、大きく、「いじめの定義の限定解釈などを禁止」「いじめ問題担当者を決める」「学校のみならず地域社会でも取り組む」「放置や加担する教員の処罰」「第三者委員会が身内にならない組織にすること」などが盛り込まれていた。その全てに反対したのが、前述からの反対勢力であり、全国校長会、教職員組合、全国教育委員会の3団体であった。この勢力については当時、読売新聞が大きく報じた。
いじめの定義の限定解釈は、いじめ自殺の大きな要因として文科省と法務省が総務省から勧告を受けるという異例の指摘があった問題だが、この反対勢力はいじめの定義自体に反対であるので、簡単に言えば、限定解釈をしても構わないとした。
いじめの担当者は、主に生活指導主任が行うがそれを明記しようというだけであり、別段、教員の仕事が増える自体とはならないが、当時の文科省担当や校長会のメンバーは、文科省通達で、「生活指導主任を決めなさい」としたのに、それを忘れ、教員の負担が増えるからと言って、これを妨害した。
学校のみならず地域社会でもいじめの問題に取り組もうというのも、学校の自治権が乱れるからと反対、放置や加担する教員処分についても教員が萎縮すると言って反対、第三者委員会が身内委員会になる問題についても選任が大変だからと言って反対したのだ。
つまり、この反対勢力は、子供の命より、大人の保身と面倒くさい仕事を無くせばいいと主張したのだ。
そして、これが学校社会の中心を担う全国的な団体であったということは、もはや学校社会ではいじめの取り組みなどできない事を宣言したのと同然なのだ。こんな腐った社会に、子供たちの命を任せることはできないと思うのは当然だろう。
それでも理想を掲げ、学校を楽しい場に、よく学べる場にしようとしている教員たちもいる。だから、私は、「学校が君にとっての地獄なら、行かなくてもいい」と共同宣言文に書いたのだ。
死にたくなるくらい辛いなら、行くな。それは逃げたことにはならない、むしろ、賢者の選択と言えるだろう。学校に行くか行かぬかを決めるのは、児童と生徒の選択であっていい。
学校職員やそれに関わる人たちは、子供達が学校に行きたくなるような環境とよく学べる授業を提供できるように全力を尽くせばいいのだ。
それがわからぬ馬鹿どもが、学校の自治という、もはや時代遅れで、特にいじめにおいては法ができたことによって、一部を否定された利権に、しがみつき、子供達を喰い物にしているというのが、今なのだ。
共同宣言本文
いじめ自殺防止のための共同宣言
学校に行きたくなかったら、行かなくてもいい。
学校が君にとっての地獄なら、行かなくてもいい。
ただ、教えてほしい、何があったのか?何が起きたのか?
もし、今、話すことがつらかったら、話せるときまで私たちは待っている。
命はリセットできない。
想像してほしい。君がいなくなってしまったら、君の大好きな人たちがどれだけ悲しむのか。
君につらい思いをさせた人たちは反省するのか?罪を償うのか?
逃げる場所は必ずある。
もしも、君が逃げるなら、この宣言に賛同したすべての団体とすべての人たちが、君の逃げ場を探す。
もしも、君が戦うのなら、この宣言に賛同したすべての団体とすべての人たちが、君を徹底的にサポートする。
私たちは、君が声をあげてくれないと、君を見つけ出すことができない。
だから教えてほしい。
私たちは、君の話を聴く。
君の元へ駆けつけて、直接助けることもできる。
だから、ちょっとだけ勇気を出して連絡してほしい。
一人では大変なら、私たちに連絡してくれればいい。
必ず、その勇気に応えるサポートをする。
■共同宣言団体(五十音順)
NPO法人 いばしょづくり(神奈川県)
大田区立小学校PTA連絡協議会
NPO法人 くまもと子どもの人権テーブル(熊本県)
心にエールを「ほっと(ハート)まぁる」(宮崎県)
NPO法人 子どものオンブズにいがた(新潟県)
子どもの権利条約ながさきネット(長崎県)
NPO法人 子どもの人権アクション長崎(あじじの会)(長崎県)
子どもの人権・安全ステーション(山口・九州エリア)
NPO法人 全国こども福祉センター(愛知県)
NPO法人 日本文化武道研究所(東京都)
一般社団法人 ヒューマン ラブ エイド(埼玉県)
ライフスキルトレーニングセンター樹(山口県)
NPO法人 ユース・ガーディアン(東京都・幹事団体)
NPO法人 若者メンタルサポート協会(東京都)
■賛同団体
絵本教育研究所(大阪府)
合名会社 T.I.U.(T.I.U.総合探偵社)
株式会社 ホライズンワークス(東京都)
司法書士事務所 ワン・プラス・ワン(東京都)
※本件に対するお問い合わせは次にお願いします。
NPO法人ユース・ガーディアン 03-6447-9161(担当:阿部)
編集後記
今年は新たに仲間も加わった「いじめ自殺防止のための共同宣言」ですが、この時期、私は密着ドキュメンタリーの取材や撮影の他、執筆など(もちろん、一般業務や相談の対応もあります)が多く重なり、活動に集中的に時間を使えませんでした。だから、もっと広げることができただろうに…という感じです。
それでも、ヒューマンラブエイドさんと大田区立小学校PTA連絡協議会さんが賛同のみならず、共に活動、宣言をする仲間に加わったことは、とても大きな一歩と言えるでしょう。
理事のみんなもよく頑張ってくれましたが、ただやはり、増え続ける相談対応も含め、マンパワーが全く追いついていきません。足りない分は、ほとんど私が睡眠を削り、体調管理をしないことにして、無理をしてまわしています。
そこで、これからはボランティアをちゃんと募集しようと思っています。やってもらうことは、いじめの相談の受付や資料収集、聞き取り時の同行、いじめ事件の取材の補助という実務やユース・ガーディアンの講演や勉強会の運営や企画というところをお願いしたいと思っています。
きっと、本当は、学校関係であったり教育行政であったりが、やることなんだろうな…とか思うんですが、本文に書いた通りの現状ですし、日本の財政は教育にはあまり関心がないようなので…民間の力でなんとかするしかないというところです。
本来はその穴埋め活動については、補助金や助成金なるものがあるものでしょうが…それよりは官僚様の天下り先などの団体の方が重要なんですね、残念ながらそれが現実です。
この現実を心から受け入れるつもりはありませんが、今あるものから対応しなければ、いじめ自殺は防げません。机上の理論は通用しません、行動しかないのです。
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