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台湾を変えたニッポン。「歌手」を憧れの職業にした我が国の軌跡

本拠地の台湾のみならず、アジア全域で絶大な人気を誇るクラウド・ルーという男性シンガーをご存知でしょうか。過去3度の単独来日公演も大成功させ日本でもファン増殖中の彼ですが、「歌手」という職業が台湾や韓国で憧れの存在となったのは日本の功績、とするのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、その理由を歴史の流れに沿って解説しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年8月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【台湾】アジアを席巻する台湾音楽、その礎をつくった日本

クラウド・ルー 2019 ワールド・ツアー・東京

今週は台湾のエンタメ情報をご紹介したいと思います。クラウド・ルー盧廣仲という男性歌手に注目しました。若い方はよくご存じだと思いますが、古希を過ぎている私はよく分からないというのが正直なところです。

しかし、このクラウド・ルーさんは台湾はもちろん、アジア全域ですごい人気なのです。台南出身の純粋な台湾人で、彼の楽曲には台湾語がたまに出てきます。まずは報道からプロフィールを引用しましょう。

1985年台南生まれ。大学1年の時、交通事故に遭ったきっかけで、入院中にギターを独学で始める。退院後の翌年、大学の音楽コンテストで優勝、現在の所属事務所にスカウトされる。3枚のシングルを経て08年にアルバムデビュー。発売初週は台湾の多くのチャートで1位を獲得。その自然体と音楽性の高さで大ブレイク。

 

最も権威ある第20回金曲奨(ゴールデン・メロディ・アワード)では最優秀新人賞および最優秀作曲賞を受賞、その後も数々の音楽賞を総なめに。これまでに、2016年など4度にわたり台北アリーナでのソロ・コンサートを開催。日本ではサマーソニック(2015)などのフェスにも参加。

 

2016年11月に初の日本でのワンマンライブ(東京、大阪)を開催、東京公演はチケット先行発売1時間で即完となる。日々の生活からふと感じたことを純粋かつシンプルに表現するその音楽スタイルは台湾内外で反響を呼んでいる。

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そのクラウドさんが、12月に四度目の来日公演を行うということです。台湾でも彼のライブのチケットは発売直後に売り切れる人気ぶりのほか、ドラマで主演するなど音楽以外の活動にも精力的です。

彼が主演したドラマ『花甲男孩轉大人(A Boy Named Flora A)』は、10月9日からNetflixで公開予定だそうなので興味のある方はぜひご覧ください。

特筆すべきは彼の風貌でしょう。きらびやかなイケメンでもなく、黒ぶちの大きなメガネが特徴的です。彼の素行も、恰好つけず自然体で、スターのオーラを全く感じない近所のお兄ちゃん的存在です。

それなのに、若い女性を中心に絶大な人気を誇り、高雄アリーナでの公演のチケットは即売、過去の単独日本公演も大成功を収めてきています。彼のコンサートは、ジェイ・チョウのような派手さはなく、温かく素朴な雰囲気を演出しています。もしかしたら、政治的に混沌としている台湾社会に一服の清涼剤を与えてくれるような存在が彼なのかもしれません。

また、ネット社会の現代は、どんな人ともネットでつながることができます。ネットは、世界をボーダレスにつなぎ、有名人と一般人をつなぎ、犯罪者と被害者をつなぎます。ネット上は嘘も本当もごちゃまぜで、人々は疑心暗鬼で日々を過ごしています。そんな中、聞き手が心地よいと感じることができる本物だと感じることができるのが彼の曲だったのかもしれません。どちらにしても、このような新しいタイプの人気者が台湾で登場したことは歓迎すべきことです。

台湾は長らく国民党独裁時代が続きましたが、現在では民主主義社会へと変貌しました。そして、努力があれば報われる自由な社会だということを彼が証明してくれているようにも思います。

そして、努力で掴んだ栄光は本物です。本物は世界で通用します。彼がアジア全域で人気があるのは本物だからでしょう。

もっとも、韓国でもそうですが、今日、歌手がスターとしての地位を獲得できるようになったのはある意味で日本の功績なのです。とくに中華世界ではそうです。

さまざまな宗教の流派や職業を表す言葉に、「三教九流」というものがあります。これは漢の天下崩壊後に徐々に熟成して広がっていった言葉です。その後、約100年ほど前の宋と元の時代から定着しました。

音楽や舞踊については、紀元前300年の頃の春秋戦国時代の中国でもさかんでした。しかし、漢の武帝が「儒家独尊」として儒教を国教と定め、その後の隋の時代には「科挙」が任官の登竜門となると、それ以後は「文章が強国の大事とされ、「医者歌手俳優」は「三教九流」の中でも最低クラスの職業と位置付けられるようになったのです。

大中華が決めたことには小中華も従うため、朝鮮半島も同様でした。儒教国家の朝鮮でも、これらの職業は蔑まれてきました。

それを逆転させたのは、日本が開国維新して西洋から取り入れた近代化の波でした。それまで最底辺の職業と蔑視されてきた「医者、歌手、俳優」を職業とする人々は、一躍憧れの存在に変身してしまったのです。

台湾社会は、長い間原始的な社会でした。実体験としてよく覚えているのは、幼い頃引っ越しをした際、新しく家を建てる場所は最低でも三尺の土を掘ってから建築しなければ「不吉」だという迷信が強く信じられていたことです。このように、台湾はもともと迷信や言い伝えなどで社会が形成されていた原始的な状況でした。そんな社会観を一変させたのはやはり日本時代」でした。

一方で、近代化の波に乗れなかった中国は独自に大躍進から文革へと破滅の道を歩んでいました。近代化の波に乗れなかったということは、中国の社会観の変化もなかったということです。

そのため日本人として国際コンクールで初めて入賞した台湾人音楽家の江文也は、戦後、中国にわたって文革中に粛清されました。彼が音楽家だったからです。「三教九流」の概念は変わらぬままでした。今でもその名残は随所にあります。

中国では、7か月もあれば漢方医になれますが、日本で医者になるためには7年ほどもかかります。

現在、中国で俳優や歌手がスターになっているのは、テレビやラジオが登場したからです。一見すると、俳優や歌手は中国も欧米も日本も同じようにスター扱いですが、その実、中国では「三教九流のなかでの下層という位置はあまり変わっていないのです。

中華の人々と日本をはじめとする近代国家の人々との文明、文化は、現在でも想像以上に異なっているのです。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年8月28日号の一部抜粋です。

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