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現役アナが教える「語彙が足らない」と言う人に本当に必要な能力

人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、アナウンサー歴30年の熊谷章洋さんによる「話し方の表現力を上げる5つのアプローチ」シリーズ。今回はアプローチその4「語彙を豊かにする」です。熊谷さんは、話すために必要な「語彙」について解説し、話をする際の「語彙不足」という認識にありがちな誤解を、ずばり指摘しています。

語彙が足らないと言う人の、本当に必要な能力

話す「内容」の良し悪し、完成度に関係なく、表面的な「しゃべりの技術」によって、話し方の表現力を上げる5つのアプローチをご紹介しています。

これまで、

  1. 声そのものを磨く
  2. 声色を使う
  3. 口調を操る

これら3つについてお話ししてきました。

続いてアプローチその4は、語彙を豊かにすること。いつもの内容のおしゃべりでも、いつもと違う言葉で表現できたら、聞いた人は、「おおっ!!」と思いますよね。それが、語彙を豊かにすることで話し方の表現力を上げる、ということです。

ただし、絶対に誤解してはいけない要素がありますので、先にお断りしておきますが、ここでいう「豊かに」というのは、ただ単に言葉を知っているという意味ではなく、話し方における語彙とは、相手に届く表現を、自分自身で「生成できる状態」を指すのだと、くれぐれもご理解いただきたいのです。どういうことなのか、順を追って説明していきますね。

まず、語彙とは?というお話です。辞書などで語彙という言葉自体の意味を調べますと、「ある範囲で使われる言葉全体」などと解説されています。

これはどういうことなのか、解釈しますと、日本語の語彙、村上春樹作品の語彙、私の語彙…など、多くの場合「〇〇の」語彙というように、その範囲を絞り込む言葉を伴って成立するということです。

また、私がネットで検索した、ブリタニカ国際大百科事典によれば、「ある一つの国語、方言あるいは作品などの単語の総体。個人においては、聞いたり読んだりして理解できる単語が、実際に話したり書いたりするときに用いる単語より多く、前者を理解語彙、後者を発表語彙という」というように、語彙は単語であり、理解できる語彙のなかに、使える語彙が含まれていることがわかります。

ただし私の解釈ですが、発表語彙のなかでも、話し方の語彙においては、語彙というのは単語だけでなく、言い回しまで含まれる、具体的には、こういう状況で、こんな効果的な表現ができる、というバリエーションこそ、話し方の語彙なのだろうと思います。

では、理解語彙と発表語彙、両者の違いについて考えてみます。発表語彙が、理解語彙に含まれるのは、すぐにわかりますよね。理解、認識していなければ、文字で表したり、発言したりできないからです。

そして、理解語彙のうち、ほとんど発表語彙にならない言葉も存在します。著述や会話などで、使うチャンスがほとんどないものもありますよね。さらに、文字で書くことはあっても、口にすることがまずない言葉もあるでしょう。

そう考えますと、当然のことながら、理解語彙>発表語彙>話し方における発表語彙、ということになります。

発表語彙のなかでも、話し方における発表語彙が少なくなる理由は、まず第一に、会話など、言葉を音声にする機会においては、文字にするような場合と比べて、話の内容の範囲が極端に狭いということ。

誰も日常的に、ヒメカツオブシムシの生態について会話しませんけど、図鑑にはちゃんと載っています。ざっくり言うとそういうことです。

第二に、音声にしてしまうと通じにくくなる言葉もあること。第三に、音声での発表では、必ず聞き手が存在するということ。

つまり、話し方における発表語彙とは、聞き手に通じることが前提になっているんですよね。逆に言うと、聞き手に通じない語彙を豊富にしても、無意味だということです。

それなのに、聞き手に通じない、相手が理解できないような言葉を、わざと使ってしまうような話し方は、その人の品位が疑われかねません。

その話し手に対して、特に悪感情を抱いていない中立的な聞き手ならば、

そういう部分はスルーしておこう、ぐらいの印象にとどまるでしょうが、ちょっと批判的な精神を持った聞き手にとっては、

このような、話し手の下心が見え見えの、とても恥ずかしい状態になっていると、認識しておいたほうが良いでしょう。

もっとも、その相手が、ほんとうになーんにも考えていなくて、聞いた話を鵜呑みにすることに慣れている聞き手であれば、「そんな言葉を知っていて、すごいな!」と、無条件に尊敬してくれたり、話の本旨を曖昧にしたまま、煙に巻くことはできるかもしれませんが…。

ここで注意しなくてはならないのは、世の中で言われる語彙という言葉は、そのあたりの線引きが厳密ではなく、なおかつ、語彙は大事、と考えている人々までも、その語彙という言葉を曖昧なまま認識してしまっている、ということです。

どういうことなのかと言いますと、例えば書店へ行って、スキル、ビジネス、啓発などのコーナーを眺めますと、本当にたくさんの「語彙関連本」が並んでいて、いかに多くの人々が、語彙に関心を持っているのかがわかります。

ここに言う語彙とは、いったい「何のための語彙」なのでしょうか?あなたはどういう「〇〇の語彙」を求めているのでしょうか?その点を意識しないで、単語の知識だけ増やそうとしても、あまり意味がない、ということです。

実際にその語彙関連本のひとつを開いてみますと、ほんとうに、びっくりします。私もこれまでの人生で、一度も口にしたことのないような言葉がずらりと並んでいて、なかには、意味すら知らない単語もいっぱいあります。

こういう語彙関連本が、売れ筋として平積みされているわけですから、日本にはものすごく勉強熱心な方が、多いのでしょうね。先述のように、理解語彙が多ければ、国語のテスト問題を解いたり、人の話や書物の意味の理解に役立つことでしょう。

でもそういった語彙と、自分が話すときの語彙を混同してしまい、国語テストのような語彙関連本で、話し方の語彙を増やそうとしても、自分でも初めて知るような言葉を、覚えられますか?使えますか?ましてや、それを聞いて、相手が理解できますか?…ということなんですよね。

いっぽうで、私が話し方のレッスンのなかで質問したり説明を求めたりしたときに、生徒さんが、何と言ったらいいかわからなくなって、言葉に詰まった時、みなさん、「語彙が足らないんです!」とおっしゃいます。

ここにいう語彙とは、どういう性質のものなのでしょう?理解語彙、つまり知っている単語を増やしても、おそらくこの問題は解決しませんよね。この場合に求められているのは、「知っている単語の中で、適切に今の頭の中を表現する方法」なのではありませんか?

もちろん、「使える言葉を知る」とか「便利な表現をテンプレートとして持っておく」ことも大事ですけど、もっと必要なのは、その都度、適切な表現を「ひねり出す」能力なのではありませんか?

つまり、厳密にいうと、語彙の問題ではないのですが、これを語彙不足と誤認したまま、新しい単語を覚えようとしてしまう…これは時間の無駄なんですよね。

image by: Shutterstock.com

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アナウンサー歴30年、極限の環境で話し続ける著者が、実体験から会得した「話し方のコツ」を理論化。人前で話す必要がある人の「もっと〇〇したい」に、お答えしています。一般的な「話し方本」には無い情報満載。

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